表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静時の流れ - 潮騒の誓約  作者: Minateru
残響の果てに

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/35

平穏の下の暗流

遠くから、一軒の家が扉を大きく開けて、 slowly と出てきたのは、小さくて見慣れたシルエットだった。

「ケイちゃん、どうしてこんな時間まで帰ってこなかったの?」

少年が急に腰に手を当ててケイを見上げる。

「ごめんね、道がすごく混んでて……」ケイはにこっと笑って、軽く頭をかく。

「混んでるわけないでしょ、きっとまた寄り道してたんでしょ?」少年は腕を組んで、顔を少し横にそらす。

「それなら今日の唐揚げ、ケイちゃんの分はないから!」

「やだよぉ、ショーヤくん!意地悪しないでよぉ!」ケイがショーヤの体を激しく揺する。

「わかった……わかったって……とりあえず……」ショーヤが揺れる頭を抱えながら割り込む。

「ケイ、今何してるの? いきなりこの子を揺すって」俺が近づく。

「他人に急に飛びついたりするのはよくないよ、ケイちゃん!」レンがすぐ後ろから続く。

「他人に迷惑かけちゃダマえよ、特に初めて会う人には」ネネが腰に手を当ててやってくる。

「でも……ショーヤくんは他人じゃないもん……」ケイがぐるぐる回る目で少年を見る。

「どういうこと?」俺たち4人が一斉に目を吊り上げる。

「だって……私、この子と一緒に住んでるもん!」

「えええええっ!?!?」俺たち全員が固まる。

「どうしてそんなことになってるんだ? なんで見知らぬ男の子と一緒に住んでるんだ?」俺が慌ててケイの肩をつかむ。

「そうだよケイちゃん、何か無理やりされてるんじゃないよね?」シノミが心配そうに近づいて、腰を低くしてケイを覗き込む。

「だって……だって……これ、兄ちゃんの知り合いだから……一緒に住んでるだけで……」ケイがもじもじしながら顔を下げて、ちらっと俺を見上げる。

「知り合い……でも俺は……」俺が少年の方に目を向ける。

突然、あの運命がねじ曲がり始めた夜の映像が蘇ってくる。白い鎧の軍団が初めて現れた瞬間。

この顔……間違いない……あの瓦礫の中で助けた少年だ……でも……

「そうそう、ハル!この前、崩壊した街で連れて帰った子だよ!」レンが急に駆け寄って少年を支える。

「えっ……?」

「お兄さんたちは……」少年が片手で頭を押さえながら、半開きの目で俺たちを見る。

「この前の兄さん姉さんたちだ!」少年がぱっと目を見開いて立ち上がる。

「この前は母子共々助けてくれて、本当にありがとうございました!」

「いいよいいよ、困ってる人を助けるのは当たり前だろ?」レンが少年の頭をぽんぽん撫でて、にこっと笑う。

「でも……名前なんだったっけ?」レンが軽く頭をかいて、顔をそらす。

「それでよく知らべから飛び出してきたよね、レン?」ネネが冷たい目で睨んで、目が点になる。

「覚えてるって! ……名前だけが……ちょっと……ぼんやりしてて……」

「覚えてないなら覚えてないって言えばいいのに、体裁ばっかり!」

「覚えてるってば……えっと……名前は……」レンが少年を指差して、もう片方の手で頭をかき、顔をしかめる。

「あ……醤油しょうゆだったよな?」レンがキラキラした目で真顔で言う。

ぷっ……!

ははは……はははっ!

