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琵琶湖伝  作者: touyou
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第三部江湖闘魂完結編百四十六「人間の宿命」

 第三部江湖闘魂完結編百四十五「人間の宿命」

 一六〇二年十一月十三日午後二時、藤堂高虎、梶川小兵

衛、井原正英、市来良之介の四名は馬で京都山科に入る。

 目指すは二条城の北に隣接した場所に設けられている京

都所司代であり、板倉勝重に高虎がこれまでの現状報告を

し、そのあと四人は金地院崇伝の警護に京都南禅寺に行く

ことになる。

 ただ板倉への報告だが、彦根藩の徳川への謀反の疑い濃

厚なれど謀反を裏付ける文書などの決定的な証拠はなく状

況証拠をいうだけであり、本多家お耳役弥助が殺されてい

るものの、それだけでは不審者を殺したまでと言い逃れは

出来、石田三成存命も三成を殺すか隠せばそれ以上の追及

が京都所司代や本多忠勝に出来るはずがない。

 すでに十一日に駿府を出発している徳川家康が確実に向

かうであろう、十一月十八日関ヶ原から彦根への旅程(琵琶

湖伝百四十二「怨霊孕 (はら)む」参照)を変えさせるほどの

強い証拠は今のところないのである。

 しかし、所司代に向かう四人は、彦根藩や反徳川の公家

の動きを体で感じているだけに、十八日までに何とか家康

の旅程を変えたいという気持ちで一杯であり、実力者板倉

に家康に対して強く彦根の危険性を言ってもらうように、

訴えるつもりであった。

 山科を抜け、京都東山の蹴上げを過ぎたところで、

「南禅寺の山門が見えます。所司代まで行ったらもう一度

ここに戻ってくるのですね」

 と良之介が言う。

「まぁ、おぬしたちはこのまま金地院様の警護に行っても

よいが(金地院崇伝は南禅寺の塔頭のひとつ金地院に居住し

そこを朝廷工作の前線基地にしていた)、板倉殿に一度会お

うではないか。なんせ七名で警護に協力するはずが、二人

で警護に当たらねばならなくなったのだ。金地院様の警護

の総責任者に今からどう動けばよいか指示を仰がないとな」

 高虎が、良之介の問いに詳しく答えた。

 当然、高虎は正英も意識しての物言いである。

「なぜに殺し合いが続くのか。私はもうこの数日で何人も

の人を殺めてしまいました」

 高虎の言葉を聞きながら、正英はつぶやくように言った。

「それはここがいまだ戦場だからだ」

 高虎は悲しげに言い、言葉を続けた。

「人間は他の動物と同様に生存のために周囲を攻撃する。

いや他の動物以上に発達した知性を使い、組織的に大量に

効率的に殺戮をし、ワナをしかけ道具を用いて目標の人物

を殺したりもする。それは人間にしかない残虐性だろう。

人間の宿命といってよかろう。今この京都と琵琶湖の周り

では、民衆に千年の平和を与えるために新しい体制を築こ

うとする勢力と今までの体制を守りたいという勢力が、生

存のための殺し合いをしているのだ。まさに戦場なのだ」

 良之介は、首をかしげながら、

「どう考えても家康様が日本を支配すれば、平和な世の中

になるのは分かっているはずなのに、なぜに高西暗報など

のように必死で徳川方の人間を殺そうとするのですか。家

康様以外の誰が、この日本を治められるのか、不思議です。

朝廷は何の実行力も持たず、せいぜいこの京都の周辺と朝

廷の味方のふりをして朝廷を利用しようとする何人かの大

名に命令を出すくらいでしょう。豊臣は大阪城にある金の

力で人を動かそうとするだけで、日本をいかに平和にして

いくかという理念などないのに」

 と率直に意見を言った。

 高虎は、良之介の考えを立派なものと受けとめる。

「それはな、良之介、誰かに支配してもらわねば繁栄できな

い人間が大勢いるからだ。そういう連中は自分たちが身勝手

で己の利益のみしか考えていないことに気づかず、今までの

体制を守らねば日本が不幸になると考える。実は自分たちだ

けの不幸なのだが。そのような者達は、家康様を自分たちに

光が注ぐことを妨げる大きな木だと考え、急いで切らねば自

分たちに光が当たらない、自分たちが成長できないと騒ぎ立

てる。大木を切ってくれる指導者を求める。その指導者が、

関白九条兼孝だ」

「関白九条兼孝」

 正英が高虎の言葉を繰り返した。


 以下百四十六に続く

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