完結編百四十九「下賀茂神社の激闘その2」
第三部江湖闘魂完結編百四十九「下賀茂神社の激闘その2」
記念たち後方の十名は新手の刺客の方に攻撃を仕掛ける
ため突進する。
一瞬早くに二番手の刺客たちが伊賀者と晴豊の集団にす
がりつき、いっせいに太刀を振るった。
伊賀者一人が背中を斬られ倒れる。
藤木が、
「わしがここで食い止める。急いで馬に乗せ逃げるのだ」
と指示の声を出しながら、襲ってくる十人に立ち向かっ
た。
男たちが喚きながら、藤木を押し包む形になった。
藤木は背後に太刀を感じ右へ飛んだ。
そのときすでに、藤木の右手には抜いた太刀が握られて
いた。
一人の刺客が、地面を転がっていった。
藤木の太刀が鞘走った瞬間、その切先が男の脇腹を切り
裂いたのである。
藤木はすぐさま太刀を倒れた刺客の喉へ突き刺しとどめ
を差すと太刀を右腕の脇の下にかかえ込むようにして、後
ろへ激しく突き出した。
その太刀は藤木の背後に迫った男の、鳩尾のあたりへ埋
まった。
男は苦悶の表情を浮かべ、藤木が太刀を抜き取るとその
まま前のめりに倒れこんだ。
さらなる刺客が左側から斬り込んで来る。
藤木は抜群の体さばきでその切込みをかわすや、右腕
を頭上から垂直に振りおろした。
刺客は顔を真二つに割られ絶命する。
その斬られ方にたじろいだ左前方の刺客の脇腹を、斜め
下から薙ぎ、
「ウグッ」
とうめく刺客に太刀を一直線にむかわせ、下腹部に近い
部分をさらに貫いたのであった。
其の時左肩に火鉢を当てられたような痛みを感じる。
やや大きめの吹き矢の矢が刺さっていたのだ。
藤木は太刀を引き抜いたはずみで半回転したが、吹き矢
を放った刺客を見逃さず、太刀を投げかける。
太刀は刺客の胸板を貫き、男は後ろ向きにゆっくりと倒
れていった。
藤木は跳躍して、絶命した男のところに行き、己の太刀
を男の胸板から引き抜くと、吹き矢が刺さった左肩の肉を
矢ごと薄くだが削いだ。
矢の刺さったときの痛みから毒矢の恐れを感じ、肉ごと
削いで毒が全身に回らぬようにしたのだ。
振り向くと一人の同心の姿が見えた。
その同心は二人の刺客が振り下ろした刀を両手に持った
十手の鉤の部分で受け、軽くその鉤をひねって二本の刀を
へし折り、そのまま左右の十手で二人の刺客の顔面側部を
したたかに打ち、悶絶させた。
「大丈夫でござるか」
同心はそのまま藤木の元に駆け寄ってきた。
「心配無用。そこもとは」
「山内記念と申す」
そう藤木にいうと、記念は後方にむかい、
「そこの三名の方々、倒れたもので息のある曲者を捕縛して
行って下さい。あとの者は前進して勧修寺様のもとへ」
といいながら全力で駆け出す。
二番手の暗殺隊十名のうち七名を藤木と記念で制したが、
三名が伊賀者と晴豊の集団に再度追いつき攻撃をかける。
伊賀者二名が迎え撃ち、さらに後方からきた記念らの同心
たちが加わり、あっという間に三名の刺客を葬る。
残る伊賀者四名と晴豊は、馬を留めている参道の入り口を
目指し走り続ける。
其の時、数本の弓矢が晴豊に放たれた。
暗殺隊の三番手がいたのだ。
晴豊たちの十メートルほど後方の土中から出てきた五名の
ものが一斉に弓矢を射る。
そのうち四本が二人の伊賀者の背中を貫き、二人は倒れる。
暗殺隊の三番手の五人は、弓矢を捨て晴豊に猛然と襲い掛
かった。
晴豊の傍らの伊賀者二人がそれをむかえ打つ。
ガキッと刀と刀がぶつかる音がするなか、一人の刺客が伊
賀者二人の頭上はるかを越え、逃げる晴豊の背後に降り立つ
や、晴豊の背中に太刀を浴びせた。
太刀が唸り、晴豊の肉と骨を断ち切る音が、ズーンと響い
た。
以下百五十に続く
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