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琵琶湖伝  作者: touyou
139/208

第三部江湖闘魂完結編百三十六「修羅の道」

 月はすでに落ちていたが、中空には薄明かりがさしてい

る夜明け前である。

 一切の事物が動きを止めた暁の闇の中をひたひたと、数

人の足音が続いている。

 霧隠が猿飛を尾行してから、十日ほど経った彦根。

 前日に彦根に潜入した、正英とお香と良之介が、孫六と

十蔵に別れを告げて有田屋を出、大津への道を急いでいる

のである。

 お香の懐には、孫六が兄の雑賀孫市にあてた書状が入っ

ている。

 この書状がお香の身元を証明することになる。

「いったいどんな人だろうね、孫市様って。孫六様が自分

に似てるからすぐに分かるといってたけど、いろんなこと

聞きたい。天王寺の戦いのこととか、信長様をどう思って

いたかとか」

 お香は、伝説の有名人に会えるというので興奮気味であ

る。

「お香さんは、のんびり、長岡の紅葉(長岡の高明寺は当

時から今にいたるまで紅葉の名所)でも見に行けばよいの

ですから、気が楽でしょうが、こちらはまた戦いになりそ

うなんですよ。物見遊山のようなことを考える気になりま

せんよ」

 良之介がぼやいた。

「それなら、お香さんと交代してお前が長岡にいくか。俺

もお香さんがいたほうが、心強かったりして」

 正英が冗談とも本気ともつかぬことを言う。

「正英様、私は本多家のお耳役ですよ。坂本の日吉大社に

は午前中に五名の者が集まっていて、「わたし」と正英様

を待っているのです。孫六様からきのう聞かなかったので

すか。それに私だって男ですよ。プライドがあります。こ

こ数日に起こったことは、本当に恐いことだらけでした。

彦根では弥助さんが死ぬし、あかつき峠では甲賀伝兵衛に

殺されかけるし、草津の街道では高西暗報という気持ちの

悪い殺し屋にしびれ薬をかがされたり、すごすぎですよ。

お香さんと代わってもらいたい気持ちはあります。しかし

私は男の子ですから。女の子には代わってもらえるわけが

ない」

 良之介は顔を真っ赤にして、早口でまくしたてた。

 正英は、笑いながら良之介の機嫌をとる。

「分かった分かった、怒らんでくれ。良之介、昼までに二

人で、日吉神社に行くぞ」

 そう言いながら、

(こんな気楽な気分も坂本までだろう。坂本で待っている

五人とともに京に入れば地獄が待っているかもしれん)

 と内心、これから始まるであろう修羅の道を思い、憂鬱

な気分にもなっていた。


 日吉大社は、近江国坂本(滋賀県大津市坂本)にある神社

で、俗に山王権現ともいう。日本全国に約二千社ある日吉

大社の祖本山である。十一月の時期は紅葉の名所としても

知られている。


 その大鳥居の近くの紅葉を見渡しながら、正英と良之介

の到着を待つ五名の人影があった。

 孫六の命令で集まった本多家お耳役の者たちである。

 葉を透かしてもれてくる陽光は、紅葉を輝くような赤に

染め上げ、お耳役の者たちの眼を楽しませていた。

 そよぐ風も心地よい。

 しかし、その風の中に五名の者の体の動きを封じようと

するしびれ薬が、風上より鮮やかなもみじの木の葉に塗ら

れて襲いくることに、誰が気づこうか。

 木の葉がお耳役の者たちを通り過ぎたとき、紅葉狩りの

五名は、地に倒れ伏してしまっていた。

 薄ら笑いを浮かべながら、倒れしものたちに近づいてい

くのは、高西暗報と宮内平蔵である。

 唐崎神社で落ち合った二人は、昨晩の激闘の疲れを癒す

べく、坂本の烏丸家ゆかりの寺に行き終日を過ごす。

 次の日の十一月十三日の早朝、お耳役の者たちが日吉神

社に集まっているという情報が潜伏先の寺にもたらされる。

 その情報を得た暗報と平蔵が、奇襲をかけたのである。

 暗報の「木の葉がえし」は五人全員の意識を奪うという

絶大な効果を挙げる。

 そして宮内平蔵の右手には、鞘から抜かれた数多くの人々

の血を吸ってきた刀が、握られていた。


 以下琵琶湖伝百三十七に続く

 ヨコ書き。この下のネット投票のクリックして一票入れてください。

 情けをかけておくんなさい。



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