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琵琶湖伝  作者: touyou
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 第三部江湖闘魂完結編百五十七「風吹峠の伝説」

 第三部江湖闘魂完結編百五十七「風吹峠の伝説」

 熊野烏であり、八咫烏 (やたがらす、やたのからす)とい

われ、日本神話で神武東征の際、タカミスビによって神武天

皇の元に遣わされ、熊野から大和への道案内をしたとされる

三本足の烏である。

 戦国時代に雑賀孫市が、陣羽織の紋にしたことで勇名をは

せた。

「アッ熊野烏」

 お香がつぶやいた。

「見たか」

「見てしまいました」

「七七年の信長の紀州攻めのとき、太田様もわしに同じこと

をいった。雑賀川で織田軍と交戦し快勝したが、織田は十万

の兵われらは五千だ。降伏を申し出たら、太田様が織田方の

交渉役として来られて、あの当時でもう五十歳だったが、武

人の風格とでも言うものをただよわせていた。出会った瞬間、

「アッ熊野烏」だというので、興味がおありかと聞くと、神社

仏閣に興味があり、将来は僧侶になり生きたいと申したな。

それで熊野烏は熊野神の使い、それなら熊野大社に行きましょ

うと二人で物見遊山だ。五日ほど飲めや歌えの大騒ぎで、そ

れから、二度と信長様には逆らいませんって誓紙を太田様に

わたした。そのあと二回、信長に逆らったがな」

「じゃ太田様とはその後は、会わなかったのですか」

「それがひょっこり来るのよ。おーい熊野行こうよなんて感

じで」

「本能寺の変で信長のぼんくらが死んで、酒がうまくてたま

らんで、毎日飲んでたときがあって、八十二年の六月だった

が、太田様が急に来た。信長様が亡くなられて武家への未練

も無くなった。天台宗の三井園城寺でずっと修行をしていた

が、真言宗の勉強もしたくなり高野山に入る途中だが、孫市

を思い出してなと。わしの屋敷に寄られたのだ」

「太田様は宗教マニアみたい」

「宗教オタクぽいところはあったな。そういえば・・・・・・」

「何かあったの」

「宗教と関係はないのだが、信長が死ぬ一年前にも来て、其

の時は珍しく、鉄砲の戦術論についてわしに詳しく聞いてき

た。いつもは、御仏はなんたらかんたらって難しい話をする

のに、その時は学生のように真剣にわしのいうことを書きと

めていた。もしかして、「信長の遺書」を作っている途中で

あったかも知れんな」

「たぶん。あと太田様のことで記憶に残っていることないか

しら」

「それからか。太田様は、秀吉の紀州攻めの直前にわざわざ

高野山より来られて、「この戦いでは昔の信長様のようにお

前を秀吉は許すまい。もし許すとしたら、お前が「雑賀」を

捨てて生きる道を選んだときだ」といわれて、もし進退に悩

んだらこの手紙を開けてくれと手紙を渡された」

「で、結局、大敗して「雑賀」として死ぬか、たんなる「孫

市」として生きるかの選択を迫られたんだ」

お香は、孫市の顔をにらむかのように真剣な眼つきでいった。

「そうマジに見るなよ。かわいいんだから。色即是空」

「手紙は」

「そう、手紙を開けたのだ」

「何てあったの」

「「生きよ」の一言と昔から親交のある天台宗の方々へのわ

しの紹介状だった」

「「生きよ」か。良い言葉だね。それで生きたんだ」

「情けないよな。みじめだよな。死ぬことも出来ずに雑賀を

逃げたのだからな。大和郡山で孫六と別れたわしは、天台宗

の聖地、比叡山で数年を過ごすことにしたのだ。それからは

亡くなった雑賀衆の冥福を祈り続ける日々だ」

「みじめじゃないよ。人にはそれぞれの天命があるの。孫市

様の使命はきっと、信長や秀吉を向こうに回して、自由な気

風に富む紀州人の意地をみせることだったのよ。孫市様は見

事にその使命を果たし、歴史から見事に姿を消してみせ、そ

して伝説になったの。世間では孫市様は、大好きな鉄砲を抱

えて、風吹峠(紀州岩出。紀州と和泉の国を結ぶ根来街道の道

筋にある)で風に吹かれて仏様のところにそのまま笑いながら

行ってしまわれたと言われているの」

「風吹峠の風に吹き消され、雑賀孫市の天命は終わり、今は

孫市としての天命を享受しているわけか」

「そうよ、孫市。君は全力で戦国を駆け抜けたんだ。己に誇

りを持ちなさい」

 お香は胸を張り、上目遣いに孫市を見ながら励ました。


 以下百五十八に続く

 ヨコ書き。この下のネット投票のクリックして一票入れてください。

 情けをかけておくんなさい。


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