第1部関ケ原激闘編14「算盤玉の怪」
算盤玉の怪
梶金平の馬に乗ろうとする忠勝の側を、三名の本多
の騎馬武者が走りぬけた。
「殿、三成の首は我らがもらうぞ」
と背中越しにそのもの達が叫ぶ。
すぐに忠勝も馬を駆けさせるが、すでに、陣幕を切
り裂き、本陣内に突入していく、彼らの姿が見えた。
「アー、わしが、三成の首をとれんとは」
と気落ちしながら、忠勝も本陣内に入った。
が、すでにそこは、もぬけの殻であった。
「なんじゃ、三成は逃げたあとか」
幾分、残念に思う気持ちと、まだ誰も三成を殺って
いないことへの安堵感が芽生えた。
しかし、誰もいないと思ったのは、忠勝の錯覚であ
り、正確には、生きている者は誰もいなかったのだ。
先に突入した三名の郎党が、地面に伏しているのが、
忠勝の眼にはいる。
徒歩で駆けてきた梶金平がそのまま、倒れている者
たちのもとへ行く。
「こんぺい、どうじゃ」
忠勝が様子を問うと、
「わしゃきんぺいじゃ…との…みんな即死じゃ。算盤
(そろばん)の玉が体中に、めりこんで、貫通した跡も
ある・・・・・・」
梶金平は恐ろしげにつぶやく。
「こんぺい、何をいうんじゃ」
という忠勝に、梶金平は死人をもちあげ、立たせた。
「・・・」
死体には無数の算盤の玉が食い込んでいる。
多くの無残な死体を見慣れた忠勝も、その奇態な姿
に、言葉を失くす。
「殿、火薬を詰めたものの中に大量の算盤玉を入れて、
爆発させれば、鉄砲玉のように算盤玉が人を襲う…の
では」
梶金平は死体を元に戻しながら忠勝にいう。
「確かにな。算盤上手で出世した三成なら、考えそう
なことだ。しかし、まったく火薬の匂いがせぬな」
不審げに忠勝は答える。
「殿も、金平さまも、謎解きをする暇はござらぬぞ」
追いついてきた井原正英が背後から一喝する。
忠勝は、目覚めたかのようにこの奇怪な世界から、
三成が逃走したという現実に戻る。
「おう、正英。三成を追うぞ」
と馬にムチをいれようとした。
その時、
「とのー、忠勝様、至急、お戻りを」
孫六の声がする。
忠勝と正英が幕の外にでると、人間に戻った孫六が、
青ざめた顔で「井伊様の部隊が、島津の突撃を支えき
れず、突破されました」
といった。
忠勝はうれしそうな顔になり、
「いいではないか。井伊のことなど、知らぬは。ほっ
とけ。目標は三成じゃ」
と言い放つ。
孫六は驚きわめいた。
「殿、井伊が抜かれたら我が陣を直撃ぞ。そのうし
ろは家康様の本陣じゃ」
忠勝は、孫六の言葉を聞くか聞かぬかの内に馬にム
チをいれ、猛烈な速さで本多家の陣に戻っていった。
以下一五に続く
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