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静時の流れ - 潮騒の誓約  作者: Minateru
残響の果てに

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21/99

残影の囁き

カチ…カチ…カチ…

カチ…カチ…カチ…

カチ…カチ…カチ…

…

家で唯一の時計が夜10時を告げる…

路地の闇がますます濃くなる…

…

「ハルと星間さんがなんでこんなに遅いの?」レンが時計を見上げる

「もしかして……迷子になったんじゃない?」

「誰でもお前みたいに方向音痴だと思うなよ、レン!」ネネが腕を組んで立つ

「誰がわかるかよ、ハルの忘れっぽさ知ってるだろ…」

「でも星間さんが一緒なんだから、大丈夫だよ」シノミが玄関の方を見る

…

「それが心配なんだよ。二人はハルが女の子にどんな影響与えるか知ってるだろ…」レンが空を指差して、もう片方の手で顎を支える

「それに、星間さんがハルを世話する様子見てたろ…」

「今頃二人は……」

…

シノミがぼーっと天井を見上げ、二人がしてるかもしれない想像が頭に響く

…

「わわわわっ!」シノミが両手を振り回して幻を追い払う

「レン、本気でハルがそんなことすると思うの?」ネネがレンを睨む

「2年以上一緒にいて観察した結果の推測だよ…」レンが両手を頭の後ろで組む

…

はっ…

「でも、こんな行動はいつものハルらしくない…」

「よし! 今から探しに行く! みんな家で待ってて!」レンが玄関に駆け出す

「私も行く…」シノミがすぐ後を追う

「十神さんのこと心配なんだね?」ネネがシノミの肩を掴む

「…でもダメ! 今はもう遅いんだから、女の子が夜中にうろつくなんて何が起こるかわからないよ!」

…

と、こと…

「大丈夫よ…」突然人影が近づく

「三日月さん、どういう意味ですか? なんで大丈夫なんですか?」ネネが厳しい目で三日月さんを見る

「この数日だけは…この街で…誰も危ないことはしないわ…」

「だから安心して行きなさい…」

「でも…」ネネが三日月さんに近づく

…

「家主がそう言ってるんだから、ネネ! じゃあ俺たち行ってくる!」レンが手を振って街へ飛び出す

「ここは任せたよ、ネネちゃん!」シノミが軽く頭を下げて走り出す

「もう…信じられない! 好きにしなさいよ!」ネネが手を振って二人を見る

………

電灯が消えた街で…

ただ孤独なろうそくの灯りと月明かりだけが…

…

「田中さん、あっち行って! こっちは俺が探す!」レンが夜の街に向かって、川とは逆を指差す

「うん、そっちお願い!」シノミが手を振って、川の方へ灯りを向ける

………………………………………………………………………………………………………………

とた…とた…

ぱさ…ぱさ…

…

「おい! ハル! どこだよ!」レンが走りながら周りをキョロキョロ

…

「早く出てこい! 帰るぞ!」レンの目が路地を忙しく見回す

…

そして真っ暗な夜に…弱い月明かりに…一つの人影が現れる…

…

ドン!

ドサッ…バタッ!

二つの体がぶつかり…互いに弾き飛ばされる

…

「うわ痛っ…」レンが腰をさする

「結局何にぶつかったんだ?」目を細めて影を見る

…

月明かりが徐々に照らすと…腕にギプスをした男が現れる

手に半分空いた酒瓶…服に挟まった写真…

…

「ちゃんと前見て歩けよ! 目が悪いのか!」男が酒瓶を振り回す

「すみません! わざとじゃないんです! 暗くて何も見えなくて!」

「は? 何言ってんだ? わざとじゃないってどういうことだ?」男が何度も頭を下げるレンを見る

…

「この顔…」

へへへっ…ぎゃははっ!

