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琵琶湖伝  作者: touyou
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第三部江湖闘魂完結編百四十五「悪人とは 孫六2」

 第三部江湖闘魂完結編百四十五「悪人とは 孫六2」


「板倉様、正英には隠密の経験はなく、この孫六の差配す

る「お耳役」の配下の者どもなら、十二分に力を発揮しま

すぞ」

 梶金平は即座に板倉の求めを拒否するが、孫六は、

「井原正英は、本多家でも屈指の武術家。梶様、正英を行

かせましょう」

 と板倉に同意する。

 お耳役の元締めがいうのだから、梶金平もしぶしぶ了解

した。

 話し合いが終わり、二人は板倉を大手門まで送り、護衛

役とともに京都に去っていく姿を見送った後、梶金平が不

安げな顔をして孫六に言う。

「正英では、隠密の荷は重い。誰かお耳役のなかで、隠密

に慣れた者をつけるべきだぞ」

「市来良之介という若者をつけようと思っていますが」

 孫六の応答に、梶金平は意外そうな顔をして、

「孫六、それでは二人とも経験不足ではないか。大丈夫か」

 と詰問するような口調になった。

 孫六は一言一言を丁寧に話し出した。

「梶様、大丈夫でない者たちを送りたいのですよ。彦根に

潜入して直政様の死因と謀反の兆候を調べるには時間がな

さすぎます。また彦根には弥助というお耳役が常駐してお

りますが、「井伊家に不穏の動きあり」などという情報は

上がってきていません。それは、所司代も同じだと板倉様

もおっしゃっていました。ならば、専門家ではなく、隠密

行動に破綻をきたし、彦根で井伊家の者どもと騒動を起こ

す可能性の高い人間を送るべきでしょう。その破れから何

かが見えれば、充分に隠密の役目を果たしたことになりま

す」

 孫六の言葉に梶金平は合点がいかぬ風でさらに言った。

「しかしそれでは、場合によっては正英も市来良之介も死

ぬことになるのではないか」

 孫六は、含み笑いをしながらいった。

「もし彦根で二人が殺されれば、それこそ家康様の旅程表

から彦根をはずす理由になるやもしれませんぞ」

 梶金平はやりきれないといった感じで嘆息し、孫六の発

言を補った。

「正英が殺されればな。お耳役という外部に知られていな

い秘密組織の人間でないだけに、またいつも忠勝様のそば

にいるだけに、家康様も顔くらいは覚えているであろうか

ら、旅程表変更のきっかけくらいにはなる。しかし漠然と

彦根に潜入しても短期間で成果はでるのか。正英を見殺し

にするかも知れない作戦に、いい加減なことは出来ぬぞ」

 孫六は、己の案を披瀝した。

「彦根には古くからの知り合いで一歩十蔵という者がいま

す。先月の中ごろに新しく建立された涼単寺の僧の中に石

田三成に似た者がいると連絡してきました。何をいうのか、

気でもふれたかと無視しておりましたが、思い切って涼単

寺に潜入させて、騒動を起こさせようかと。涼単寺には直

政の遺骨もありますし」

「不慣れな二人がするのだ。意識せずとも自然に起こるで

あろうな。かわいそうに」

 梶金平は口をきっちりと結び、渋い顔をして孫六にそう

いった。

「短期間での隠密行動。やむを得ません。正英と良之介の

動きが井伊藩に巣食う魔物たちを地上に降り立たせるきっ

かけになれば、あとはこの孫六が自ら彦根に出向き、両人

の骨くらいは拾ってやるつもり」

「その二人は鉄砲玉というわけか」

 梶金平は吐き捨てるように言った。

「不適切な表現ですが、そうもいえるでしょう」

 孫六は「鉄砲玉」という梶金平の表現を否定はしなかっ

た。

「孫六、おぬしは「ワル」よのう」

「「ワル」にもならねば隠密などできますまい。狙うべき

相手が「ワル」なら、こちらも「ワル」以上の「ワル」に

なるのが、隠密の勤めでござる」

 孫六は笑みをたたえた穏やかな口調で言った。


 次の日の夜遅くに駿府より帰ってきた忠勝に、孫六が前

日に梶金平に話した案を述べると、

「金平はその案に何と言ったのだ」

 と訊ねた。

「梶様は不承不承ですが了解されました」

「そうか、それならお前の案で明日の朝にも、正英と良之

介とかいう若者を出立させるか。早朝に二人を登城させ、

わしから彦根潜入の趣旨を言おう。しかし、絶対に失敗す

るな。水面に小石を投げれば小さな波紋が徐々に拡がって

いくが、二人には小石になってもらうことにしよう。その

ような本音を隠しての彦根潜入の指示はつらいが、歌でも

歌ってごまかすしかないな」

 忠勝は、正英と良之介の彦根潜入という孫六の案を了承

したことを、己自身に納得させるように小さく頷くと、

「孫六、おぬしは「ワル」よのう」

 と梶金平と同じ言葉を吐いた。

 孫六は、

「忠勝、おぬしも「ワル」よのう」

 と思わずいってしまい、その瞬間に忠勝の真空飛びひざ

蹴りを前頭部にくらい、口から泡を吹きながら卒倒したの

である。


 以下百四十五に続く

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 情けをかけておくんなさい。


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