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琵琶湖伝  作者: touyou
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第1部関ケ原激闘編34「祝言」

 二起脚とは二段蹴りともいうべきものだが、左足を

蹴りあげながら上方に跳ね上がり即座に右足を蹴りだ

す技である。

 一七五センチの真田信幸に対し小松姫は一六〇セン

チであり、背の高い相手を倒すため小松姫は跳ね上がっ

たとき、前方に蹴りだした左足を信幸の膝の上に乗せ、

右足で信幸のみぞおちを蹴ったのである。

 当然、眼にも留まらぬ早業であり、信幸は一瞬の内

に失神することになった。

 信幸が意識を取り戻したのは、本多忠勝の屋敷で、

眼の前で父昌幸と忠勝が酒を酌み交わしている最中で

あった。

「お気づきになられましたか」

 布団に寝かせられた信幸に、覗き込むように優しく

微笑む娘がいる。

「おぬしは」

 と問うと、

「小松」

 と名乗った。

 布団から上半身を起こすと、

「お目覚めか」

 昌幸が声をかけ、

「娘が面目ないことを」

 忠勝は謝りの言葉をかける。

「こいつは子供のときから武術好きで、わしもさまざ

まな技を教えてきたが、ここ二、三年男を見ると技を

かけだして、家中のものはわかっているので、それな

りに対応してきたが、今日ほどこの娘を情けなく思っ

たことはない。信幸殿、どうかお許しくだされ。」

 忠勝は深々と頭を下げる。

 信幸の傍らの小松姫も頭を下げる。

 信幸は、

「我が武芸の未熟さよ」

 と笑ってその場は収まることになった。

 次の日の朝、真田父子は信州に帰っていったが、そ

の二日後、井原正英は小松姫から呼ばれる。

 四歳年上の正英は小松姫にとっては幼い頃からの武

芸仲間であり、気楽に何でも話せる仲である。

 用件は、信州に詳しい正英に真田信幸に自分の手紙

を届けてほしいというものであった。

 耳たぶまで真っ赤にしながらの小松姫の頼み事に、

二つ返事で正英も受けた。

 といっても正式な本多家の文書などではなく、表立っ

て動きにくいことに悩んだ正英は戸沢白雲斎の下で修

行した際に出会った白雲斎の直弟子で真田一族にも知

り合いの多い猿飛佐助に相談した。

 佐助は笑って、俺がいってやろうと気楽に応じ、信

幸に持っていったところ、なんと小松姫の手紙を読ん

だ信幸は、返信をしたいのでと、信幸の手紙を持って

いくように頼まれ、今度は猿飛が正英に相談をする。

 当然正英は猿飛から手紙をあずかり内密に小松姫に

わたす。

 その数日後、また小松姫が顔を赤らめ、信幸への手

紙を正英にわたす。

 そして正英は猿飛に。この小松姫と信幸の文通とも

いえるものは一年半以上続き、さすがの井原正英も尋

常ではない続き方に、忠勝に相談した。

 忠勝は小松も女であったかと喜び、恋の相手が真田

信幸なら最高の相手だと、我が娘の眼の高さをほめ、

その恋、成就すべしと作戦を立て、駿府城の家康を訪

ね、小松姫と信幸の文通の話をする。

 家康は真田信幸の才能を高く評価していて、その話

にわが意を得たりと喜び、わしの命令として縁談を急

がせようと忠勝にいった。

 さらに小松姫を家康の養女にして徳川家の資格を与

え、どれくらい徳川と本多が真田信幸を徳川家の一員

として請うているかをしめした。

 そこまでの誠意を見せられた真田家としても、もと

もと信幸が小松姫に恋心を抱いていたこともあり、縁

談の申し入れを断る理由もなく、次の年89年の二月、

駿府城内で、真田本多そして徳川の祝いの席が盛大に

催された。

 真田信幸二十四歳、小松姫十七歳であった。

 駿府の宴が終わって一週間後、真田家へ嫁ぐ小松姫

の行列が駿府を出立した。

 上田城に入ったあとは、本丸で婚儀、その後、二の

丸の信幸の館に、信幸が先導し小松姫を案内した。

 二人きりで奥の寝所にに入り、すでに敷かれている

布団の上に二人は座った。

 小松姫の体が微妙に震えているのを見て、寒いのな

ら乱取りでもして一汗かきますかと信幸が冗談をいう

と、小松姫は、

「今からあなたと心も体もひとつになり、真田の女と

して生きていくことの喜びに体がうち震えているので

す」

 と殊勝なことをいった。

 その言葉を聞くか聞かぬかのうちに信幸は、小松姫

の肩を抱き寄せ、

「こちらこそよろしく頼みます」

 という。

 小松姫は甘い感覚のなかで、人生という書物の一枚

目がめくられるのを感じていた。


 以下三十五に続く

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