「何考えてんの……男の子に……醤油って名前つけて……」ネネがお腹を抱えて笑う。

「何笑ってんだよ、いい名前だろ!」レンが急に背筋を伸ばして、燃えるような目で俺たちを睨む。

ぷっ……くすっ……くすっ……

俺とシノミが必死に口を押さえて顔をそらす。

「お前らまで笑うなよ!」レンが手をばたばた振り回す。

「レン兄さん、次はちゃんと聞いてね!」ケイが優しくレンの腕をぽんと叩く。

レンの顔がトマトみたいに真っ赤になる。

「聞いてくれよ……」レンが少年の側に駆け寄る。

「こちらがショーヤくんです! 今、私が一緒に住んでるところです!」

「三日月翔也です、よろしくお願いします!」ショーヤが軽く頭を下げる。

「翔也くんで呼んでください!」

「よろしくね、翔也くん! 私たちは……」ネネが前に出て、俺たちを手で示す。

「はい、もう知ってます! ケイちゃんからみんなのことたくさん聞いてます……それに、俺たちをすごく助けてくれた人も前に話してくれて……」

「すごく助けてくれた人……でも俺たちはそんな人知らないぞ?」俺が首をかしげて翔也を見る。

「でも……その人はみんなとすごく仲がいいって……」

「ほら……その人……」翔也が後ろの家を指差す。

そして家から出てきたのは……

「お母さん、帰ってきたよ! 言ってた通りだ!」少年が家に向かって手を振る。

見慣れたもう一つの顔が現れる。松葉杖をつき、足にギプスをした女性。

「あなたが……」俺たちが呆然と見つめる。

「もうすぐ暗くなるし、みんなで中に入りましょう! 話は後でゆっくり!」女性が笑顔で体の向きをずらしてドアを開ける。

そしてもう一人の影がちらりと現れる。

「その通りよ! みんな、まずは入って入って!」風に髪をなびかせながら、笑顔が俺たちに向けられる。

星間ほしまさん!?」俺の3人の友達が同時に叫ぶ。

………………………………………………………………………………………………………………

現代的なLEDの灯り、冷房の涼しさ、テレビから流れるニュースの音。

本当に久しぶりに感じるこの感覚。

「うわー気持ちいい! この感覚めっちゃ懐かしい!」レンがソファに大の字になる。

「小林さん、少しは遠慮して! 他人の家ですよ!」シノミが髪をまだ濡らしたまま、小声で言いながら口元を隠す。

「いいじゃん……ちょっと休んでるだけ……」レンが目を細める。

ごんっ!

「しっかりしなさいよ!」ネネが首にタオルをかけながらレンの頭を拳で叩く。

「なんでいきなり自分の家みたいになってんのよ!」

「いいじゃん……久しぶりにこの感覚味わってるんだから……」レンが頭をさすりながらネネを睨む。

「三日月さんも困ってるでしょ!」ネネがキッチンを指差す。

「大丈夫よ、みんな。自分の家だと思ってくつろいでね!」三日月さんが笑顔で野菜を切りながら答える。

「ダメです、おばさん! もう十分お世話になってるのに!」ネネが両手を振る。

「お宅に泊めてもらって、物も使わせてもらってるのに、これ以上……」

「いいのいいの……どうせ普段は母子二人だけだから、人数増えても全然……」三日月さんが窓の外を見て少し遠い目をする。

すっ……

「ねえ、兄ちゃん。お風呂できたよ!」ケイがドアから顔を出す。

「うん、ちょっとこれ終わったら……」俺はスープを見ながら肉を切り続けている。

「大丈夫、私がやるから行ってきなさい!」三日月さんが俺の肩に触れる。

「でも俺たちお邪魔してる身で……」

「大丈夫ですよ、十神様! 後は私がやります」突然コウカが現れて俺の手から包丁を取る。

「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……」俺が包丁を置いて風呂場へ向かう。

………………………………………………………………………………………………………………..

「ぽたっ」

湯気が鏡を覆い、水面が落ちる雫ごとに小さく波立つ。

はぁ〜

俺は湯船に大きく伸びをして、縁に頭を預ける。

「やっと……全部終わった……!」手で目を覆いながら呟く。

「全部……悪夢みたいだった……」

「どれくらいぶりだろ……こんな風に浸かるの……」目がだんだん閉じていく。

ぽたっ…ぽたっ…ぽたっ…ぽたっ…

ぽたっ…

………………………………………………………

視界が真っ暗になり、どこからかぼんやりした声が聞こえてくる。

「お前……」

「お前の……」

「お前のせいだ……」

「忘れるな……忘れるな……」

「お前が……お前が……お前が原因だ……」

……….

