エピローグ:江戸の名探偵
俺は、あの半七の鮮やかな推理に、改めて感服した。草双紙の中から幽霊を見つけ出す、あの鋭い眼力。大した男だ。
ちなみに、浄円寺の住職は、それから半年後に女犯の罪で捕まったそうだ。お道さんは、危ういところで半七に救われたのだった。
「いいかい、この話の真相は、小幡夫妻と俺の三人しか知らないことだ。小幡は維新後、官吏になって今も立派にやっている。だから、今夜俺が話したことは、誰にも言いふらすんじゃないぞ」
Kのおじさんは、そう言って話を締めくくった。
話が終わる頃には、夜の雨もすっかり上がっていた。
この話は、幼い僕の心に、強烈な印象を残した。
半七にとっては、これはほんの朝飯前の仕事に過ぎなかったのかもしれない。だが、この一件をきっかけに、江戸という大都会の裏側で、人知れず活躍した一人の名探偵がいたことを、僕は知ったのだ。
僕がその半七本人に会うようになったのは、それから十年も後のことだ。日清戦争が終わった頃だったか。Kのおじさんは、もうこの世の人ではなかった。
半七は七十三歳になっていたが、驚くほど元気で、若々しいお爺さんだった。赤坂の隠居所で悠々自適の暮らしを送る彼のもとへ、僕は何度も遊びに行った。
そして、その茶飲み話の中で、彼の武勇伝の数々を聞かせてもらったのだ。
これから語るのは、そんな半七老人が聞かせてくれた、数ある事件の中から、僕が特に面白いと感じた物語の数々である。時代も場所も、順序は問わずに――ここに、江戸一番の岡っ引きの捕物帳を書き記そうと思う。




