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琵琶湖伝  作者: touyou
131/208

第三部江湖闘魂完結編百二十九「信長の遺書」

「信長の遺書」とは何か。

 今回はこの由来について話すことにする。

 一五八一年、この年の織田信長は、絶頂期であっ

たといって良いだろう。

 天下布武を悲願とする信長に対抗する有力勢力は、

越後の上杉氏、甲斐の武田氏、大阪石山本願寺、そ

して中国の毛利氏であった。

 まず武田氏は、信玄亡き後当主となった勝頼の主

力部隊一万五千を一五七五年長篠の戦で完膚なきま

でに叩き、以後武田氏は衰退していく。

 一五七八年には北陸方面の織田軍を悩ませていた

越後の上杉謙信が急死し、その後上杉家は後継ぎ争

いが起こり、織田家の能登加賀越中への北陸方面侵

略を阻止する力はなくなっていく。

 信長最大の難敵、石山本願寺は、一五八〇年正親

町天皇の勅命を受け入れ和睦して大阪から退去。

 石山合戦は終了する。

 中国地方に圧倒的優位を占めていた毛利氏も、一

五七九年以降、織田家重臣羽柴秀吉(のちの豊臣秀吉)

の攻撃を受け、同年毛利家の最大協力者であった備

前の宇喜多直家が、織田家に服属したことで、織田

家と毛利家の中国での勢力地図は逆転し、播磨、但

馬、因幡、淡路と次々に織田家の支配下に入る。

 四方に敵がなくなりつつある中で、信長は一五八

一年二月には京都の内裏東の馬場で一大的なデモン

ストレーションを行なう。

 いわゆる京都馬備えであるが、これには信長はじ

め織田家一門のほか、丹羽長秀、明智光秀ら武将た

ちも華やかないでたちで参加し、正親町天皇も臨席

した中、織田軍団の武威を示すものとなった。

 この馬備えを終わらせた数日後、信長は大津代官

太田牛一を呼ぶ。

 前々から武術の才のみならず太田の文学的才能も

認めていた信長は、己の今までの戦争を分析した軍

事的論文を書くための補佐役として牛一を指名した

のだ。

 すでに天下布武が眼前に迫っている今、織田家の

将来のために、自分の軍事的事績を整理分析、絶対

不敗の軍事論を作成し、子孫に残そうと考えたので

ある。

「天翔将星記 (てんしょうしょうせいき)」と題が

つけられたその書物は、信長の言を牛一がまとめて

整理したものを信長がさらに加筆訂正していくといっ

た形で行われ、五月の終わりに完成する。

 翌一五八二年五月、信長は再度、牛一を呼び出し

若干観念的であった「天翔将星記」に多くの戦闘事

例を加えた、完全版「天翔将星記」の完成を目指す。

 五月の終わりに最終草稿を大津の自宅に持ち帰り、

最後の整理をしていた牛一の元に飛び込んできたの

が本能寺の変であり、信長の死であった。

 「天翔将星記」執筆における信長と牛一の共同作

業は隠密裏の作業であり、傍目には牛一が大津代官

の報告を信長にしているように偽装されていた。

 側近の何人かは「天翔将星記」の存在を知ってい

たが、すべて本能寺で信長と死をともにする。

 この日本最高の兵法書である「天翔将星記」の存

在を唯一知り、また信長の不慮の死でやむを得ず、

それを所有することになったのが、太田牛一であっ

た。

 「天翔将星記」こそ後年「信長の遺書」と呼ばれ、

その書を読めば「天下無敵」になれるといわれた伝

説の書物、本能寺の変で炎に包まれながら信長が臣

下の一人に託して逃がし今も日本のどこかにあると

噂される、それから数百年のときを超え、大日本帝

国陸軍参謀部が血眼になって探した、現在ではそれ

を受け継いだ自衛隊幕僚本部が行方を追っている大

宝典である。

 十九世紀に生きたプロシア王国の軍人で、ナポレ

オン戦争の経験をもとに戦略戦術論を著し、近代参

謀本部シテムを確立した同じプロシアのモルトケや

ロシア革命を指揮したレーニンにまで影響を与えた、

クラウゼヴィッツの「戦争論」、そして二十世紀中

国に生まれ、弱小な軍隊が強大な敵と戦い勝利する

ための軍事理論を述べた毛沢東の「中国革命の戦略

問題」他の多数の著作、中でも「持久戦論」と並び、

「信長の遺書」は、世界三大戦略戦術論にして日本

最高の軍事論文なのである。


 以下百三十.に続く

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