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静時の流れ - 潮騒の誓約  作者: Minateru
残響の果てに

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21/35

残影の囁き

カチ…カチ…カチ…

カチ…カチ…カチ…

カチ…カチ…カチ…

家で唯一の時計が夜10時を告げる…

路地の闇がますます濃くなる…

「ハルと星間さんがなんでこんなに遅いの?」レンが時計を見上げる

「もしかして……迷子になったんじゃない?」

「誰でもお前みたいに方向音痴だと思うなよ、レン!」ネネが腕を組んで立つ

「誰がわかるかよ、ハルの忘れっぽさ知ってるだろ…」

「でも星間さんが一緒なんだから、大丈夫だよ」シノミが玄関の方を見る

「それが心配なんだよ。二人はハルが女の子にどんな影響与えるか知ってるだろ…」レンが空を指差して、もう片方の手で顎を支える

「それに、星間さんがハルを世話する様子見てたろ…」

「今頃二人は……」

シノミがぼーっと天井を見上げ、二人がしてるかもしれない想像が頭に響く

「わわわわっ!」シノミが両手を振り回して幻を追い払う

「レン、本気でハルがそんなことすると思うの?」ネネがレンを睨む

「2年以上一緒にいて観察した結果の推測だよ…」レンが両手を頭の後ろで組む

はっ…

「でも、こんな行動はいつものハルらしくない…」

「よし! 今から探しに行く! みんな家で待ってて!」レンが玄関に駆け出す

「私も行く…」シノミがすぐ後を追う

「十神さんのこと心配なんだね?」ネネがシノミの肩を掴む

「…でもダメ! 今はもう遅いんだから、女の子が夜中にうろつくなんて何が起こるかわからないよ!」

と、こと…

「大丈夫よ…」突然人影が近づく

「三日月さん、どういう意味ですか? なんで大丈夫なんですか?」ネネが厳しい目で三日月さんを見る

「この数日だけは…この街で…誰も危ないことはしないわ…」

「だから安心して行きなさい…」

「でも…」ネネが三日月さんに近づく

「家主がそう言ってるんだから、ネネ! じゃあ俺たち行ってくる!」レンが手を振って街へ飛び出す

「ここは任せたよ、ネネちゃん!」シノミが軽く頭を下げて走り出す

「もう…信じられない! 好きにしなさいよ!」ネネが手を振って二人を見る

………

電灯が消えた街で…

ただ孤独なろうそくの灯りと月明かりだけが…

「田中さん、あっち行って! こっちは俺が探す!」レンが夜の街に向かって、川とは逆を指差す

「うん、そっちお願い!」シノミが手を振って、川の方へ灯りを向ける

………………………………………………………………………………………………………………

とた…とた…

ぱさ…ぱさ…

「おい! ハル! どこだよ!」レンが走りながら周りをキョロキョロ

「早く出てこい! 帰るぞ!」レンの目が路地を忙しく見回す

そして真っ暗な夜に…弱い月明かりに…一つの人影が現れる…

ドン!

ドサッ…バタッ!

二つの体がぶつかり…互いに弾き飛ばされる

「うわ痛っ…」レンが腰をさする

「結局何にぶつかったんだ?」目を細めて影を見る

月明かりが徐々に照らすと…腕にギプスをした男が現れる

手に半分空いた酒瓶…服に挟まった写真…

「ちゃんと前見て歩けよ! 目が悪いのか!」男が酒瓶を振り回す

「すみません! わざとじゃないんです! 暗くて何も見えなくて!」

「は? 何言ってんだ? わざとじゃないってどういうことだ?」男が何度も頭を下げるレンを見る

「この顔…」

へへへっ…ぎゃははっ!

