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琵琶湖伝  作者: touyou
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第三部江湖闘魂完結編百四十一「直政火葬の疑惑」

 第三部江湖闘魂完結編百四十一「直政火葬の疑惑」

 源氏長者と征夷大将軍任命への動きが明確になったのは、

板倉と金地院崇伝、勧修寺晴豊の三名の努力の賜物であっ

たが、実際はこの三名に井伊直政を加えた四名の努力で、

今年の三月には詔が出るはずであったのだ。

 ところが二月に直政が死に、その死を利用して関白の九

条兼孝や菊亭晴季が家康の源氏長者と征夷大将軍への任命

に対して、直政の死は、「不吉な兆し」を朝廷に与えるも

のと理屈にならぬような理屈を言って、強硬に反対し、三

月に任命の詔が出るはずであったのが、無期限延期になっ

たのである(琵琶湖伝五十八参照)。

 それからの半年以上の板倉と金地院と勧修寺の更なる努

力が、今また源氏長者と征夷大将軍任命を具体化させたの

であった。

 最終的な障壁になると思われていた九条兼孝も、帝と家

康の秘密会談を条件に来年初めの任命の詔を承諾した。

 板倉はその旨を十月下旬に駿府にいる家康の許に手紙で

報告する。

 家康は大いに喜び、すぐさま彦根ルートの旅程表を送っ

てきたというわけである。

(油断大敵。勝負は下駄をはくまで分からぬ)

板倉は、帝との会談が終わるまでは、朝廷とは見えない戦

争状態にあると考えていた。

 九条兼孝の秘密会談の提案は、それくらいで任命の件を

承諾してくれるならいいだろうという軽い気持ちで板倉は

受け取っていた。

 しかし、秘密会談の案は、家康様を「おびき出す」ため

の仕掛けの一部ではないのかという疑念が、日を追って板

倉の心の中で強くなっていったのである。

 京の反徳川の公家の動きは、日に日に激化しているし、

西国の親豊臣の大名たちは沈静化しているが、家康が通ろ

うとしている井伊直政死後の彦根藩の状況には安心できぬ

ものを感じる。

 もし彦根藩と九条兼孝が結びついていたら。

 家康は彦根でその生涯を終えるかもしれない。

 かといって、確たる証拠もなく彦根藩の動向に尋常なら

ざるものあり、旅程を変更すべしなどといえるはずがない。

 ただ二月に直政が死んだとき、その日のうちに直政の遺

体を火葬にしたことが、いまだに合点のいかぬこととして、

指に刺さってなかなかとれないトゲのような思いを板倉に

持たせていた。

 徳川四天王の一人であり、徳川家の重鎮ともいえる井伊

直政を、いくら遺言とはいえ、葬式もせずに焼いてしまう

など暴挙というしかない。

 一五四五年三河に生まれ、三十六歳まで僧侶として生き、

その後、板倉家を継いで数多くの奉行職を歴任し京都所司

代長官にまで上り詰めた板倉だが、若いころに修行した宗

教家としての側面はいまだ有しており、人の死や葬式は軽

視できるはずのものではなかった。

 直政火葬は板倉には想像を超えたもので、他の徳川の者

たちが、家康を含めて納得したとしても、不可解なことと

してしか板倉の眼には映らなかった。

 どう考えても直政は殺され、その証拠を隠すための火葬

ではないのか。

 そうなれば歴然たる主君殺し、それを彦根藩全体で隠そ

うというなら、まさに井伊家への反逆、ひいては家康への

反逆であり、謀反ではないのか。

 板倉は彦根への疑いを確かめるために、彦根に所司代の

手のものを何人も情報収集に送ったのだが、京の公家の監

視に忙殺され、熟練の者たちを彦根に送れなかったことも

あるのか、すでにもう十一月をむかえている時期に、何の

成果も挙がっておらず、さらなる人員を家康に求めたいが、

彦根藩への謀反の疑いからとはいえない。

 その証拠はといわれれば、直政の火葬が気にくわないで

は、家康も納得して人を送るはずがない。

 今、京の公家たちと渡り合っているくらいの実力あるも

のたちを、何処から呼べばよいのだ。

 時間はもうない。

 家康の旅程表が届いてからの数日、この旅程表に異を唱

えるべきか否かに悩み眠れなくなってしまったのだ。

 たまに睡魔に襲われても、井伊直政の遺体に火をかけな

がら大笑いをする仮面のもの達とその奥でほくそえんでい

る九条兼孝の白塗りの顔が現れる夢ばかりを見て、眼を覚

まされる。

 頭痛と肩こりがますますひどくなる板倉であった。

 

 以下百四十二に続く

 ヨコ書き。この下のネット投票のクリックして一票入れてください。

 情けをかけておくんなさい。

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