「お前かよ! 誰かと思ったら!」男がレンの背中を叩く

…

「ちょっと待って、おじさん…」レンが目を丸くする

「ったく、すぐ忘れるなよ」

「俺だよ! この前戦場で機体をくすねた奴だよ!」

…

「すみませんでした!」レンが頭を下げて腰を折る

「あの時は若気の至りで考えが浅くて…」

「いいよいいよ! もう過ぎたことだ…」男が手を振る

「むしろお前のおかげで俺は今ここにいるんだ」

「せっかくだから、一緒に一っ走りするか?」

「でも友達を探してて…」

「探しながら一緒に歩けばいいだろ…」男がレンの肩を抱いて引っ張る

………………………………………………………………………………………………………………

こつ…こつ…

ぱたっ…ぱたっ…

…

暗い夜に…月明かりだけが道しるべ…

川沿いのろうそくの列と逆へ…頭を下げた顔たちを回り道で…

…

「ふう、ちょっと休むか。あっちの川岸で!」男が川岸を指す

「はい、わかりました」レンがゆっくりついていく

…

月光が湖面に反射してきらめき…ゆっくり流れる灯り…

男が座り…目を細めて…

酒瓶を握り…頰を赤らめて…

…

「じゃあ、お疲れみたいですし、俺先に行きます!」レンがゆっくり後ずさる

…

くいっ!

「待て…」男がレンの袖を掴む

「すぐ行くなよ…」

「でも急いでて…」レンがまだ後退する

「お前まで…

…そうなのか…」男がゆっくり手を離す

…

「お前まで…

「俺を…捨てる気か…」男が顔を伏せて呟く

「彼らみたいに…

…か…

「わかってるよ…

…俺のせいだろ…

…この役立たずのジジイのせいだろ…」

…

ガシャァン!!

ガラスの破片が飛び散り…酒があちこちに…

水の跡が濃く残り…橋の欄干に染み…

…

「行け…行けよ…!」男が突然手を振る

「行け…

くそくらえ…!

みんなが…いつもやるみたいにな…」男の目が赤くなる

…………

レンが足を止め、体が固まり、目が離せない

「あの人たちは…どういうこと…誰が捨てたんですか?」レンが男の服の肩を掴んで揺する

「教えてください! 何があったんですか?」

…

…

「は? 何言ってんだ? 誰も俺を捨ててねえよ!」男がレンの手を払う

…

「まあいい、聞きたいなら話すよ…」男が腰の酒瓶を取り出す

…………

「昔の話だ…俺が部隊にいた頃…

俺たちは終盤にこの戦争に参加した…もう終わりが見えてた頃…

ああ…素晴らしい時代だった…

敵が次々攻めてきて…俺たちは突っ込んで…

結局いつも勝ってた…

…

ゴクッ…

男が酒瓶を傾けて一口…

…

「でも…協定が結ばれた…Sea and Soilの何か…」男が頭をかく

「Accord of Sea and Soilですよね?」レンが顔を上げる

「そうそう…あのクソ協定…

海産物と鉱物の採掘禁止の協定が何の関係が?」

「それがお前らの…習うことか…?」

「やっぱりお前ら…まだ若いな…」男が胸を叩く

…

「よく聞け…あの協定で人類は負けを認めたんだ…

戦場にいた俺たち全員…わかってた…

人類は…勝ってた…俺たちは…勝てた…

特にあの人が…伊狩さんが…俺たちと一緒にいる限り…

…

ゴクゴク…ゴクゴク…

「でも全部変わった…ある女のせいで…」男が酒を続ける

...