声が四方八方から響き、闇に溶けていく。

その声はどこから……誰が……なぜ……

目が重い……体が動かない……

息が苦しい……

声を出そうとする……目を開けようとする……動こうとする……

でも……何も……何も起きない……

そして突然、空間が真っ白に輝く……

目が無理やり開かされる……

………………

目の前は戦場……ただの戦場……

死体が山積み……槍が天を突き刺す……

横転した車両……焼け焦げた旗……

遠くには巨大な機体が傷だらけで倒れ伏している……

「これ全部……」俺はゆっくり後ずさる。

「ぐっ!」

冷たく血の乾いた手が突然俺の足首をつかむ。

「お前のせいだ……お前のせいだ……」手がぎゅっと締まる。

「わからない……離してくれ……」俺が必死に足を振りほどこうとする。

「俺は何も……知らない……」目が震え、体が全力で逃れようとする。

「ぞろぞろ…うねうね…ぐにぐに…もぞもぞ…」

「お前のせいだ……お前のせいだ……」無数の手が四方から伸びてくる。

「返せ……返せ……返せ……」

「なぜだ……なぜだ……なぜだ……」

「見ろ……見ろ……見ろ……」

「知らない……俺は知らない……」俺は周りをキョロキョロ見回しながら、囲まれた手から必死に逃れようとする。

じたばた……むぎゅっ……

じたばた……ぎゅうぎゅう……

そして全ての手が俺の体を包んだ瞬間、

「見ろ……見ろ……」頭を固定され、髪を掴まれて後ろに引っ張られ、ある方向を指差される。

「罪だ……罪だ……罪だ……」

「許さない……許さない……許さない……」

そして全ての音がぴたりと止まり、ただ一つの声が響く。

「見ろ……お前たちの血が……どれだけの命を奪ったか……」

俺の目が大きく見開かれ、唇が震え、額に汗が伝う……

目の前は血の海……いや、巨大な血の海……

軍用車両が沈み……武器が血に染まり……

無数の手が水面から伸びるが、硬直して動かない……

巨大な機体が徐々に腐食されていく……

ぽこぽこ…ぷくぷく…

水面に突然泡が立ち始める。

ぷくぷく…

ぐちゅっ!

断線した回路の巨大な機械の体が浮上する。

「どばっ…ちゃぽん…ざあっ…ぼちゃん…」

真っ赤な水が滝のように流れ落ち、巨大な金属片が次々と落ちる。

そして赤い光が俺を直視する。

「ぐぐっ」

巨大な手が俺の体を締め上げる。

「じたばた…ぎゅっ…もがもが…ぎゅうぎゅう…」

「離せ……離せ……」俺が必死に暴れる。

そして俺を引き寄せる。

「やはりお前か……最後の生き残りめ……」

「弱い……小さい……」

「平凡だ……」

「そこにいろ……動くな……そうすれば……見逃してやってもいい……」

「どういう意味だ?」俺が睨み返す。

「諦めろ……忘れろ……降伏しろ……」

「その魚を……奴らに渡せ……」

「お前……何が目的だ? 諦めろ? 降伏? 引き渡せ?」

「最も近い者を……最も大切な者を捨てろ……」

俺の体が止まり、顔を伏せ、頭の中にはあの日の記憶だけが響く。

周りに捨てられた少女。

それでも笑って、いつもそばにいてくれた。

最悪の瞬間……あの方が永遠に去った時も……

「シノミ……お前は何を……」俺が呟く。

「アイツから何が欲しいんだ!」

「私が……欲しいもの? いつだってシンプルだ……」

「見るのが嫌でな……お前たちが絡み合って……全てを壊すのが……」

「くだらない感情のせいで……」

………

………

「断る!」

「なぜアイツを犠牲にしなきゃいけない?」

「なぜアイツがこんな馬鹿げた罰を受けなきゃいけない?」

「もう十分苦しんだだろ?」

「ふざけるな!」

「これが……お前の……最後の選択か……?」

「そうだ! 俺の選択だ! 何があっても!」

ぎゅうっ…むぎゅっ…ぎちぎち…ぐぐっ…

ぎゃあっ…あああっ…ああっ!

巨大な手が締め上げ、赤い光が体を包む。

「お前は知らない……アイツの罪……お前の罪が……どれほど大きいか……」

……………

ガンッ!

