エピローグ:それぞれのその後
「おっと、すっかり暗くなっちまいましたねぇ」
半七老人は、そう言うと、立ち上がって、頭上の電灯のスイッチをひねった。ぱっと、部屋が明るくなる。
「それで、その後の話ですがね。お冬は、その後も和泉屋に奉公を続けまして、それから、大和屋の旦那の骨折りで、和泉屋の娘分という形で、浅草の方へ、良い縁付きができたそうでございますよ。文字清師匠も、和泉屋へ出入りするようになりましてな。二、三年後には師匠稼業を辞め、やはり大和屋の旦那の世話で、芝の方へ嫁に行ったと聞いております。大和屋の旦那は、実に親切で、世話好きな、たいしたお人でした」
老人は、懐かしそうに目を細めた。
「和泉屋の方は、妹娘のお照さんに、腕のいい婿養子を迎えました。この婿殿が、なかなかの働き者でしてね。江戸が東京になると同時に、いち早く商売替えをして、今じゃ山の手で立派な時計屋をやってやすよ。あっしも、時々顔を出しておりやす」
そして、老人は最後に、少しおかしそうに付け加えた。
「不思議なもんで、この一件があってから、江戸の素人芝居で、ぱったりと忠臣蔵の六段目が出なくなったんでさ。やっぱり、後味が悪かったんでしょうな」




