表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琵琶湖伝  作者: touyou
117/208

第二部琵琶湖決戦編百十五「琵琶湖激誘波」

 

 石畳を抜けると木戸があり、木戸を開けて中にはいる

と季節のもみじの木が数本、やや大き目の石灯籠からこ

ぼれる明かりに照らされて、何ともいえぬ趣ある赤の色

をだしている。

「だんな様」

 門番が声をかける。

「あとはわしが、やるから」

 声をかけられた男がいい、門番は帰っていった。

その主人らしき男は、背は正英と同じ百六十センチほど

だが、筋肉質で贅肉などない体つきである。

 おそらく岡本邦源であろう。

 お香から六十歳と聞いていたが、頭髪にはたしかに白

髪がまじっているものの、とてもそんな年とは思えない

若々しさである。

 顔は丸顔でどちらかといえば愛嬌のある顔だが、ただ、

日に焼けた顔のなかに鋭く光る眼は、いかにも堅田の湖

水を守る男だという印象を人に与えるものであった。

 正英と良之介が挨拶をしかけると、その男はおもむろ

に両腕を胸の前で交差し、なにやら呪文のようなものを

つぶやくと、両腕を前に突き出した。

 その刹那、男の背後からすさまじい量の水が湧き上が

り、男を越え、正英と良之介に襲いかかった。

「うわぁ」

 突如、洪水のごとき水に襲われ、現実を超えたそのシ

ュールな技に二人は立ちすくみ、眼を閉じて恐怖の声を

挙げるしかなかった。

「どうぞ眼をあけてくだされ」

 男の言うがままに二人は眼をあけた。

 さっきと変わらぬ風景である。

「ちょっとイタズラが過ぎたかの」

 狐につままれたような顔をする二人に、男は笑いなが

らいう。

「こわかったでちゅ」

「びっくりしちゃった」

 正英と良之介は、突然の信じられない状況にどう応ず

べきかわからなくなり、心理機制の果てに退行化現象を

起こし、幼児化したのである。

「そうでちゅか。ごめんなちゃい。むちゅめの男にちょ

っと、むかついちゃったの」

 付き合いのいいオヤジである。

 二人の息が整ったのを見計らい、

「今のは、堅田水舟拳の技のひとつ琵琶湖激誘波(げきゆ

うは)。水が出たと思われたのは、わしの作った幻覚で、

実際には何もない」

 と男はいった。

 琵琶湖激誘波は、洪水が襲うような幻覚を敵に見せ、今

回は行っていないが本来の技は、その一方で幻覚に気をと

られている敵に「気玉( きぎょく 体内の気を集めたすさ

まじいエネルギーをもつ見えない玉。空気中をはしり相手

に致命的打撃をあたえる)」を発して、はるかかなたに吹

き飛ばす技である。やられた相手は、波にさらわれていく

ような感覚を覚えることになる。

 男は威儀をただすとさらに続けた。

「堅苦しい挨拶は苦手だが一応させてもらう。拙者は堅田

湖族衆総代、岡本邦源。このたびは、娘お香を嫁にもらっ

てくれるとのこと。井原正英殿、ふつつかものでござるが

よろしくお願い申す」

 岡本邦源は花嫁の父として、その身分や格式にこだわら

ず、正英に誠意をもって接したのだ。

 しかし、どう考えても邦源が、

「娘をよろしく」

 と丁重に挨拶しているのは、市来良之介のほうである。

(未来のおとうさん、僕のほうに言わないと)

 微笑みながら、心でつぶやく正英であった。

 以下百十六に続く。

 ヨコ書きこの下のネット投票のクリックして一票入れてください。これを書いた努力賃です、情けをかけておくんなさい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