第三部江湖闘魂完結編百四十七「魔導師の定め」
第三部江湖闘魂完結編百四十七「魔導師の定め」
「そうだ。高西暗報は烏丸中将成幹という公家の家臣だ
が、その烏丸を操っているのが九条兼孝だ」
高虎がそう言うと、
「では九条を殺せば話は終わるのでは」
と良之介が気楽に言葉を吐いた。
「それで済むなら、もう話は終わっている。この国は帝を
頂点に官位という仕組みでその者の政治的地位を測ってき
た。家康様はその仕組みを尊重したいと考えている。武力
だけで世の中を治める政治ではなく、日本的な権威を大切
にしたいのだ。武で人民を服従させる者は、武により滅び
る。千年の平和のためには、徳川政権に誰もが服従する権
威を持たせる必要がある。今、九条を殺せば代わりの誰か
がでてくるだけ。そのことで帝の怒りを買えば、征夷大将
軍も源氏長者も夢のまた夢になるだろう」
「それでは徳川の人間は殺されるだけですか。殺され損で
すか」
高虎の言に良之介が反論した。
「いやそうではない。今の徳川への攻撃は旧体制の最後の
あがきだ。もう日本の永久平和は眼前に来ていると思う。
我らの務めは、日本のために意義あるものだ。殺されても
犬死にではない。そうですよね高虎様」
正英が良之介の考えを否定し、高虎に同意を求めた。
「その通り。すでに徳川という大きな木は、悪あがきをす
る植物たちに光を与えないほどになっている。だからこそ、
最後の生存を賭けて、光を得るために命がけで徳川にはむ
かってくるのだ。ところで、正英と良之介よ魔導師という
言葉を知っているか」
高虎は正英の考えを肯定したのち質問をした。
二人は魔導師という言葉に首をひねった。
高虎はそうであろうといった感じで説明をした。
「魔導師とは、悪鬼を退散させ民衆をを善に導く人々のこ
とだ。今、民衆を暗い雲で覆い、日本に暗黒をもたらせる
者たちは、悪鬼であって、それ以外の何であろう。その反
徳川の鬼どもを退治するために動いている本多家の者たち
は、まさに魔導師だ」
「私や良之介は、日本の未来のためにこの琵琶湖の周辺に
巣食う鬼たちと闘っているわけですね。そしてその我らの
闘いには、崇高な意義があるわけだ」
正英は己が単なる殺人者ではないと教えられて、わずか
だが、気が晴れた思いになった。
良之介は、
「魔導師には掟がありますか」
と高虎に問う。
高虎はニヤリと笑い言った。
「魔導師の掟はひとつだ。正義のために死すべし」
京都所司代に近づくにつれ、所司代の役人や二条城警備
の者と思われるものたちがせわあしなく動き回っているこ
とが、坂本からきた四人にも何事かの異変を感じさせる。
梶川小兵衛が馬を駆けさせ、またすぐに戻ってきて、高
虎に事情を告げた。
「殿、所司代の同心らしき者に何事かと問いますと、勧修
寺晴豊様が下賀茂神社内の糺の森 (ただすのもり)で襲撃
され瀕死の重傷を負ったとのこと」
高虎は、
「とうとう地獄の釜がすべて開いて、悪鬼がぞくぞく出て
きたな。急ごう」
というや馬にムチをいれ所司代にむかって駆け出し、そ
れに三人が続いた。
今日十一月十三日は、相嘗祭 (あいなめさい)の日であ
る。
古来、新嘗祭に先立ち七十一座の神々に新穀を奉られた
とされる祭儀であり、午前十時より上賀茂神社(かみがも
じんじゃ)で行われる。
上賀茂神社は通称で、正式には茂別雷神社(かもわけい
かづちじんじゃ)といい、現在の京都市北区に位置する神
社である。
賀茂御祖神社(下鴨神社)とともに古代の賀茂氏の氏神
を祀る神社で、賀茂神社(賀茂社)と総称される。
賀茂神社両社の祭事である葵祭で有名である。
朝廷内の親徳川の最大の実力者、勧修寺晴豊は、この上
賀茂神社の十三日午前の祭りに臨席することを九条兼孝か
ら命じられ、命じられるままに出向いたのである。
琵琶湖伝百四十八に続く
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