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琵琶湖伝  作者: touyou
122/208

第二部百二十「彦根潜入なぜか孫六」

 出航の前、岡本邦源が琵琶湖の水鳥を無数に呼

び寄せる技を見せ、旅立ちを祝すと、お香がお返し

に指笛を吹く。

 すると、翼を拡げた幅が、十メートルもあろうかと

思われる大鷲があらわれ、皆を驚かせた。

 脚も太く、人間が乗ったり脚につかまったり、十

分できるくらいの「大物」である。

 再度、お香が指笛を鳴らすと大鷲は北の空に飛ん

でいった。

 堅田水舟拳の技に大鷲を呼ぶものはない。

 水鳥を呼ぶ堅田水舟拳の技を、お香が戸沢白雲斎

の下で改良した結果生まれたものである。

 岡本邦源は娘の技に満足したあと出航の合図をし、

船は朝焼けの湖にでてゆく。

 彦根に着くまでの間、お香は暇をつぶすためか両手

の人差し指に指人形をはめ、右手に女の子、左手に男

の子で、

「英ちゃーん、ごはんでちゅう」

「はーいお香ちゃん、おなかへりました」

と一人おままごとをしていた。

 井原正英はその姿を見て、可愛いと思い、市来良之

介は、

(ウー、セクシィ。やりたい一〇一人目の女にしたい)

 と欲情をもよおしたが、正英がそれに気づき、良之

介の下半身に点欠をして、彦根に着くまで解かなかっ

た。

 邦源の「かお」はたいしたもので、彦根藩の船役人

は邦源の言うとおりに、娘のお香とその用心棒と小者

に気楽に彦根の土を踏ませたのである。


 正英は、再度彦根潜入の命を受けて出発する翌朝、

雑賀孫六が己に渡した地図とそこに書いてある有田屋

一歩十蔵 (いっぽじゅうぞう)という文字を確認し、そ

れからお香に見せた。

 お香は、彦根には幼いころから遊びに来ていて詳し

く、すぐに有田屋を探し当てる。

 有田屋はまあまあの大きさの居酒屋であったが、戸

が閉まっていて「本日休業」の札がかかっていた。

 なぜか店の脇に大きな蛙の信楽焼きがあった。

 入り口の戸を叩いたが、何の応答もない。

「一歩という方はいませんか」

 もう一度、戸を叩きながら呼びかけると、中から声

がした。

「誰もいませんよ」

 正英が良之介を見て、

「いないといってるな」

 というと、

「そうですね。また来ましょうか」

 といい二人は有田屋から去りかけた。

「あんたたち、頭おかしくない」

 お香が怒鳴った。

「いないといってる人がいるでしょ」

「アッ」「そうか」

「やっぱり頭がいいよね」

 二人はお香をほめたが、

(あんたたちが頭悪すぎ)

 とお香は思うだけである。

 店の戸が開き、三五、六の男が顔をだした。

 眉毛が垂れて笑ったような顔をしている。

 三人をみつめ、手招きした。

 三人が戸をくぐって店に入ると、すぐに戸は閉めら

れた。

「この有田屋の主人安吉と申しますが、ある方は私の

ことを一歩十蔵と呼びます」

 と男はいった。

「ある方とはわしのことだぞ」

 一段高いところにある小窓からさす光で、奥にある

囲炉裏のある板張りの部屋が見える。

 声はそこからである。

 正英と良之介はどこかで聞き覚えのある声と感じて、

そちらを見ると、肘を枕に寝ている男がいる。

 男はゆっくり起き上がり、

「わしが分からぬか」

 という。

 雑賀孫六であった。

 以下百二十一に続く

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