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琵琶湖伝  作者: touyou
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江湖闘魂完結編百六十三「京の再会京の紅葉」

第三部江湖闘魂完結編百六十三「京の再会京の紅葉」

「四時我を待って変化し、万物我を待って発生す」という

牧羊の一年前の教えを思い出しながら、お香は長岡からす

でに日の暮れた京に戻った。

 宝岩院に今から行くことにお香は躊躇した。

 夜半に急用と牧羊和尚の許を訪ねるのは、武林の先輩へ

の礼を失していると思った。

 一年ぶりの用件が、日本の平和のために太田牛一様の行

方を捜していますではあまりに荒唐無稽で、笑われそうな

気もしたのだ。

 どうせ笑われるのなら、朝の太陽の下で笑われたかった。

 恥ずかしさを太陽の光が消し去ってくれる気がお香には

したのだ。

 京には堅田衆が常宿にしている北村屋が三条通東洞院あ

たりにあり、そこに行って旅装を解き夕餉をとり風呂に入っ

たのち、孫六が正英と良之介に金地院崇伝の警護を命じて

いたことを思い出したお香は、東山南禅寺の金地院を訪ね

た。

 東山蹴上近くの南禅寺の一角にある金地院は周囲を藤堂

藩と所司代の役人により厳重に警備されていた。

 午後九時にお香は門前の侍たちに、本多家の井原正英の

知り合いの者、是非お呼び願いたしと申し込んだ。

 門前には幸い梶川小兵衛がいて、正英を呼んでくれ、さ

らに院内の本堂の玄関先の上がり口だが座って話をされよ

との気配りまでしてくれた。

 上がり口に正英とお香が座るとすぐに良之介も来て、そ

れぞれの今日の経験を伝え合った。

 お香は坂本日吉大社、午後の勧修寺晴豊襲撃のことなど

を聞かされ驚いたが、順序から言えば次は金地院様が狙わ

れてもおかしくないと感じ、自ら争闘の場に来てしまった

ことに気づいて、緊張から思わず顔が強張った。

 その表情の変化に正英と良之介は苦笑いをしたが、お香

が警護役に参加したいと言い出したのは正英が許可しなかっ

た。

「お香はお香の役目を果たせば良い」

 と正英は言っただけである。

 お香は、ならば邪魔にならぬようにと、明日の夜も来る

ことを正英に約して金地院を出て、北村屋に戻った。

 この日の夜は金地院では何もなく明け、十一月十四日の

朝、お香は一年ぶりに宝岩院を訪れた。

 しかし折悪しく、牧羊が拳法指導に昨日からでかけ、京

都五山派の各寺を回っているため帰るのは昼過ぎになると、

留守番の老夫婦が教えてくれた。

 そこでお香は紅葉めぐりをして時間をつぶそうと嵐山の

奥、嵯峨野の大覚寺を抜けその背後に広がる竹林と紅葉を

散策し、その後戻って大覚寺に参詣する。大覚寺は、嵯峨

天皇の離宮としてつくられ、天皇退位後仙洞嵯峨院となる。

八七六年大覚寺と命名される。両統迭立時代・南北朝対立

期の大覚寺統の精神的支柱の役割を果たした由緒ある古刹

である。

 一巡りしたお香は、そのまま大覚寺横に広がる大沢の池

に回った。大沢の池は嵯峨天皇が離宮(いまの大覚寺)を

設けた時に中国の洞庭湖を模して作ったものである。池の

中に「天神島」「菊ヶ島」の二つの島がつくられている。

 また、名月鑑賞の池として古来より仲秋の名月には観賞

会が行われてきた。現在も竜頭船や観賞船を浮かべ観月の

夕べが行われている。

 池を周遊して、紅葉を味わったお香は、大覚寺から下っ

て天龍寺にむかう中間あたりにある清涼寺に行く。

 広い境内を持つ寺で茶店もあり、昼飯に湯豆腐を食した。

 その後清涼寺のすぐ側にある宝篋院 (ほうきょういん)を

訪ねる。

 この寺は室町幕府・二代将軍足利義詮の墓所で楠正行の

首塚がその右側にある。二人はともに南北朝争乱期の武将

で対戦相手であったが敵将正行を武将として尊敬していた

義詮が慕い彼の近くで眠りたいという遺言を残した。

 その義詮の法号「宝篋院」を山号として建立された寺で

寺内の楓樹は格別の美しさがある、まさに紅葉の夢世界を

歩く趣で、お香は心を洗われていた。

 しかしすでに午後二時。

 常寂光寺などの他の紅葉の名所には、先に牧羊和尚に会っ

て話し合いが日暮れ前に終わるなら行くことにして、宝篋

院からは天龍寺への道を下って行った。

 一年前と同じく、牧羊和尚は天竜寺宝岩院の参道の落ち

葉を掃いていた。

 

 以下百六十四に続く



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