突然、青い軌跡を引く巨大な斧が機体の胴体を真っ二つに斬り裂く。

ぼちゃん!

俺が手から落ち、血の海が飛び散る。

むせっ…ごほっ…げほっ…

視界がぼやけ、まぶたが開いたり閉じたり……耳がキーンと鳴る……

そして最後に聞こえた機体の声……

「またお前か……なぜ……お前は奴らを守って……同胞を……仲間を忘れる……」

……

むせっ…ごほっ…げほっ…

「十神様……十神様……」

額に冷たい感触。

目が正常に戻り、そこには顔面蒼白のコウカがいた。

「十神様……大丈夫ですか……?」コウカが俺の背中をさする。

「わ、わたし……大丈夫……ちょっとだけ……」

「今のは本当に危険でしたよ、十神様!」

「でも俺はただ……」

「温度を見てください!」

「約……45度……45度!?」ぼやけた目が一気に開く。

「かなり長く入ってましたよ! これが長引いたらどうなるか分かりますよね?」コウカが心配そうに俺の手を強く握る。

「もし十神様に何かあったら……私……私……」

「つまり……さっきの映像……赤い目の巨大な機械は……」

………

「そう……全部、高温で長く浸かりすぎただけです」

「俺……俺……ごめん……」

「大丈夫ですよ、十神様。もう解決しましたから」

「さあ、早く着替えて下に降りてください。みんな待ってますよ!」

「うん……」

「このままの方が快適だと思ってるなら別ですが……」コウカがチラッと横を向く。

「でも他の女の子たちは絶対嫌がりますよ」

俺の顔が一気に真っ赤になり、反射的に跳ね起きて近くのタオルを掴む。

「すぐ着替えるから! コウカ、先に降りてて!」

「では失礼します……」コウカがくすっと笑って出て行く。

同時に小さな呟きが聞こえた。

「まさか……まだ生きてたなんて……しかもあんなことまで……」

………………………………………………………………………………………………………………

質素な夕食——味噌汁、焼き魚、野菜の煮物——を終えて、みんなそれぞれ家の中で散らばる。

…………………………………………

「そんな、洗い物なんてしなくて大丈夫ですよ、小林さん」三日月さんが笑顔で見る。

「そんなわけにはいかないですよ、三日月さん。みんな何かしら手伝ってるのに……」レンが皿を洗いながら大声で笑う。

「俺が怠け者になるわけにはいかないでしょ!」

「それに、何もしないとまた耳元でガミガミ言われるし!」レンが顔をしかめて、ネネとシノミが子供たちと遊んでいる方を見る。

「ああ、なるほど……」三日月さんが視線を追う。

「でも……」

「ハル……この女たらし……みんなの前で堂々と女の子に言い寄りやがって……」レンが歯ぎしりしながら皿をぎゅっと握る。

「しかも仕事中に女の子の膝枕で寝やがって……」

「ふふっ……くすっ……」

三日月さんが顔をそらして笑いを堪える。

.…………………………………………..

「本当は今手伝えるのに……」俺は動けずに天井を見上げる。

「ダメです! 今はまだ動いたり働いたりしちゃダメ!」コウカが背筋を伸ばす。

「でも……そこまでしなくても……コウカ?」

「もちろん必要です!」コウカがにこにこ笑う。

「でも……」

「必要です」

「でも……」

「すごく必要です!」

「せめて水くらい飲ませて……?」

「もちろん! 熱中症の後は電解質補給が超大事ですから!」

まだ少しフラフラする頭で、コップが手の中で震える。

無意識に窓の外を見ると——

外の道は真っ暗で、まるで全域停電のよう。

小さな灯りがぽつぽつと続き、寂しく、弱々しく進んでいく。

そしてその灯りの上に——

「とぼとぼ…よろよろ…どしんどしん…」

一人、また一人……ゆっくり歩いていく。軍服を固く握りしめたまま……

俺の目が大きく見開かれ、指先が窓にそっと触れる……

俺が振り返った瞬間——

「コウカ、外が——」

「十神様、少し外を散歩でもしましょう!」コウカがにこっと笑って俺を見る。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