琵琶湖伝第1部関ケ原激闘編一五「梶金平危うし」
忠勝が動きを見るや、本多勢も方向転回をし、主 (ある
じ)を追う。
井原正英も皆について馬を走らせるが、梶金平が石田陣
内にいたことを思い出し、馬を返した。
戻る途中でこちらに向かい走ってくる梶金平が見え「梶
さま」と正英は呼びかけた。
「助けろ、まさひでー」
必死の叫び声が、正英の耳に届く。
何と、梶金平の背後から、長槍の足軽6名が迫ってきて
いるのだ。
今にも梶金平は突き殺されそうな気配である。
全力で馬を駆けさせた正英は、梶金平の正面から入り、
馬を跳躍、梶金平の頭上高く飛び越え、敵の足軽どもも越
え、その後方に降りる。
降りるや、馬を反転、足軽どもを背後から攻める。
突如の新手の出現に、驚きながらも足軽どもも、急ぎ体
を回し、正英の攻めに備える。
「ウオーッ」とすさまじい声を出して、正英は突撃して
いく。
足軽どもも槍を水平にし、正英に突進する。
馬上の正英と足軽の槍が、ぶつかろうとした刹那、正英
の馬は二度目の跳躍をした。
目標が消えた足軽どもは全員前のめりになる。
足軽どもを再度越えた正英は、着地するや止まらず、前
を徒歩で走る梶金平と並走する形をとった。
「梶さま、お手を」
馬を駆けさせながら正英が右手をさしだす。
「オウッ」
走りながら梶金平は左手を、その右手に向かい伸ばした。
その瞬間、正英は梶金平の左手を持ち上げ、梶金平は地
面を力強く蹴った。
梶金平の体は宙に浮き、そして正英の馬の背の人となる。
「正英、すまん」
正英の背中にしがみついた梶金平が言えば、
「なんのこれしき」
と正英は答え、本多忠勝の陣を目指し、馬にムチを入れ
た。
「ドス」「ドス」
足軽どもが、悔しまぎれに投げた槍が地面に刺さる音が
する。
当然、一心不乱に戻る、正英たちに聞こえるはずもない。
あとに残るは土煙のみであった。
以下一六に続く