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琵琶湖伝  作者: touyou
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第三部江湖闘魂完結編百四十二「怨霊 孕 (はら)む」

第三部江湖闘魂完結編百四十二「怨霊 孕 (はら)む」


 十一月四日も板倉は寝不足からか頭痛と肩こりに悩ま

され浮かない顔をして所司代の庭を眺めていた夕刻に、

さすがに見かねた筆頭与力の佐島忠伍が、

「殿、我らの調査ではどう考えても何も彦根からはでて

きておりませぬ。どうかご安心を」

 というのだが、

「佐島、その通りだ。恐らくわしの杞憂だ。ただ何とも

いえぬもやもやが心にあってな。かといって、今日は四

日。あと七日も経てば、家康様は駿府を出て、こちらに

むかっているのだ。悩んでも意味はないし、時間の無駄

ということは分かっておるのだ。でも釈然とせぬのだ」

 と佐島の言葉に納得しかねている。


 ちなみに旅程表の日付けを言えば、

 十一月十一日駿府を出立。掛川城に宿泊。

 十一月十二日浜松城に宿泊。

 十一月十三日吉田城に宿泊。

 十一月十四日岡崎城に宿泊。

 十一月十五日岡崎城に滞在。

 十一月十六日名古屋城に宿泊。

 十一月十七日大垣城に宿泊。

 十一月十八日関ヶ原から彦根へ。彦根城宿泊。

 十一月十九日膳所城宿泊。

 十一月二十日膳所滞在。

 十一月二十一日上洛。

 というものであった。


 板倉の旅程表に関わる憂慮は分かるとはいえ、佐島は所

司代の者たちの調査能力を長官自らが否定している気がし

て、若干声を荒げて言った。

「殿、我らの力を信用できず、家康様にも相談できぬなら、

豊臣にでも相談しますか」

 京都所司代長官が豊臣に相談に行けるはずがなく、佐島

の言は滅茶苦茶なのだが、其の時、板倉の頭に浮かんだの

が、

(何かがあったとき、譜代以外で相談できるのは公家では

勧修寺晴豊、外様では藤堂高虎)

 という家康の言葉であった。

「佐島、相談に行けるところがあったわ。今から出かける。

供のものを用意せい」

 板倉は、佐島に指示をだすと、そのまま高虎の屋敷を訪

ねたのである。


 所司代長官自らの突然の来訪に驚きながら高虎は、板倉

を客間に通し応対する。

 普段みるよりやつれた様子の板倉に、

「なにやら急な用件とか、この高虎ができることなら何な

りと言ってくだされ。ただお加減は大丈夫でござるか」

 と心配の声をかける。

「このごろなかなか眠りにつくことが出来ず悩んでおりま

す。そのせいか頭痛と肩こりがひどく、藤堂高虎殿がよき

安眠の薬をお持ちと聞き、参上した次第」

「薬は持ちませぬが病の見立ては出来まする。もう晩秋。

今は風も冷たく、そのせいで体調を崩したのかもしれませ

んな」

「琵琶湖からの風が冷たくて冷たくて」

 板倉がいうと、

「家康様にも風の冷たさが応えてはなりませぬな」

 高虎は微妙な物言いをする。

「その風は、琵琶湖の東あたりで焼かれた死体から上がる

炎から生まれたものでな」

 板倉は核心をつきだす。

「それは悪しき風。焼かれた者の怨霊 (おんりょう)を孕

(はら)んだ風が板倉様の回りを駆け巡っているのでは。い

や回っておりますな。見えますぞ」

 高虎は奈良の大仏のような顔をしていて眼もそう大きく

ないが、突然、眼を大きく見開いて「見えます」といった

ので、板倉は、

(ドキリ)

 として思わず後ろを振り返ったくらいである。

 高虎は常に冷静沈着な板倉が、あわてふためいた様子に

思わず微笑み、

「怨霊探しの旅でもして板倉様の除霊をしますか」

 と板倉の依頼の内容を了解したことを告げる。

「ありがたい。是非彦根に行ってもらいたいのだ」

 思わず板倉はそのままを口にだした。

 あまりの板倉のゆとりのなさに懸念を覚えた高虎は、板

倉の悩みの内容をくわしく問うてみる。

 板倉は救われたかのように、源氏長者と征夷大将軍任命

の内定、九条兼孝の任命の条件としての帝と家康の秘密会

談、彦根ルートの家康の旅程表、そして直政火葬の件と彦

根藩への疑念など赤裸々に高虎に告げた。

 高虎も内定の事は知っていたが、秘密会談や旅程表のこ

とまでは知らず、そこまで話した板倉の切迫した気持ちに

理解を示し、

「怨霊探しの魔導師たちを呼ばねばなりませんな。数多く

の魔導師たちが人外魔境の扉を開け、飛燕のように彦根に

向かっていかねば」

「それが藤堂藩の方々でござるな」

「いや今、この屋敷に居るものは、いくさ働きの得意な無

骨者か文書作りのうまいだけの軟弱者。今から伊予に手紙

を送り忍びの法に通じた者を選んで送るようにという暇も

なし。わたくしと護衛役の梶川ならその役はこなせまする

が、わずか二人では怨霊探しにも限界がございます」

「では、怨霊を探し悪魔を退散させられる、そのような魔

導師を多数抱える藩が、京の近くにあるのか」

 板倉は首をひねる。

 あるなら、板倉自身が今まで気づかぬはずがないからで

あった。


 琵琶湖伝百四十三に続く

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