「あいつが伊狩さんを…戦う気を失わせた…

あいつのせいで…武器を下ろした…

…

俺たちは信じられなかった…信じたくなかった…

でも伊狩さんとあいつを見て…もしかしたら…共存できるかもと思った…

伊狩さんとその女が…二つの世界をつないだ…

そして一瞬…俺たち全員が…二人と一緒に笑ってた…

…

「どういう意味ですか?」レンが見上げる

「言葉のままだよ…ガキ…」男が空を見上げる

…

「伊狩さんとその女…

一度は…俺たちが肩を並べた…

一緒に祝った…

そして海と陸が…怪獣に団結して立ち向かった…

…

「でも…奴が現れた…本物のクズ野郎…」男が顔を伏せる

「金とコネだけで…あの女を奪った…

あの時がなければ…奴のせいじゃなければ…

奴がいなければ…俺たちはこんなことには…」男が立ち上がる

…

「あの日…一体何があったんですか?」レンが目を丸くして見る

…

「あの日…俺たち全員が…見たんだ…

俺たちの部隊も…敵も…目の前で…

あの卑劣な野郎が…女を犯して…止めてくれって叫びを無視して…

…

「そして伊狩さんが…体中から血を流して…6本の槍に突き刺されて…

あの日…海が怒り…全てが破壊された…

俺たち…生き残ったのは…伊狩さんが俺たちを先に会わせてくれたから…

………

ぽん…

「そんな…」レンが男の肩にそっと触れる

「俺…知らなかった…」レンの両拳が握られる

…

「いいよ…気にするな…お前らが知らなくても…

それは伊狩さんの…新世代への遺志の一部だから…

…

「知ってるか…

政府はあのことを知って…伊狩さんを糾弾した…

人類の裏切り者…女のために全てを捨てた奴だと…

そして一瞬…俺たちもそう思った…」男が顔を伏せる

……..

「俺たちは協定後に帰還した…

何事もなかったように…

全てが続いた…

…

寒い夜の見張り…凍える空気で…熱い茶を…

寒い夜…毛布を共有して…暖め合って…

湿った日…山道を越えて…見張りに…

暑い日のきついランニング…

小さな画面で…スポーツ観戦を…

酔っ払って…隊長に怒鳴られる日々…

あああの頃…

…

ゴクゴク…ゴクゴク…ゴクゴク…

酒瓶が半分以上空く

…

「最近の攻撃まで…」男の拳が握られる

「俺たちは思わなかった…海がまだ静まらないなんて…

誰も知らなかった…あんなものが来るなんて…

…

「あの瞬間…俺たちは顔を見合わせた…

あの時…行動してれば…今こうなってたか…

あの時…あいつを一人にしなければ…未来はどうなってたか…

…

「そして俺は…あの瞬間に死ぬはずだった…

あのバカ野郎がいなければ…

あの青い光は…俺たちを一緒に連れて行ったはず…

尊敬する隊長に…会いに行けたはず…

……

しゃり…

男が服から写真を取り出す

「今…俺が…どうやって帰れる…」男の目に涙が溜まる

…

「これは…」レンがこっそり見る

小さな家族…妻が子を抱き…男が二人を抱きしめて…

んっ!

「この女性…俺知ってる!」レンが跳ねる

「おじさん、この人知ってる! ついてきて!」レンが男の服を掴む

「本当か! 知ってるのか!」男が目を剥く

…

「知ってるなら教えてくれ! 早く!」

「どうなってる? ちゃんと暮らしてるか?」

「まあまあ大丈夫そうですよ、俺が見た限り…」レンが顔をかく

…

ふっ…

「そうか…よかった…本当によかった…」男が地面に崩れる

「でもここで聞くより、早く会いに行きましょう…

きっと待ってるはずですよ!」

…

「俺は…

帰れない…

でも…

お前にはわからん…俺みたいな奴が…帰る権利なんてない…

あの日に…消えるはずだった…

隊長…十神・伊狩さん…俺はどうすれば…」男の目が川と灯りに向く

…

レンが体を固くし、目を見開き、手を伸ばしては引っ込める

十神・伊狩…亡くなった人…

そして頭に響くもう一つの名前…十神ハル…

………

カチ…カチ…カチ…

水の波紋が灯りを押し分け…ろうそくが川の中央を避ける…

そして一瞬…巨大な黒い塊が…現れる

…

どたっ!

「これは…ありえない…」男が跳ね起きる

「どうして…ありえない…」男の目が見開かれる

…

カシャン!

持っていた酒瓶が落ちる…

ガラスの破片が飛び…酒が草に染みる…

……

「ガキ、俺について来い! 早く!」男がレンの手首を掴む

「何…何事ですか…」レンがよろめきながらついていく

…

ばたばた…ばたばた…

「急がないと…もっと急がないと…

おじさん…一体何が…」レンが見上げる

「ガキ…あいつらがここにいる…もう大変なことになる…」男の目が見開かれる

…

「今回は…今回は…」男の拳が握られる

「させるか…お前らに…また奪わせるか…

もう…一番大事な人を…失わせない…」





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