表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琵琶湖伝  作者: touyou
154/208

第三部江湖闘魂完結編百五十一「公家義士伝」

第三部江湖闘魂完結編百五十一「公家義士伝」

「喜市はいるか」

 板倉は所司代付きの伊賀者の責任者、喜市包厳を呼んだ。

「はっ」

 すでに記念の横に座っている。

「喜市、急いで伊賀者を集め勧修寺邸に行き、光豊様が参

内の警護をせよ。屋敷全体の警護は佐島に任せた。もしす

でに光豊様が参内しておれば、急ぎあとを追え。まだ屋敷

におられるなら、主人板倉をしばしお待ちくだされとお願

いせよ」

 勧修寺光豊は父晴豊同様に武家伝奏職であり、板倉が禁

裏に参内するにしても光豊がいたほうが帝との対面もしや

すく、また暗殺事件の当事者の息子としても一緒に帝に晴

豊の災禍を述べれば、帝もより板倉の話に耳を傾け、九条

禁足の件も了承が得られやすいだろうと板倉は読んだ。

 喜市が風のように去ると、板倉はすぐに書をしたためた。

(京に変あり、練達の士をお送りくだされ)

 板倉はそう書くと、宛名を柳生石舟斎殿とし、人に命じ

大和に出立させた。

 大和柳生の庄に住む柳生石舟斎は、この年七十五歳の高

齢であるが、日本有数の剣豪として知られている伝説の人

物であった。

 一五九四年石舟斎は家康と出会い、その剣術指南役とし

て出仕を請われたが、老齢を理由に辞退し、代わりに子の

宗矩 (むねのり)を推挙した。

 後に宗矩は、家康、秀忠、家光と三代の剣術師範を勤め、

柳生の勢威を大いに高めることになる。

 板倉は前々から大和つまり今の奈良県に住む手だれ揃い

の柳生に助力を頼みたかったが、柳生に来てもらうだけの

京都不穏の直接的根拠を欠いていた。

 しかし今日は、白昼堂々の勧修寺晴豊への愚挙である。

 もう板倉には証拠の有無などということは不必要になっ

たのである。

 晴豊は己の体を張って、板倉と反徳川の公家との全面抗

争の表面化を仕掛けたとも言えるだろう。

 板倉は、

「よし」

 と一声だすと立ち上がり外に出るや、記念を供に馬に乗

り、勧修寺邸に向かった。

 所司代を出たところで、板倉は、馬上の上で藤堂高虎と

再会する。

「晴豊様が災難に遭われたと聞きましたが」

 高虎が板倉を見るや声をかけた。

 板倉が高虎の声の方に首を向けると、藤堂高虎、梶川小

兵衛、そのうしろに井原正英と市来良之介がいる。

「まだわしは天から見捨てられてはいないようだ。高虎様、

今から勧修寺邸に向かい、その後に禁裏に光豊様と行き、

九条の禁足命令の許しをもらうつもりだ。どうじゃ、今日

はわしに付き合ってくださらんか」

 板倉は心中の不安を悟られたくないのか、できるだけ気

楽な感じの物言いをするが、口元が強張っている。

「今からお出かけの割りにお供が後ろの馬の御仁だけのよ

うだが」

 高虎は馬上から立ち上がるそぶりを見せ、大げさに供の

少ないことを強調する。

「高虎様そういじめないで下され。わが家臣たちも出払っ

て、この山内記念と申すもの一人とでかけるところ。大名

様にお願いしますのは分不相応と思いますが、よろしくお

願いしますだ。哀れなさむらいを助けてくだせぃ」

 と板倉も自暴自棄になったのか冗談めいた頼み方をしだ

す。

 高虎も板倉の心中を察し、

「参りましょうぞ。その前に板倉様、梶川の後ろの二人を

見てくだされ。二人とも本多家から応援に来てくれた者で

ござる」

 板倉は急に眼を輝かせ、

「魔導師か。おうおぬしは井原正英だな」

 と低く言った。

「そうでござる。そしてこの背の高いほうが市来良之介と

申す」

 高虎の紹介を聞くうちに板倉は眼から涙があふれだした。

「井原も市来もすまん。わしが桑名にいったばかりに、本

当につらい経験をしたであろう。よく死なずにここまで来

てくれた。わしは文弱で理屈やしがらみにまとわりつかれ、

いつまで立っても平和という門の前で、閉じられた門を開

ける工夫だけを思量し、門を叩くことも壊すことも出来ず

に夕暮れの中で途方に暮れていたのだ。そのわしが切羽詰っ

てわめきたてたことに、高虎様や本多様は耳を傾け動いて

くれた。高虎様をはじめ皆様は、平和のために命を捨てる

ことを厭わぬ方々。義侠とは愛着の断念であり、人生超越

的な倫理のために殉じることをいうが、皆様は義侠の士だ

と確かにいえる。ありがとう」

 板倉は子供のように高虎たちに向かい礼をした。

 高虎たちも黙礼する。

「ただ皆様に負けぬ義士が今日分かり申した。自らスキを

作り己の命を捨て、九条を暗殺にむかわせ、帝と家康様の

秘密会談の前に反徳川の首魁を行動不能にさせようとした

男。不借身命、天下のためには命を惜しまず。勧修寺晴豊

様こそ真の義侠の士であると思い至っております」

 そういいながら勧修寺晴豊の義侠心を思い、最後は涙で

言葉がつまる板倉勝重であった。

以下百五十二に続く

ヨコ書き。この下のネット投票のクリックして一票入れてください。

情けをかけておくんなさい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