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琵琶湖伝  作者: touyou
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第二部琵琶湖決戦編一〇七「ゆれる明かり」

「かなりの人数か」

 高西暗報がひとりごとのようにいった。

「そのようで」

 他人ごとのようにうなずいたのは、宮内平蔵。


 平蔵は、この日の夜、烏丸中将成幹より命令を受ける。

「明日のいつごろかはわからぬが、井原正英と市来良之

介というものが、東海道をのぼってくる。街道の分岐点

となる草津の手前の街道沿いで張れば、必ずそのものた

ちと会う。そこで二人を殺してもらいたい。かなり手ご

わい相手なので、高西暗報を連れてゆくように」

 とのことであった。

 殺すべき二人の身体的特徴と似顔絵をもらい、そのま

ま烏丸邸を出て、暗報を誘い夜の京の町を大津に、そし

て、草津にむかった。

 暗報の住居の近くの五条橋から大津まで二十キロも考

えればよい距離であり、ふたりは、平蔵が持った提灯で

足元を確かめながら逢坂山をめざす。

 そのあいだに暗報は、正英と良之介の似顔絵を頭に叩

き込んだ。

 そうやって、逢坂山の坂の上りを越え、下りに入った

とき、

(おや・・・・・・)

 暗報は、妙な気持ちになった。

 自分たちのあとを、二人の男がつけていることは分かっ

ていたのだが、その男たちのさらに背後から、

(ひたひたと押し寄せてくる)

 気配を感じたのだ。

 それが、冒頭の、

「かなりの・・・・・・」

 になったわけだ。

 だが、そのことで暗報も平蔵も歩みを緩めるでもなく、

後ろも見ない。

 月明かりのみが頼りのこの夜道で、尾行者が提灯をもっ

てつけるはずもない。

 自分たちの提灯のみが、近くにいる尾行者の頼り。

 逢坂の関を通過し、蝉丸神社(浄瑠璃で有名な盲目の琵

琶の名手、蝉丸を音曲の神様として奉る)に差し掛かった

とき、暗報の提灯の明かりが消える。

 尾行の伊賀者二人は、頼りが闇に消えたので一瞬たじ

ろぎ、小走りになる。

 ここまで来て、逃げられたのでは、苦労も水の泡。

 小走りは、尾行者の自然な動きであった。

 すぐに提灯の火が、ゆらりゆらりと揺れながらあらわれ

た。

 遠目にみる伊賀者二人は、一定の距離をとり、提灯の動

きを見る。

(・・・・・・)

 動かない。

 提灯の火はまったく、その大きさを変えない。

 まさかと思いながら、腰の太刀をいつでも抜けるように

して、油断なくその火に近づいた。

 なんと、提灯は蝉丸神社の入り口の木の枝にぶらさげら

れていたのだ。

「しまった」

「逃げられたか」

 うろたえる伊賀者たちの顔が、ゆれる明かりに映し出さ

れたとき、彼らの顔をめがけ、剣がうなった。

「ぎゃぁっ」

 血けむりをあげて転倒する二つの影。

 宮内平蔵は、いったん火を消し、あわてさせ、火をつけ

て落ち着かせ、次に明かりをとどめることで、あわてさせ

と尾行者に心理戦を仕掛けた。

 そしてその神経を、

「逃走」

 に集めさせ、精神的にまったく無防備となった一瞬を狙

い、電光石火の殺人剣をふるったのだ。

「ヒヒヒヒヒヒッ」

 暗報が、笑いながら闇の中から現れ、倒れ伏し動かなく

なった二つの影を草むらに運びこんだ。

「暗報さん急ごう。近づいてくる足音は、十人以上はいる

ぞ」

「あわてない、あわてない。平蔵、いい仕事をしますねぇ。

ククッ。大津の宿に入れば、もうどこにいくかはわからぬ

な。琵琶湖を西に行けば堅田。東に行けば、草津からは行

きたい放題」

 二人は、逢坂山を下り、大津に入っていく。

 さきほど暗報に草むらに引きずられた伊賀者の一人が、

目を開く。

 苦しい息を吐きながら、ふところから、忍び火を出した。

 彼は、この尾行の間、忍び火を各所に置き、後にくる者

たちの道しるべとしていた。

 尾行者としての仕事を全うするために、その忍び火を己

の傍らに置き、絶命した。

 高西暗報と宮内平蔵は、最後の仕事をして死んだ伊賀者

のことなど知る由もない。

 そして、最後の忍び火を発見し、怒りに打ち震える暗殺

隊のことなど、なおさら知るはずがなかった。

 以下一〇八に続く

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