第1部関ケ原激闘編18「追撃の行方」
「どうなってんじゃ」
本多忠勝が、いらだたしげに怒鳴る。
前方の井伊の部隊が停滞状態となり、
本多隊の動きが封じられたのだ。
忠勝は雑賀孫六を調べにやると、井
伊家家老木俣守勝が直接、事情を告げ
にきた。
木俣守勝はもともと三河者で、忠勝
と旧知の間柄である。
「これは、腹黒さまのご家老ではない
か」
忠勝がからかうと、
「はらぐろ、ではなく、いい、でござ
るぞ、忠勝様」
木俣守勝はたしなめるように答え、
本題を告げる。
「忠吉様が島津に撃たれ、御負傷。命
に別状なしとはいえ、その身を案じ、
直政様は介抱のため、進撃を中断され
ております。」
「結局、島津より、家康様の息子さま
か。点取り虫らしいな。しかしわしゃ、
徳川のためにここで愚図愚図できん。
忠吉様のためにも島津義弘を殺すしか
ないだろ。守勝はどうじゃ」
と問い返した。
「わたくしも、忠勝様と同じ…」
真面目に木俣守勝が答えかけようと
すると、突如、忠勝が叫んだ。
「本多隊、出発。全力で駆けるぞ」
皆に呼びかけ忠勝自身、馬を走らせ
始める。
あまりの急展開に木俣守勝があっけ
に取られていると、さらに、忠勝が井
伊の部隊に怒鳴った。
「井伊家家老、きまたもりかーつ。忠
吉様の仇をうーつ。どけどけーい。家
老の行く手を邪魔するか。馬鹿者、どけー
い」
後ろから、家老(忠勝)に怒鳴られて、
井伊の騎馬武者たちも道をあけるため、
路傍に寄る。
あいた中央を本多隊が駆け抜けてい
く。
木俣守勝も、木俣守勝って、二人い
ないよ。
今叫んだの、本多忠勝っていう人だ
けど、と内心思いながら、条件反射的
に本多隊を追う。
忠勝はすぐに井伊隊の先頭にたどり
着き、地面に横たわり手当てを受ける
松平忠吉とそのそばに座り、心配そう
に忠吉を見つめる井伊直政に応対する。
小走りに馬を進めながら
「忠吉様、大丈夫か」
「忠勝か。今から本陣に戻るところじ
ゃ」
「うんうん、それがようござる。忠吉
様、仇はこの忠勝が討ちますぞ」
やさしくやさしく忠吉に声をかけ、
井伊は無視して、
「では」
といい、馬にムチをいれ駆けていく。
駆けながら前方の忠吉の部隊に、
「のけー、のけー、わしは井伊直政な
るぞ。忠吉殿の義理の父じゃ。のけー
い」
と叫び続ける。
「義理の父」と聞いて忠吉隊はすぐ
に道をあける。
本多隊は進撃の速度を上げた。
「お父上、本多様は冗談がお好きです
な。わしは井伊直政なるぞなどと」
「忠吉殿。忠勝様は、頭のネジが少々
ゆるんでおりましてな。病気が移ると、
みんな忠勝様には近寄らないんですよ
・・・・・ホホホ」
と仏のように井伊直政は笑う。
横目で忠勝を追いかけてきた木俣守
勝の姿を見、ゆっくりとふりかえる。
ふりかえった直政はすでに悪鬼の形
相で、つぶやくようにいう。
「守勝、何をしている。島津を討つの
は井伊の仕事。わたしもすぐに行きま
す」
木俣守勝は己の家臣団を率い、急ぎ、
本多隊を追うのであった。
以下十九に続く
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