第1部関ケ原激闘編37「大阪城二の丸」
10月4日早朝、本多忠勝と真田信幸は大阪城二の丸にいる家康
に謁見するため京都を出立した。
小松姫と正英はまだ格闘しつづけていたが、忠勝は無視するこ
とにした。
午後には大阪城二の丸で忠勝と信幸は家康に謁する。
家康は忠勝の後ろに信幸の姿を見て、
「お前ら二人、信州の真田父子 (おやこ)の命乞いに参ったか」
といった。
忠勝は、
「さすがは大殿、察しが速い。命乞い、お願い致す」
と言い返す。
「ならぬ」
家康は厳しく言い放った。
「ならぬか」
忠勝がまた言い返す。
「ならぬ、ならぬ、ならぬ。いいか忠勝、真田父子は、戦いのみ
を好む者よ。生かしておけば、乱をたくらむに相違ない」
何で家臣に自分の裁きの説明をせねばならぬかと思いながら、家
康は忠勝が切れたときの恐さを知っているだけに、諭すようにいっ
た。
「ならぬか」
忠勝は家康の言を無視するように同じ言葉を吐いた。
さすがの家康も、その横着な忠勝の物言いに腹を立て、
「真田父子には切腹しかない」
と忠勝の眼を見据えながら言い切った。
家康から睨まれて、たじろぐ忠勝ではない。
気合をこめて家康を睨みかえしながら、
「殿はわしを、また信幸をどう考えておるか」
と問うた。
家康は、
「おぬしがどれくらい、わしのために働いてきたか。わかってお
る。信幸もおぬしの娘をわしの養女にして嫁がせた男よ。徳川のた
めに生きてくれていると思うておる」
と答えた。
以下38に続く。