「お前かよ! 誰かと思ったら!」男がレンの背中を叩く

「ちょっと待って、おじさん…」レンが目を丸くする

「ったく、すぐ忘れるなよ」

「俺だよ! この前戦場で機体をくすねた奴だよ!」

「すみませんでした!」レンが頭を下げて腰を折る

「あの時は若気の至りで考えが浅くて…」

「いいよいいよ! もう過ぎたことだ…」男が手を振る

「むしろお前のおかげで俺は今ここにいるんだ」

「せっかくだから、一緒に一っ走りするか?」

「でも友達を探してて…」

「探しながら一緒に歩けばいいだろ…」男がレンの肩を抱いて引っ張る

………………………………………………………………………………………………………………

こつ…こつ…

ぱたっ…ぱたっ…

暗い夜に…月明かりだけが道しるべ…

川沿いのろうそくの列と逆へ…頭を下げた顔たちを回り道で…

「ふう、ちょっと休むか。あっちの川岸で!」男が川岸を指す

「はい、わかりました」レンがゆっくりついていく

月光が湖面に反射してきらめき…ゆっくり流れる灯り…

男が座り…目を細めて…

酒瓶を握り…頰を赤らめて…

「じゃあ、お疲れみたいですし、俺先に行きます!」レンがゆっくり後ずさる

くいっ!

「待て…」男がレンの袖を掴む

「すぐ行くなよ…」

「でも急いでて…」レンがまだ後退する

「お前まで…

…そうなのか…」男がゆっくり手を離す

「お前まで…

「俺を…捨てる気か…」男が顔を伏せて呟く

「彼らみたいに…

…か…

「わかってるよ…

…俺のせいだろ…

…この役立たずのジジイのせいだろ…」

ガシャァン!!

ガラスの破片が飛び散り…酒があちこちに…

水の跡が濃く残り…橋の欄干に染み…

「行け…行けよ…!」男が突然手を振る

「行け…

くそくらえ…!

みんなが…いつもやるみたいにな…」男の目が赤くなる

…………

レンが足を止め、体が固まり、目が離せない

「あの人たちは…どういうこと…誰が捨てたんですか?」レンが男の服の肩を掴んで揺する

「教えてください! 何があったんですか?」

「は? 何言ってんだ? 誰も俺を捨ててねえよ!」男がレンの手を払う

「まあいい、聞きたいなら話すよ…」男が腰の酒瓶を取り出す

…………

「昔の話だ…俺が部隊にいた頃…

俺たちは終盤にこの戦争に参加した…もう終わりが見えてた頃…

ああ…素晴らしい時代だった…

敵が次々攻めてきて…俺たちは突っ込んで…

結局いつも勝ってた…

ゴクッ…

男が酒瓶を傾けて一口…

「でも…協定が結ばれた…Sea and Soilの何か…」男が頭をかく

「Accord of Sea and Soilですよね?」レンが顔を上げる

「そうそう…あのクソ協定…

海産物と鉱物の採掘禁止の協定が何の関係が?」

「それがお前らの…習うことか…?」

「やっぱりお前ら…まだ若いな…」男が胸を叩く

「よく聞け…あの協定で人類は負けを認めたんだ…

戦場にいた俺たち全員…わかってた…

人類は…勝ってた…俺たちは…勝てた…

特にあの人が…伊狩さんが…俺たちと一緒にいる限り…

ゴクゴク…ゴクゴク…

「でも全部変わった…ある女のせいで…」男が酒を続ける

...

