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琵琶湖伝  作者: touyou
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第三部江湖闘魂完結編百六十六「嵐山竹林の決闘」

 砕け散った竹の一部は、猿飛自身に向かい、猿飛をあわ

てさせた。

 そのスキに、お香は左手の竹に垂直に走りながら上がっ

ていく。

 上がりながらお香は指笛を吹いた。

 その指笛の音はもし誰か聞こうとする者がいたなら、首

をひねったであろう。

 なぜなら全く音が出ていない感じがするのだ。

 しかしお香は必死で指笛を吹いている。

 この指笛から出ているのは、超低音波であり、人間の耳

には聞こえないのだ。

 お香は、琵琶湖周辺や京都の山中に潜む大鷲を呼ぶ術を

持っている。

 それは、翼を拡げた幅が、十メートルもあろうかと思わ

れる大鷲である。

 脚も太く、人間が乗ったり脚につかまったり、十分でき

るくらいの「大物」であり、それを呼ぶ理由は,当然この

竹林から逃げるためである。

 そして今、お香の指笛から発せられている超音波は、大

鷲のみに聞こえ、大鷲を京都周辺から発進させつつあるの

だ。

 一方、一瞬ひるんだ猿飛だが、すぐさま傍らの竹に体を

預けその弾力を利用して、軽やかに空中に飛び、お香が上

がっていく竹から六メートルほど離れた別の竹のてっぺん

の、わずかな幅の節の上にあぐらに座った。

 お香はそのまま竹のてっぺんに立って猿飛に応対した。

 猿飛は赤ら顔をさらに赤くして、

「お香、強くなったな。白雲斉様が亡くなられて四年、無

駄に過ごしてはいなかったことが分かって、うれしいぞ」

 と兄弟子の態度を示した。

 お香は無言で軽く一礼したが、その刹那、お香に向かっ

て猿飛は飛び上がり、抜き打ちに切り掛った。

 お香は何とか右横の竹に飛び移ったが、さっきまでお香

が立っていた竹を猿飛は左手で握りながら、右手の刀で横

殴りに襲った。

 お香は両足を竹にからませ頭を下にして、竹の中程で逆

立ちをしたような格好になりながら、何とか猿飛の刀をか

わした。

 猿飛はお香が無防備な格好になったのを見るや、フワリ

と空中に浮き、大上段に刀を振り下ろし、お香の竹を先端

から真っ二つに切り裂いていく。

 そのまま猿飛の刀が振り下ろされていけば、お香の股は、

体は、二つに分かれることになる。

 両足をからめて何とか竹にすがり付いていたお香は、急

いで地面に落ちていく。

 一瞬遅く猿飛の刀は、さっきまでお香がいた場所を通過

しそのまま地面にまで達し、その竹は二つに分かれながら

倒れた。

 お香は地面を三回転したのち、片膝立ちで猿飛に対峙す

る。

「兄さん、私を殺して楽しいのですか」

 お香は、猿飛の背中越しに、口許に笑みを浮かべながら

問いかけた。

 猿飛は刀を鞘に納め、油断なく振り向いて言った。

「幸村様の名を出したからには、天下最強の兵法書信長の

遺書の行方をお前が言わぬなら、俺はお前を殺すしかない。

俺は幸村様の家臣なのだ。幸村様が遺書を探していること

が、徳川方に分かれば、幸村様に徳川は死罪を命じよう。

そしてお前は恐らく徳川の犬だ」

「正確には徳川ではなく、本多の犬よ」

「同じではないか」

「誰にも兄さんが遺書を探していることを言わないわと言っ

ても、信用しないよね」

 お香は寂しそうに言った。

「すまんが俺にとって幸村様の夢を叶えさせることは、そ

れ自体が俺の人生なのだ。今の俺の生きがいだ。幸村様は

豊臣の財力を利用して兵を集め、徳川と決戦したいのだ。

そのために信長の遺書が必要になっている。お香よ、教え

てくれぬか」

 猿飛は猿飛の論理をお香に言う。

「兄さん、そんなに日本の民を不幸にしたいの。家康様以

外の誰が日本を平和に出来るの。幸村様は戦には強いかも

知れないけど、信長の遺書を手に入れ、たとえ家康様に勝っ

たとしても、その後はどうなるの。幸村様や豊臣の人達に

統治能力はあるの。日本を平和にして、民の暮らしを保証

していく力はあるの。あるわけないよね。日本をまた戦乱

の世に戻すような愚か者の中に、兄さんは入りたいの」

 お香は落ち着いた声で、淡々と自分の意見を述べた。

「お香よ、理性的にはお前の考えは俺も拒否は出来ぬ。だ

が、世の中は「理」のみではない。俺は、幸村様のためな

らいつでも死ぬ覚悟は出来ているし、俺は日本一の戦術家

真田幸村の家臣であることに、誇りを持っている。幸村様

の下で俺は戦いたいのだ」

                  以下百六十七に続く


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