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琵琶湖伝  作者: touyou
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第二部百二十三「孫六そしてふたたび」

 第二部百二十三「孫六そしてふたたび」

「誰が敵の間者 (かんじゃ スパイのこと)なのか」

 孫六は深刻な顔をして首をひねった。

 孫六があやまり、お香も落ち着き一件落着となっ

たのち、話題は自然に、あかつき峠と草津の街道で

待ち伏せを受けた謎についてのことになった。

 正英は、甲賀伝兵衛が自分たちの名をしっていた

こと、そして高西暗報と名乗った男もあきらかに正

英と良之介の顔を知っていたとしか思えない攻撃を

仕掛けてきたことを話したのだ。

 孫六は己の推理を披露した。

「正英と良之介が間者でないことは当然だし、お香

も恐らく違う。十蔵はわし以外の本多家のもののこ

となど知らんし、正英らの彦根際潜入を知っている

のはわしと忠勝様と梶金平様だけだ。涼単寺の偵察

にいってる与平と勘太は、彦根潜入の件はお前らを

助けるまでなにも知らなかったしな。お前らの顔や

名前まで知っているとなると、忠勝様は当然違うし、

とすると残るのは一人、梶様だ。はぁ、悲しいのう。

あの梶様が井伊の手先だったとは」

 つらそうに結論を述べた。

 すぐに正英が反論する。

「もしここに梶様がいたら、あの孫六が井伊の手先だ

ったとはと嘆かれるはず。孫六様の推理は推理になっ

ていないのでは」

「正英、わしが井伊家の間者というか。聞き捨てなら

んぞ。取り消せ」

「そんな滅相もない。お怒りならあやまりますが、私

と良之介がともに行動していること、そして我らの顔

もしっているとなると、そして忠勝様ではないとする

と」

「確かにな、そうなると俺か梶様だな。もしかして俺

かもしれん」

 あまりに真剣な表情を孫六がしたので良之介が心配

する。

「孫六様、我らと同じように桑名にも井伊家の情報組

織が潜入していて、そこがさまざまな情報を彦根に送

っているかもしれませんよ。孫六様も冗談きつすぎ」

「良之介ありがとな。でも俺か梶様なんだもん。なん

だも・・・・・・もー」

「まぁ、もーなんて、孫六様って牛みたい」

 お香が笑いながら孫六に声をかけた。

 孫六も、

「牛みたいか、牛か、フーン、牛か」

 と口元を緩めながら応えたが、そのまま表情が固ま

ってしまった。

 まばたきもせず、じっと虚空をみつめる孫六の様子

に皆が怪訝な表情をする。

 傍らの一歩十蔵が

「いかがなされました」

 と問いかけるや、一歩十蔵のほうに孫六は首をかた

むけ、音がでるような大きな瞬きをし、その後ゆっく

りと眼を閉じた。

 全員が、

「孫六様」

 と問いかけたとき、孫六の口から信じられない言葉

が出たのだ。

 孫六は眼を開くや、

「モォーッ」

 と力強く鳴いたのである。

「お気を、確かに」

 良之介が孫六を案ずる言葉を吐くや、

「モォーッ」

 とさらに叫びながら孫六は立ち上がり、両腕を一直

線に天に向かって伸ばし、耳につけた。

 そうその姿は二年前の九月、あの関ヶ原の戦いで井

伊直政の陣に行った折、直政のあまりに衝撃的な赤色

から幼時の牛殺しの大罪を思い出し(琵琶湖伝第一部関

ケ原激闘編その四その五参照)、その牛の瞳が、孫六の

脳内をすさまじいスピードで駆け巡り、間脳の視床下

部に達し、ホメオスタシス(体内の状態を一定に保つ

こと)に異常反応を引き起こした現象の再来であった。

 お香が何気なくいった、

「孫六様牛みたい」

 の一言が繊細な孫六の神経を刺激し、牛化現象を引き

起こしたのだ。

 四十数年間も意識の底に眠らせていた牛殺しの原罪を

贖うため、身を畜生界にまたもや落としてしまったのだ。

 天に向かって伸ばした両の腕は、牛の角の具現化であ

った。

「落ち着かれよ、落ち着かれよ、孫六殿」

井原正英は心からの気遣いをする。

お香は、

「孫六様かわいいよ、牛ちゃん、牛ちゃん」

と孫六牛に近づき、孫六のお尻をなでる。

 何たる偶然。

 幼き孫六が牛のお尻をなでたことで、牛は断崖から落

ちたのであった。

 お香の行為は、孫六の脳内を類似体験による刺激によ

ってさらに活性化させ、孫六の視床下部は、牛の瞳だけ

でなく牛の尻にも占拠されたのだ。

 まさにウンのつき。

 哀れ、哀れ、哀れ、哀れ、哀れ好漢、雑賀孫六よ。

 尻をプリプリと回しながら、よだれをたらしだし、瞳

は膨れて拡大して眼からこぼれ落ちそうになっているの

だ。

 その情景に、良之介と一歩十蔵は腰を抜かした。

 お香は・・・・・・ちょっぴり漏らしてしまう。

 騒然たる板間の中で一人冷静に孫六を見つめる男がい

た。

 井原正英である。

 正英はこの光景と似たものを思い出そうと懸命になっ

ていた。

 以下百二十四に続く

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