「あいつが伊狩さんを…戦う気を失わせた…

あいつのせいで…武器を下ろした…

俺たちは信じられなかった…信じたくなかった…

でも伊狩さんとあいつを見て…もしかしたら…共存できるかもと思った…

伊狩さんとその女が…二つの世界をつないだ…

そして一瞬…俺たち全員が…二人と一緒に笑ってた…

「どういう意味ですか?」レンが見上げる

「言葉のままだよ…ガキ…」男が空を見上げる

「伊狩さんとその女…

一度は…俺たちが肩を並べた…

一緒に祝った…

そして海と陸が…怪獣に団結して立ち向かった…

「でも…奴が現れた…本物のクズ野郎…」男が顔を伏せる

「金とコネだけで…あの女を奪った…

あの時がなければ…奴のせいじゃなければ…

奴がいなければ…俺たちはこんなことには…」男が立ち上がる

「あの日…一体何があったんですか?」レンが目を丸くして見る

「あの日…俺たち全員が…見たんだ…

俺たちの部隊も…敵も…目の前で…

あの卑劣な野郎が…女を犯して…止めてくれって叫びを無視して…

「そして伊狩さんが…体中から血を流して…6本の槍に突き刺されて…

あの日…海が怒り…全てが破壊された…

俺たち…生き残ったのは…伊狩さんが俺たちを先に会わせてくれたから…

………

ぽん…

「そんな…」レンが男の肩にそっと触れる

「俺…知らなかった…」レンの両拳が握られる

「いいよ…気にするな…お前らが知らなくても…

それは伊狩さんの…新世代への遺志の一部だから…

「知ってるか…

政府はあのことを知って…伊狩さんを糾弾した…

人類の裏切り者…女のために全てを捨てた奴だと…

そして一瞬…俺たちもそう思った…」男が顔を伏せる

……..

「俺たちは協定後に帰還した…

何事もなかったように…

全てが続いた…

寒い夜の見張り…凍える空気で…熱い茶を…

寒い夜…毛布を共有して…暖め合って…

湿った日…山道を越えて…見張りに…

暑い日のきついランニング…

小さな画面で…スポーツ観戦を…

酔っ払って…隊長に怒鳴られる日々…

あああの頃…

ゴクゴク…ゴクゴク…ゴクゴク…

酒瓶が半分以上空く

「最近の攻撃まで…」男の拳が握られる

「俺たちは思わなかった…海がまだ静まらないなんて…

誰も知らなかった…あんなものが来るなんて…

「あの瞬間…俺たちは顔を見合わせた…

あの時…行動してれば…今こうなってたか…

あの時…あいつを一人にしなければ…未来はどうなってたか…

「そして俺は…あの瞬間に死ぬはずだった…

あのバカ野郎がいなければ…

あの青い光は…俺たちを一緒に連れて行ったはず…

尊敬する隊長に…会いに行けたはず…

……

しゃり…

男が服から写真を取り出す

「今…俺が…どうやって帰れる…」男の目に涙が溜まる

「これは…」レンがこっそり見る

小さな家族…妻が子を抱き…男が二人を抱きしめて…

んっ!

「この女性…俺知ってる!」レンが跳ねる

「おじさん、この人知ってる! ついてきて!」レンが男の服を掴む

「本当か! 知ってるのか!」男が目を剥く

「知ってるなら教えてくれ! 早く!」

「どうなってる? ちゃんと暮らしてるか?」

「まあまあ大丈夫そうですよ、俺が見た限り…」レンが顔をかく

ふっ…

「そうか…よかった…本当によかった…」男が地面に崩れる

「でもここで聞くより、早く会いに行きましょう…

きっと待ってるはずですよ!」

「俺は…

帰れない…

でも…

お前にはわからん…俺みたいな奴が…帰る権利なんてない…

あの日に…消えるはずだった…

隊長…十神・伊狩さん…俺はどうすれば…」男の目が川と灯りに向く

レンが体を固くし、目を見開き、手を伸ばしては引っ込める

十神・伊狩…亡くなった人…

そして頭に響くもう一つの名前…十神ハル…

………

カチ…カチ…カチ…

水の波紋が灯りを押し分け…ろうそくが川の中央を避ける…

そして一瞬…巨大な黒い塊が…現れる

どたっ!

「これは…ありえない…」男が跳ね起きる

「どうして…ありえない…」男の目が見開かれる

カシャン!

持っていた酒瓶が落ちる…

ガラスの破片が飛び…酒が草に染みる…

……

「ガキ、俺について来い! 早く!」男がレンの手首を掴む

「何…何事ですか…」レンがよろめきながらついていく

ばたばた…ばたばた…

「急がないと…もっと急がないと…

おじさん…一体何が…」レンが見上げる

「ガキ…あいつらがここにいる…もう大変なことになる…」男の目が見開かれる

「今回は…今回は…」男の拳が握られる

「させるか…お前らに…また奪わせるか…

もう…一番大事な人を…失わせない…」





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