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琵琶湖伝  作者: touyou
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第二部琵琶湖決戦編百十七「岡本お香伝」

 第二部琵琶湖決戦編百十七「岡本お香伝」

 岡本邦源は話を続けたのだが、この話は長くなるので

話の前半は要約とする。

 お香は伊賀の国の頭領格の家である服部半蔵の子であ

る。

 妾腹に生ませたのだが、産後の肥立ちが悪く、お香の

母親はお香を生んですぐに死んだという。

 半蔵は、お香を服部家の娘として当然育てようとした

のだが、正妻の反対にあい、里子にだすことにした。

 半蔵はお香をもらってくれる家を探すが、伊賀の国の

住人にはいくら半蔵の頼みでも、

(今はそれどころではない)

事情があった。

 お香の生まれた一五八〇年は、その前年より織田信長

が伊賀を支配下におこうと躍起になり、次の八一年には、

信長の大軍勢が押し寄せ伊賀全土が焦土と化した「天正

伊賀の乱(一五八一年九月、信長は天下布武の旗印のもと、

伊賀を徹底的に殲滅する作戦に出た。信雄を総大将に丹

羽長秀、滝川一益、蒲生氏郷ら錚々たる面々と数万の大

軍を周囲六道から一斉に攻め込ませた。迎え撃つ伊賀勢

は約九千、あっという間に伊賀各地の神社仏閣や城砦は

焼き払われた。伊賀勢はほぼ全滅に近い打撃を受けた)」

が起きるという、まさに伊賀にとって危急存亡の時代で

あったのだ。

 いずれにせよ赤子のお香を伊賀に置くこと自体、お香

の命を危険にさらすことが予想された。

 ではどうするかに悩んだ半蔵は、思い切って武術の修

行にしばしば伊賀を訪れていた、近江堅田の岡本邦源に

頼むことにし、腹心の喜市包厳にお香を託し己の手紙を

添えて堅田に向かわせる。


 ここまで淡々と話していた邦源は、急に口元を緩ませ

た。

「この喜市包厳というものは異常に髪の毛が細いおとこ

でな。わしは半蔵の手紙を読み、虫の良いことを言って

きたなと思ったのだが、嫁をもらって十年以上経つのに

子供は八歳になる邦長 (くになが)しかできず、赤子のけ

がれのない顔をみているうちに、これも何かの縁かと考

えだしてな。「もらっていただければ、服部家とお香と

は以後何の関係もない」という半蔵の手紙の文面を信じ

て、お香をわが子とすることに決めたのだ。喜市は、織

田家の軍事的圧迫を受けている伊賀の窮状を述べて、伊

賀においていては確実に織田方に狙われる子をお助けい

ただき、主人半蔵に代わって感謝いたしますと涙を流し

て喜び帰っていったよ。ただ其の時、強風が吹いて、パ

ラパラッと喜市の髪の毛が抜け落ちて百本ほどはるか彼

方に飛んでいったのには、もうおかしくておかしくて、

泣きながら帰っていく者を笑うわけにもいかず、姿が見

えなくなるまで我慢して、あとは家中のものと大笑いし

た。わしが抱きかかえていたお香も笑っているようだっ

た。傍らにいた、お香が十二歳のときに死んだわしの妻

が、人差し指でお香のほっぺを軽くつつくと、眼を丸く

してわしらを見てな。其の時、堅田湖族衆総代にして堅

田水舟拳の継承者たる岡本家の娘として、どこにだして

も恥ずかしくない娘に育てようとかたく心に決めたのだ」

 邦源は青白くなってきた湖面を見つめながら、自分の

言葉に何度も頷いていた。

 以下百十八に続く

 ヨコ書きこの下のネット投票のクリックして一票入れてください。これを書いた努力賃です、情けをかけておくんなさい。

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