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琵琶湖伝  作者: touyou
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第三部江湖闘魂完結編百四十三「魔導師の実力」

 第三部江湖闘魂完結編百四十三「魔導師の実力」

「亡くなられた井伊直政様を嫌いであった方は、徳川家

にいらっしゃいますか」

 と妙なことを高虎は問うた。

「エッ、ウーン、直政殿はけっこう嫌われていたので」

 困惑気味に板倉は答える。

「特に嫌いであったのは」

 高虎はさらに問う。

「特になら、本多忠勝様かな。直政様と会うと露骨に嫌

な顔をされてましたな。ただそのことは高虎殿もご存知

であろう。まさか忠勝様に依頼するのか」

 一呼吸間を置いて、板倉は話を続けた。

「それはだめだ。あの藩の者たちは忠勝様を始めとして

粗忽者揃いだぞ。いくさには良いかも知れぬが情報活動

にはむいていないであろう。桑名藩は彦根にも近いしわ

しも考えたのだが、結局考えからはずしたのだ」

 板倉は露骨に桑名本多家を軽視した発言をした。

 まぁ、板倉でなくても忠勝の日ごろの歯に衣着せぬ物

言いや常軌を逸した行動は、用心深さが必要で、また暗

くジメジメした感じのある情報活動とは相容れない印象

を与えるものである。

「それは失礼ながら板倉様の忠勝様への誤った思い込み

でござる。私も以前はあの忠勝様の傍若無人ぶりには困っ

たものだと思っておりました。しかし、一時期高野山に

出家したとき、忠勝様と御家来衆がたんなる武人ではな

く、忍びも充分にできる武術家の集団であると知ったの

です。まさに悪魔退散の魔導師の集団」

 高虎は板倉に鋭い物言いをした。

「高野山におぬしが行ったのは。一五九五年か。秀長様

が亡くなられ、そのあとを継いだ養子の秀保様が早世さ

れたのが出家の原因だったかな」

「そうです、しばらくして秀吉様の要請でまた山を下り

今に至っておりますが、山での暮らしでは、よく高野山

の周囲を歩いたものです。その散歩の途中でしばしば寄

らせてもらったのが、高野山麓の美里村の永代名主、表

正左衛門の屋敷でござった」

「表正左衛門といえば代々高野山を俗界から守護するこ

とを空海様から命じられたという伝説のある、あの表」

 板倉は唖然とした表情になる。

「御意。あの表でござる。今の表家は第三十二代目で、

当時で三十歳でしたから、もう三十七歳になるのか、や

や背は高いのですが、やせて青白い顔をした、日本武術

の最高権威とは思えぬ人で、おそらく京の町などで出会っ

ても気づかないような、目立たない感じの方でしたな。

こちらも出家した身であまり生臭い話も出来ず、一度だ

け武術の話をしたのですが」

「武術なら柳生や伊賀だが、柳生や伊賀は家康様の直接

の支配下にあるので頼みにくくてな。表様も柳生などの

話をしたか」

「それが、柳生も伊賀も話題にも上らず、徳川の話とし

ては唯一、本多忠勝様のことが出て、「とにかく本多家

は武術の達人揃い。とくに雑賀孫六と井原正英という者

は忠勝様をもしのぐ業師 (わざし)である」といわれまし

た」

 板倉は思い出すように、

「雑賀孫六というのは雑賀孫市の実弟だったな。会った

ことはないが」

 といった。

「雑賀海王拳という内功の奥義を極めた者だそうです」

「なるほど。しかし、井原というのは、あのぅ、ウーン

たしか、忠勝様のいつも背後にいる小太りの、あれか」

「そうそう、あれでござる。もう亡くなられたのですが

信州に戸沢白雲斉という甲賀忍法の名手がいて、表家を

訪ねてきたとき、武術談義になって井原正英とい者がい

て、本多家の依頼で数年間修行させたが、非常に筋がよ

く自分が教えた中では一番将来有望で楽しみだといわれ

ていたそうで」

「あの小太りが、まさか戸沢という御仁、かなりのご高

齢で「ボケ」ていたのではないか」

「かなりの年だったでしょうが、「ボケ」てはいないと。

私も表様からその話を聞いて以来、井原正英には注意す

るようになりましたが、「人はみかけによらぬ者」と申

します。板倉様は猿飛佐助という名を聞いたことがおあ

りでしょうか」

「猿飛か、ウン、何日か前に伊賀者からの報告があった

な。かなりの使い手で伊賀者でも飛びぬけた技の使い手

でないと勝負にならぬということであった。真田幸村の

忍びの疑い濃厚とも」

「猿飛の師匠が白雲斉でござる」

「では井原正英は、その者と同等かそれ以上ということ

か」

 板倉は、彦根に怨霊が孕むか否かを答えてくれる魔導

師に出会えそうな気になり、おのれの心を覆っていた雲

が、消え去っていくのを感じていた。


 百四十四に続く

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