第1部関ケ原激闘編21「両雄激闘」
「撃て」
豊久の号令とともに熟達の佐土原衆の鉄砲が一斉
に火を吹いた。
わずか二十メートルまで引き寄せての発砲である。
先頭を駆ける本多の騎馬武者は或る者は落馬し、
或る者は馬上で絶命する。
右手に槍を持つ忠勝は弾丸が銃口から発せられる
のを見ると、手綱を持つ左手のみで馬を跳躍させ、
豊久らの頭上を越えてゆく。
「この者は、わしに任せろ」
豊久がいうや、他は全員、本多隊に突撃していっ
た。
忠勝を乗せた馬が豊久の背後五メートルほどに降
りた時、豊久の刃先が馬の両後脚を切断する。
ドッと馬は倒れ、忠勝は前方に飛ばされる。
飛ばされた忠勝は宙で一回転し、地面に着地する
直前、槍を振り敵を牽制する。
豊久が忠勝の着地時を狙い、迫っていたのだ。
忠勝の牽制の槍は、偶然、豊久の顔面を襲った。
豊久は身を低くし前方の地面に二回転して難を逃
れる。
その結果豊久は忠勝を追い越す形となる。
豊久はほとんど高低差のない緩やかな下り坂を背
にし、忠勝は槍を正面に構え下りの側の豊久に対し
たのである。
両者の眼があった刹那、間髪を入れず、豊久は両
手で持つ刀を、右斜め後方にかつぎながら、突進し
た。
「ちぇすとー」
必殺の気合を放ち、刀を振り下ろす。
忠勝は長槍を渾身の力をこめて豊久の胸めがけて
突き出す。
豊久の胸を突き刺したかに見えたその槍の穂先は、
一瞬の内に切り落とされ、坂道を転がってゆく。
豊久の案は見事に的中した。
豊久は一撃必殺の剣を振るうように見せて、一の
太刀 (たち)で槍の攻撃力を奪い、二の太刀で敵の左
頚動脈を一気に断ち切る作戦を即座に立てていたの
だ。
穂先を切られた忠勝は一瞬呆然となってしまった。
穂先を斬られるなど、三十数年前に井原正英の父、
英刀にやられて以来なかったことである。
「まさか」
忠勝が思ったとき、すでに豊久の二の太刀が忠勝
めがけて振り下ろされていた。
以下二十二に続く
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