表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琵琶湖伝  作者: touyou
198/208

第三部百九十四「鬼道師と第六天魔王」

  第三部江湖闘魂完結編百九十四「鬼道師と第六天魔王」


 真島仁斎が、娘の浪路にいった「鬼道 (きどう)」とは何か。

 鬼道の語源は古く、三世紀末にに書かれた「三国志」の中の

「魏志倭人伝 (ぎしわじんでん)」で、当時の日本の国の一つ

邪馬台国を治めていた女王についての記述中、「卑弥呼 事鬼

道 能惑衆(卑弥呼は鬼道につかえ、衆を惑わす)」と述べら

れている。

 「鬼道」とは「祈祷」のことである。

 卑弥呼は当時の中国に貢物をしており、そのときに中国を訪

れた倭人の言葉を中国人は当て字で記録したのだ。

 「きどう」は、「きとう」と似ているし、「やまたいこく」

は「やまとこく 大和国」とも似ている。

 たとえば現在でも、「コカコーラ」は「可口可楽 中国音で

コーコウコーラ」というように当て字が使われている。

 「鬼道」は現在の中国音では「クィタォ」であり、「キトウ」

の当て字で使われたといってもなんの違和感もないであろう。

 そして、青影神社の巫女にして宮司の娘、真島浪路は鬼道の

達人なのであった。


 午後九時、昨晩の夢を解読するために、浪路は巫女姿に、不

動明王と書いた白はちまきを額に結んで、右手に神楽舞(かぐ

らまい)を巫女が舞うとき手に持って鳴らす神楽鈴、左手にろ

うそくを持ち本殿の前までゆくと、その傍らの雑木林の中の細

道に入り、しばらく進むと三メートル四方の粗末な小屋にあたっ

た。

 浪路が鈴を軽く鳴らすと、小屋の板戸が静かに開いて、浪路

が小屋に入るとすぐに閉まった。

 中は土間のみであり、ただし中央に一メートルほどの高さの

ろうそく立があり、そこにろうそくを立てると、ろうそくの灯

で部屋がぼんやりと明るくなり、ろうそく立の向こうに直径五

十センチほどの鏡が現れてきた。


 浪路は、生まれながらの巫女ではない。

 もともとは幼きより父の元で風水を学び、さらに十歳のころ

には本人の要望で高野山に入り真言密教の修行にいそしむと同

時に、美里村表家に使える鬼道師小山太兵衛のもとで鬼道も学

んだのである。

 五年前の十八歳のとき、父が青影神社の宮司になるのにとも

ない、山を下りて父とともに、青影神社に来たのである。

 神社に来てすぐに浪路は、大地の気を噴出させそのエネルギ

ーを己のものとして霊力を高め、その力を琵琶湖近辺の人々の

ために活かそうと考えた。

 風水では伝説の山、中国最奥部の崑崙 (こんろん)山が全ての

大地の気、つまりエネルギーーの源であり、そこから流れ出た

気を集め噴出させる場所を「(けつ)」という。

 その穴の場所として、この小屋を浪路は作ったのである。

 また、この地上の山地や河川はすべて天空に住む四霊獣(青

龍 (せいりゅう)、白虎 (びゃっこ)、朱雀 (すざく)、玄武 (げ

んぶ))の具現化であり、それぞれの獣が七つの宿(星座群のこと)

を支配し、その合計である二十八宿を我が物とすれば、わが身

の周囲に結界が張られ、気の力も散逸せず悪霊も阻めることか

ら、小屋の内部の壁には、東西南北を司る四霊獣と二十八宿が

描かれている。

 すなわち、東の壁には青色で七面の星宿を描いて青龍とし、

西は白色の七面で白虎、南七面を赤色で朱雀、北は黒色で玄武

の力を示したのである。

 そして天井一面には、正八角形を黄色で描いて、全宇宙を構

成する「太極」を配置した。

 具体的には、正八角形の真上を南としてそこから各辺を順に、

西南、西、西北、北、東北、東、東南の文字で印し、中央に中

宮と印した。

 この布陣は、高野山美里村の表家に伝わる九星気門法と呼ば

れるもので、この理法を会得した者は、「鬼道」を縦横無尽に

あつかえるのであり、浪路はその一人なのであった。


 ろうそくの灯と鏡の前に、仁王立ちになった浪路は、

「オン・ノウキシャタラ・ニリソダニエイ・ソワカ」

 と星座二十八宿の呪文を唱えながら左手で拳をつくり、それ

から人差し指と中指のみを立たせ、その二本の指の腹を静かに

胸にあて、印を結んだのち、瞑想状態にはいり、数分後右手に

持っていた神楽鈴を腰のあたりでゆるやかに振った。

 チャランと音がして、それと同時にろうそくの炎が次第に大

きくなり、するすると天井まで上がり、すぐに元の小さな炎に

もどった。

 浪路が、うつろな眼をあけると、鏡の中は無数の紅の旗に占

められていた。

 風が吹いているのか旗はたなびいていて、紅の波を作ってい

る。

 数秒後には鏡全体が紅に染まり、旗そのものはどこかに消え

去って行った。

 空間の全てを紅に変えるこの「紅風」こそ、インドの仏教書

「マーカリナーバ」にある「第六天魔王」の象徴であり、その

書では「紅風」が起こるところ「第六天魔王」が出現するとい

われている。、

 第六天魔王とは、仏道修行を妨げる魔の王 (マーラ)のこ

とである。

                      百九十五にに続く


PCのみですが、私は縦書きで読んでます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