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琵琶湖伝  作者: touyou
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第二部琵琶湖決戦編百十一「雨中の脱出」

 通りで待ち受けたのは、暗殺隊のうち十名。

 暗殺隊は探索をあきらめ近江屋に戻って来た者や膳所藩

の応援六人を含めて、二十人。

 喜市包厳は、膳所藩のものと伊賀者を引きつれ青葉屋内

部から攻め、外へは山内記念以下のものを配置していた。

 その配置の真っ只中に、宮内平蔵は降り立った。

 平蔵は、顔を上に向けた。

 雨が、妙に顔に痛い。

 暗殺隊の一人が、ズブ濡れになりながら斬り込んで来た。

 平蔵は、横殴りに太刀を振るった。

 斬りつけて来た者の胴が割られ、その刀が雨の中を高く舞

い上がった。

 男は地上に転がったが、かすかなうめき声は雨の音に消さ

れる。

 水溜まりが、赤く濁る。

 宮内平蔵は、走り出した。

 そして走りながら、太刀を左の逆手に持ち替え、右手を柄

頭に添えた。

 平蔵に追いすがろうと左側から来た男に、その太刀を繰り

出した。

 脇腹を突かれて、男は道中脇の店の板戸にぶつかりながら

転倒した。

 通りの暗殺隊が、宮内平蔵の剣先で混乱したのを見た暗報

は、脱出の好機と、外に飛び降りようとするが、その暗報に

向かい、しびれ薬の白煙の中から、分銅がスルスルと伸び、

首に巻きついたのである。

 喜市包厳の持つ鎖鎌から放たれた、執念の一投であった。

「あらまぁ、うぅー」

 暗報は、己の首の骨がきしむ音を聞いた。

「もう、だめぇー」

 情けない声を出しながら絶命しかける暗報だったが、天は

暗報を見捨てなかった。

 突如、分銅の締め付けが緩んでいったのだ。

 無念、無念、無念。

 暗報のしびれ薬の威力の前に、喜市包厳が屈し、意識を失っ

たのである。

 暗報は、首から分銅をはずすと、宮内平蔵を追っていくも

のたちを確認し、通りに降りると、首の痛みに耐えながらそ

の逆方向に走っていった。


 雨に煙る路上に、百姓姿ながら、白いたすきをかけ、青色

の生地に赤い字で「新免無敵」と書かれた鉢巻きをしっかり

額に結んだ男が、平蔵を待ちうけていた。

 一人、他の者たちから離れ平蔵の逃げ道に先回りをしてい

た、山内記念である。

 山内記念は、十代のころより当代一の十手の使い手といわ

れた美作(岡山県北東部)の国、宮本村の新免無二斎 (しん

めんむにさい)の元に年に何度も通い、十手の修行に励んだ。

 ちなみに新免無二斎は、後の剣聖宮本武蔵の父である。

 三十を過ぎてのち同心の仕事が忙しく、宮本村に行けなく

なった記念は、それ以後十年間、新免流の十手術の修行を独

力でおこなう。

 昨年の暮れ、無二斎が、山内記念の家に、

「来年から豊前小倉藩の食客となる。九州に行く前に、お前

の十手がみたくなった」

 とふらりと現れ、記念の技を見て、

「わが技の継承者は、おぬしだ」

 と免許皆伝の代わりとして青地に赤の「新免無敵」の鉢巻

きを渡したのである。

 以下百十二に続く


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