第三部江湖闘魂完結編百五十二「関白九条兼孝」
第三部江湖闘魂完結編百五十二「関白九条兼孝」
勧修寺邸に板倉一行が着くと光豊が門の前で待っていた。
光豊は、父が今生死の境目をさまよっているという事態
に、さすがに狼狽しているのが焦点が定まってない、その
眼に現れていたがそれでも、
「板倉殿、父への刺客の事、そして今の父の状態を帝にご
報告し、九条様禁足の件を上奏しましょうぞ。父ほどの実
力はないとはいえ麿も武家伝奏職の一人。父が斬られた直
後のことはこの藤木より聞きました。心は動揺しておりま
すが私も日本の平和のためにその一助となりたいのです。
さあ禁裏に、帝の許に」
と力強く言い、そのまま馬に飛びのった。
「その意気でござる。父上のためにも」
と板倉は光豊の思いに応え、さらに左肩に包帯を巻いて
いる藤木陣内にも、
「警護の責任者として無念の情で心は一杯であろうが、こ
の襲撃は誰も防げないものであった。第一わずか三十名の
警護にしたのはわしだ。藤木よ、おぬしの戦いぶりは山内
から聞いた。見事の一言である。以後もこの屋敷の警護に
あたってくれよ」
といたわりの言葉をかけて出立した。
光豊と板倉の前を喜市包厳と伊賀者四名が、両側には右
に山内記念、左に井原正英が、後ろには藤堂、梶川そして
良之介がついた。
禁裏への参内は、光豊と板倉の仕事であり、他は御所の
外で待つしかなかったが、そう待つことなく光豊と板倉は
戻ってきた。
帝も勧修寺晴豊が刺客に襲われ重傷を負ったことを知っ
ていて、板倉の九条禁足を即座に了承した。
ただ九条が事件の黒幕か否かは別にしてこのような大事
件が起こること自体、九条の徳のなさであろうし、また場
合によっては九条が襲われるかも知れぬというのが、帝の
禁足お許しの理由であった。
いずれにせよ許しをもらったのであり、すぐに九条兼孝
に禁足命令を出すべく九条邸に板倉一行はむかった。
九条家の屋敷の中に上がったのは、光豊と板倉そして護
衛役として山内記念と井原正英が付き従った。
藤堂高虎も一緒に行きたいと申し出たが、
「万一、九条が屋敷内で襲ってくれば高虎様にも害無しと
は誰も言えず。またもし我らが襲撃されたときは第一の生
き証人となってもらいたい」
と板倉が同行を拒否した。
「わずか四人は少ないのでは」
喜市が不安を口にしたが、
「禁足の命令を伝達するだけ。おぬしら伊賀者がすべてつ
いて来たら、大げさすぎるのだ。殺されたら殺されたとき
のこと。晴豊様の危難に比べたら、たいしたことはないの
だ」
と穏やかな口調で喜市を諭した。
広大な屋敷の中の書院で光豊と板倉は九条兼孝に対面し
た。
正英と良之介はその書院の廊下に座っている。
小太りの体型に丸顔の顔。
その顔は白塗りであり、七福神の大黒様が座っていると
思えば間違いない。
ただこの大黒様は地獄から出てきた夜叉の化身でもあっ
た。
以下百五十三に続く
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