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琵琶湖伝  作者: touyou
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第三部江湖闘魂完結編百八十五「琵琶湖の岸」

   第三部江湖闘魂完結編百八十五「琵琶湖の岸」

 朝の陽光が木々の紅葉を美しく輝かせる十一月十六日の

午前八時、正英と良之介は高西暗報の墓に詣で、弔ったの

ち、高明寺を出立した。

 高虎や兵庫助が、昼ごろまでとどまるというので、先に

出たのである。

 霧隠才蔵も京都市中までの供となった。

 自然に話は、暗器師集団の頭領で雄一残っている烏丸中

将成幹のことになった。

「烏丸中将様の剣は毘沙門天の化身かと思わせるもので、

我が眼前でみすみす喜市包厳様を死なせることになり、我

が手でその敵討ちをしたいと、今は念じています」

 霧隠はどこをみるともなく悲しげに言った。

「伝教大師最澄様創出の独鈷比叡剣の使い手だ。一子相伝

の秘技で見たものはほとんどいないといわれているが、如

何なるものだったのか」

 正英が霧隠に問う。

「まさに飛燕。地上から空中まで縦横無尽に駆け巡り、そ

の速さはまさに神技でした」

 悔しそうにいう霧隠に正英は、

「金地院様の警護に我らは京に来た身なれば、まだ京に残

りたい気持ちはあるが、残る敵は烏丸のみ。所司代の方々

の厳重な警護があれば、如何な魔剣の使い手でも一人で何

ができようか。そう考え、京を離れることにした」

 というと、良之介が、

「柳生衆も家康様ご上洛まで所司代に残るそうだから、心

配はない」

と付け加えた。

「実は家康様ご上洛の先遣として我が伊賀者の頭領服部半

蔵が、五十名の家臣と大津近くに到着したという報告があ

りました」

 霧隠の言に正英も良之介も満足げに頷いた。


 京に入ったところで霧隠と別れた正英らは山科を越え、

大津に入るのだが、ここで良之介が雑賀孫六から渡されて

いた文を見せた。

「瀬田の唐橋近くの舟宿「かいなん」で定吉の指示に従え」

 と書かれていた。

「かいなん」は大津における桑名藩お耳役の隠れ宿で、定

吉も当然だがお耳役である。

「正英様、私たちはお香さんに京の仕事が済んだら堅田に

行くと約束しましたよね(百七十三「柳生兵庫助」参照)。

ただ二人で行くこともないと思いますので、正英様はお香

さんの許に向かってください。私は、「かいなん」に行っ

て、孫六様の指示の有無を確認して、なければ宿にしばら

くいようと考えています」

「そうだな。太田様を探すためにお香は堅田に戻ったのだ

し、そう危険もあるまい。すでに家康様の上洛が迫ってい

るなら、何らかの命令が孫六殿からあっても不思議ではな

い。第一、二人で行ったらお香はもう太田様を探して堅田

にはいなかった、何てこともあるかもな。そうなったら、

貴重な時間を無駄にしてしまうし」

 正英は、大津で別れて別行動をとろうという、良之介の

提案に納得し、一両日中に「かいなん」に行くことを良之

介に約して、一人堅田への道をたどって行ったのである。


 正英と良之介が山科の道を大津に向かって歩んでいるこ

ろに、堅田では浮御堂の湖岸にお香と父、岡本邦源の姿が

あった。

 前日に戻ってきたお香から、太田牛一の所在を聞かれた

邦源はお香にその理由を尋ねた。

「信長の遺書」の行方を求めて、太田を探すうちに牧羊和

尚から父の名を言われたと素直に事情を話した。

「牧羊様もおしゃべりな」

 と笑ったが、娘が意識するか否かに関わらず、「信長の

遺書」を探すという危険な道に入り込んでしまったことを

知って、内心はお香を案じ、太田の所在を教えるべきかに

悩んだのである。

 一晩考えたのちに邦源は、次の日の午前にお香を浮御堂

に呼んだ。

 浮御堂に渡る小さな橋の傍らに立った二人は、陽にきら

めくさざなみを見つめていた。

 その湖岸の二人の足許には、小舟がつながれている。

「お香、一度太田様に会うのも勉強になるだろう。ただし、

遺書のことはわしから話す。お前からは何もいうなよ。そ

の約束が出来るなら、この舟で今から太田様の許に連れて

行こう」

 邦源の言葉に、お香は深く頷いた。

 其の時、背後から声がかかった。

「拙者は、井伊家侍大将石黒将監と申す。岡本邦源様とお

見受けいたす。太田牛一様の所在について、少々お尋ねを

したいのだが」

 二人が振り向くと、三十名ほどの浪人風の者どもがいて、

そのうちの七人は火縄銃を持ち、邦源とお香にその銃口を

向けていたのである。

                       百八十六に続く


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