第五章:土蔵の雀
大地主・当兵衛の屋敷は、立派な冠木門を構えていた。 半七は門の前で辰蔵に確認した。 「鷹は、どうした」 「へい。入れる籠がねえから、とりあえず、土蔵の中さ入れておく、と……」 「土蔵はいくつある」 「五戸前ござんす」
半七は門を叩き、当兵衛を呼び出した。 「御用だ。土蔵の戸前を、すべて開けて見せろ」 突然の「御用」の声に、当兵衛は震え上がった。 おどおどしながらも、五つの土蔵の扉を、次々と開けていく。
「よし。……お爺さん、頼む」 半七の合図で、鳥さしの老人が、羽を洗われて元気を取り戻した雀の籠を抱え、進み出た。
老人はまず、一の蔵、二の蔵の扉の隙間から、雀を二、三羽ずつ投げ込んだ。 ——シーン。何の反応もない。 三の蔵も、静まり返っていた。
半七は、四の蔵と五の蔵の扉を、半分だけ閉めさせた。 老人が、四の蔵の暗闇に向かって、三羽の雀を放り込んだ。
その瞬間。 「——バサバサッ!」 蔵の奥から、激しい羽ばたきの音が響いた!
「いたぞ!」 半七と老人が蔵の中に飛び込むと、暗い隅で、二つの鋭い光が雀を睨みつけていた。 ——鷹だ! 鷹は、足の緒を柱に厳重に縛り付けられながらも、必死に雀を捕らえようともがいていた。
心得た老人は、静かに鷹に近づき、その緒を解いてやった。 鷹は一瞬で飛び立ち、逃げ遅れた一羽の雀を掴み取る。 (残り二羽は、運良く表へ逃げ去った)
獲物を仕留めた鷹は、満足したように、老人の差し出す拳に、おとなしく戻ってきた。 「……間違いありやせん。光井様の鷹、『雪の山』でござんす」 老人は、涙声でそう言った。
事件は、これで落着した。 だが、これを表沙汰にすれば、血の雨が降る。
鷹を違法に買い取った当兵衛は、死罪。 仲介した辰蔵も、死罪。 お杉は、女とはいえ、共犯として遠島か。 そして、将軍家の鷹を捕らえながら、私欲で売り払った吉見仙三郎は、不埒重々として、間違いなく死罪。 もちろん、発端を作った光井金之助も、切腹は免れない。
一羽の鳥のために、五人の人間が命を落とす。 (……馬鹿馬鹿しい)
半七は、当兵衛と辰蔵に、地の底から響くような声で言い渡した。 「てめえら、とんでもなく運のいい奴らだ。いいか、今日のことは、墓場まで持っていけ。もし一言でも外に漏れたら、その時は、てめえらの首が飛ぶ。そう思え」 二人は、土間に額をこすりつけて拝んだ。 鳥さしの老人も、半七の手を取って泣いていた。
二日後。 鳥さしの老人が、神田の半七の家を礼に訪れた。 光井金之助も、叔父の弥左衛門も、改めて礼に伺う、とのことだった。 「なに、あっしはお役を果たしたまででさ」 半七は笑って茶を勧めた。 「それにしても、お爺さん。あんたは、どうしてあんなに光井さんのために心配したんだい? よほど昵懇なのかね」
すると、老人は照れくさそうに頭を掻いた。 「へへ……お恥ずかしい。旦那様だから申し上げますが、実はあっしにゃ、十八になる娘がおりやしてね……」
「……十八になる娘?」 半七は、一瞬きょとんとし、やがてすべてを察して、大声で笑い出した。
「ははあ、なるほど! あんたの娘なら、さぞ美しかろう! それだのに、光井の若旦那は、品川なんぞでフラフラしてたってわけか! こいつは傑作だ! ——おい、爺さん。若旦那にこう言っときな。あの騒動は、みんな、あんたの娘さんの『思い』が鷹に乗り移ったんだ、ってな!」




