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琵琶湖伝  作者: touyou
124/208

第二部百二十二「お香怒りの木曾固め」

 良之介は泣きそうな声になり、

「孫六様それはないですよ。私らはあのあとも殺さ

れかけたんですよ。井伊家の眼を私らに向けさせ、

そのあいだに彦根にはいってここで寝転んでいたの

ですか。わたしらは情報を得るための道具ですか。

人間は人生ゲームのアイテムではないのですよ。孫

六様がまわすルーレットで平社員に戻ったり、大金

持ちになったりするんですか。わたしらは腹話術の

人形なんですか。ひどい、ひどすぎますよ」

 と孫六につめよる。

「何だお前は。わしに意見など千年早いぞ」

 うるさいとばかりに、孫六が良之介の顔面を殴ろ

うと右腕を伸ばすと、その手首を握られ、孫六は座

ったままの姿勢で一回転し、うつ伏せになった。

 そのまま孫六の手の甲を自分のわき腹で体重を掛

けて押さえつけた。

 押さえつけたのはお香である。

 甲賀流の名手、戸沢白雲斎直伝の柔法「木曾固め」

という技で、この技が決まれば木曾山脈にのしかか

られたように、技を掛けられた者は身動きができな

くなるのである。

「いたーぃ」

 孫六が叫んだ。

 お香は孫六の悲鳴など気にもとめず、相手の腕が

曲がらないように自分の左手の拇指丘を使って相手

の手首を十分に捻り、さらに、相手の肩が浮かない

ようにきっちりと押さえつけ、首、肘、肩を閂 (か

んぬき)をおろすように固めた。

 さすがの孫六も突然の攻撃に、己の関節をはずし

て逃げようとする暇がなかったのだ。

「本当に痛い。ぶ、ぶ、無礼者。わしは雑賀衆棟梁

雑賀家の直系ぞ。ぶわぁあかものめ、今なら許して

やる、技をはずせ」

 孫六はさらにわめく。

「うるせぇんだよ、このすっとこどっこい。何が雑

賀衆だ。こちとらは、琵琶湖の水で産湯を使ったチャ

キチャキの堅田っ子よ。それも堅田衆総代の娘だ。

このバカ野郎のおたんこなす。耳の穴から手を突っ

込んで奥歯ガタガタいわしたろうか。われ、もっと

しばいてもらいたいんか」

 お香はさらに力をいれた。

「痛い痛い、いたーい」

 孫六はあまりの痛みに泣き出しそうだ。

 すでに船上で指人形で遊んでいたお香の姿はない。

 今までのお香の言動もどちらかというと男勝りと

いえたが、今眼前のお香の悪口雑言は男そのもので、

良之介は愕然とし、正英は病気がまたでたという顔

をした。

「娘さんやりすぎだ」

 一歩十蔵がお香の肩に手をかけた瞬間、十蔵の体

はゴロリと板間を回転しながら土間に落ちた。

 今度は堅田水舟拳奥義のひとつ「真空投げ」を放

ったのだ。

 正英は、板間に顔を押しつけられてしまった孫六

の耳元で、

「反省します。みなさんをおとりにして、ごめんな

さいといわないともっと恐ろしいことが」

 とささやく。

「ウー、わかった。ごめんちゃい、許してください」

 無念そうに孫六はつぶやいた。

 以下百二十三に続く

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