エレベーター(箱物語24)
学校からの帰り。
家まであと少しというところで、いきなり夕立に見舞われた。
カミナリもゴロゴロと鳴る。
ボクはマンションにかけこんだ。
エレベーターに乗り、一番上のボタンを押す。最上階、55号がボクのうちなのだ。
エレベーターが上昇し始めるとともに、表示ボタンの点灯が①から②③と右に移る。
と、そのとき。
エレベーターの電灯がいきなり消えた。
――カミナリで停電?
でも、真っ暗ではない。非常用電源が作動し、表示ボタンの点灯は残っている。
電源さえあれば、エレベーターはそのうち動くはすだ。
ボクはひとまずホッとした。
――うん? ④なんてあったっけ。
はじめて見る④の表示ボタンで、しかも最上階として点灯が止まっている。なぜか⑤がなくなり、それまで抜けていた④に変わっていたのだ。
――いつ変わったのかな?
そんなことを思っていると……。
非常用電源が作動したらしく、天井の電灯がついてドアが開いた。
――ネコだ!
真っ黒なネコがちょこんと、エレベーターの前に座っている。
はじめて見るネコだった。
――よく入れたな? それもここまで……。
外に非常階段はある。だけど境の通路にはドアがあって、ふだん出入りできないはずだ。人についてエレベーターで上がってきたか、そうでなければ最近になってだれかが飼い始めたのだろう。
不思議に思いながら、ボクは黒ネコを横目にエレベーターを降りた。
――早いとこ、着がえなくちゃあ。
黒ネコを残して、ボクのうちへと急いだ。
――あっ!
玄関のドアを開けると同時に、さっきの黒ネコがいち早く部屋の中に飛びこんだ。ボクのあとについてきていたらしい。
さらにおどろいたことに、なぜか部屋には家具などがひとつもなく、ドアの上には44号のプレートがあった。
――さっきもだ。
エレベーターといい、うちの部屋といい、ないはずの4という数字がある。
とにかく黒ネコを追い出そうと、靴をぬいで部屋に上がった。
ところが……。
黒ネコは消えていたのである。
ボクはエレベーターにもどった。
昇降ボタンを押す前に、ドアの上の表示ボタンをたしかめた。やっぱり⑤はなく、一番右はしの数字は④である。
下向き矢印のボタンを押した。一階にいる管理人さんにたずねてみようと思ったのだ。
エレベーターに乗り、①のボタンを押す。
エレベーターが降り始め、ボタンの点灯が④から③②と左に移ってゆく。
と、またしても電灯が消えた。
――また停電?
そう思ったとき、スゥーとドアが開いた。
外の明りが入り、エレベーターの中が明るくなる。
――えっ?
さっきまであった④のボタンがなくなって、⑤に変わっていた。なぜだか表示ボタンがもとにもどっていたのだった。
「前は4という数字も使っていたんだがね」
管理人さんの話によると――。
ボクらが引っ越してくる前までは、このマンションは4という数字が使われていた。使われなくなったのは、44号の部屋で奇妙な事件があってから。
その事件。
44号の部屋には、黒猫を飼っているおばあさんが住んでいた。ところが病気で入院したまま帰らぬ人となり、残された黒猫は部屋で死んでいたそうだ。
最後に、管理人さんはこう言った。
「そのあとも、しばらく猫の鳴き声が聞こえてね。それからだよ、4を抜かして5にしたのは。4という数字は昔から不吉だからね」
ということは……。
黒ネコの消えた44号の部屋は、いまボクの住んでいる55号の部屋となる。




