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琵琶湖伝  作者: touyou
199/208

第三部江湖闘魂完結編百九十五「魔王の正体」

小説家になろう」の2007年1月1日からこの12月までで、歴史ジャンルのアクセスの数はこの琵琶湖伝がナンバーワンでした。何とアクセス一位回数三六二回。三六二回も1位にしていただいた読者の皆様に感謝します。

    第三部江湖闘魂完結編百九十五「魔王の正体」


 仏教の世界観においては「三界」という概念があるが、「欲界」

「色界」「無色界」から成り、欲界は欲望の世界、色界は物質世界、

無色界は精神世界をあらわし、また欲界は六欲天、色界は十八天、

無色界は四天に分けられるが、欲界の第六天つまり最上階に住んで

いる欲界の支配者が第六天魔王なのである。

 日本史の中で、第六天魔王と呼ばれた者は二人しかいない。

 二人とも仏教の聖地、比叡山を焼き討ちにした人物である。

 一人は室町幕府の第六代将軍足利義教 (あしかが よしのり)であ

り、その最期は幕府の重臣赤松氏の酒宴の招きに応じて、少数の側

近を伴って赤松邸に出かけ、祝宴の最中に赤松家の暗殺隊に襲撃さ

れ、斬首の憂き目にあっている(嘉吉の乱)。

 もう一人は織田信長であり、義教の横死と似て、京都本能寺に少

数の側近と宿泊しているところを、重臣明智光秀に襲撃され生涯を

閉じる。

 二人が叡山を焼き討ちする直前に、「紅風」が吹き、また二人が

虐殺される数時間前にも吹いたという。

 まさに、「紅風」、恐るべし。

 悪魔が来たりて風を吹く。


 浪路の脳裏にも当然ながら、義教と信長の名が浮かんだ。

そしてさらに具体的に夢の内容を知るために、無量の福徳と知恵を

をもって人々の願いを成就させてくれる虚空臓菩薩 (こくうぞうぼ

さつ)を呼ぶべく、左手を大きく開くと親指と人差し指で輪を作っ

て印を結ぶと、その輪を胸につけ、右手の鈴を軽く振った後、

「オン・バサラ・アラタンノウ・オン・タラク・ソワカ」

 と新たな呪文を唱えたのである。

 すると鏡の中の紅風が吹き払われ、雲のかなたから左手にどんな

願いでもかなえるという宝珠を持ち、右手に剣を持って頭には五体

の仏をいただく宝冠をかぶる虚空臓菩薩が出現し、次第にその姿が

鏡の中で大きくなり、鏡に大写しになった瞬間、姿は消え、あとに

は二人の人物が現れていた。

 一人は上座に座り、もう一人は下座にいる。

 上座の人物は、がっしりした体型で、目鼻立ちが整い、威厳を感

じさせる雰囲気を持っている。

 上座の周りには、多くの旗が立てられていて、その旗印は永楽通

宝であった。

 その人物が下座の人物に何かを語っているようで、下座の人物は

ひたすら筆を動かして書きとめている。

 背中越しのため、下座の人物の表情は、はっきりとはわからない。

 しばらくすると、作業が終わったのか、下座の人物は笑いながら

振り向き、書き物を手前に示した。

「天翔将星記 (てんしょうしょうせいき)」という文字が見えた。

 そして笑っている人物は・・・・・・浪路の父であった。


 鏡には正面のろうそくの炎以外は映っていない。

 鬼道は終わったのである。

 第六天魔王は室町幕府の第六代将軍足利義教か織田信長かの解答

はでた。

 父と同じ時代を生きているからには、織田信長である。

 永楽通宝は信長の旗印なのだ。

 そして、おそらく、夢にでた白馬は信長の化身であり、白馬が消

えて残った鈴を食べて大きくなった猿は、織田家を乗っ取り天下人

になった文字通り「サル」といわれた豊臣秀吉。

 ただ鈴が織田家なら、猿田彦命の化身の猿が秀吉猿から鈴を吐き

出させたのは、織田家を元にもどせということか、いや織田家は何

人か信長の子孫は残っているが、すでに信長の時代のように天下を

治めきれるはずがない。

 天下人の鈴を豊臣から他の者に与えよということだろう。

 今の情勢で天下を治めきれるのは徳川家康。

 しかし、その鈴を、永楽通宝の文字が浮かんでいる鈴を猿田彦命

は琵琶湖に投げた。

 さらに「天翔将星記」とは何か。

 そこまで考えたとき、浪路はわずかだが、心のそこから怒りのよ

うなものがこみあげてきた。

(父は全てを分かっていて、自分を試していたのだ)


 浪路はどっと疲れがでてきた。

 己の鬼道の修行にはなったが、すべて父の掌の上で踊らされてい

る気がしたのだ。

 明日の朝は父に小言の一つでも言おうと考え、小屋から出ようと、

ろうそくの灯を消そうとした。

 其の時、鬼道が終了したはずの鏡にろうそくの炎以外の景色が映

し出されたのである。

 浪路は何者かの念がこの鏡に、この青影神社に飛び込んで来たの

だと思った。

 それも自分の霊力と同じかそれ以上の者だと即座に判断した。

 でなければ、自分の鬼道の鏡に自分が念じた以外の景色が映る訳

がないのだ。

                         百九十六に続く


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