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静時の流れ - 潮騒の誓約  作者: Minateru
残響の果てに

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17/35

闇空を覆う雲のその向こうへ

……………..

「もしもし?...... 誰かいる?」

視界いっぱいに広がる濃い霧の中、完全に知らない空間。

俺は立ち尽くし、辺りを見回した。白い霧と雲海だけ。

シュプッ…

一歩踏み出してみる。足元を見ると、そこら中が水面だった。

チャプ…シュポッ…フワッ…ジュプ…

歩き、歩き、歩き続けて、そして俺は凍りついた。目の前に人影。

「お前は誰だ?」俺は遠くの黒いマントの背中に指を向ける

「俺が誰か……そんなに大事か……?」背中が軽く振り返るが、顔は見せない

「当たり前だ! 知る必要がある……」俺は両手を前に出し、腰を少し曲げた

「さっきまで俺はあそこにいた……篠見を抱いてて……蓮が横を走ってて……黒鉄さんたちのグループも……そしてあの怪物も……」

体が止まり、頭を下げ、額に手を当てる

「あの怪物……みんな……みんなはどうなった?」俺は黒い背中に駆け寄る

「蓮は? 黒鉄さんたちは? 煌花も……」

「そして……篠見は……まさか……?」俺はそいつの肩を掴む

「すべては終わった……」そいつの手が俺の手の上に乗る

「君が心配していたもの……もう必要ない……」

「そう……なのか……?」俺は後ずさり、手を離す

「ありえない……ありえない……あんな化け物が……」

「まさか……」

「本当にそうなのか……? まさか全部……ただの……」

「……作り話だったってことか? それが君の言いたいことか?」背中が少しだけ振り返る

「……他に何がある! そんなわけないだろ!」俺は腕を強く振る

「こんな巨大な化け物が……みんなを……そのままにしておくはずがない……」

「だったら自分で確かめてみろ」男は霧の中の一点の光を指す

「それは……」俺は目を凝らす

「……君が探している答えだ……」

「だが……一つだけ覚えておけ……」男が光の前に立ちはだかる

「何を……何を覚えておかないといけない……?」

ジャブッ…チャプッ…ポチャッ…

「これを見ろ!」男が湖面の水を掬い、俺に差し出す

水面に映像が浮かび上がる

……………………………………………………………………

ザーザー…ジャージャー…

ヒューヒュー…ビュウウウ…

バシャバシャ…ジャバジャバ…

真っ黒な空、叩きつける雨、風に踊る波、黒い海と白い泡

バリバリ…ドーン!ズドーン!

雷が空を裂き、空間を白く染める

そしてその中に、二つの巨大な影

俺は目を細め、顔を近づける。そして目の前に

ゴォォォォ…

長い巨体が触手に巻かれながら必死に暴れている

…………

「これが……俺と何の関係が……?」俺は男を見上げる

シュュュッ…

「見るだけじゃない……聞け……」男の視線は水面から離れない

「見るだけじゃない……感じろ……」

俺は固まり、もう一度映像に目を落とす

…………

「やめて……お願いだからやめて……これ以上は……」映像から声が漏れる

………

「人の声……? どこから……」

俺は必死に水面を探す

………

「お願い……もう十分……もう十分すぎる……」また声

ズドーン!

雷が闇を裂き、長い巨体の姿がはっきり浮かぶ

………

「あれは……龍……? でも……そんなのただの空想のはず……」喉が凍る

……………………………

クフフフフ…キャハハハハ!!

闇の中から触手に絡まりながら女が浮かび上がる

「これが愛だよ……見えない?」女は龍の口を掴み、唇に指を這わせる

「違う……違う……これが愛じゃない!」龍が睨み返す

「お前は分からないのか……お前がやっていることは全部……」

「俺はお前を信じた。受け入れた。一緒になろうとした……」

「でもこれは……」

「これ全部……愛じゃない……」

「お前は分からないのか……それとも分かろうとしないのか……」

「俺はお前を愛してない……俺たち誰も……」

「そしてお前……お前の一族はみんな……本当の愛なんて分からない……」

……

…...

フフフフ…ギャハハハ!!

「あなたには分からないのね……私の気持ち……」女が後退り、拳を握り、体を震わせる

「何度も何度も……何度も何度も……」

「……何度も何度も……何度も何度も……」

……

「届かない魚に向かって必死に泳いでるあなたを見るのが……!」女が龍を真っ直ぐ見据える

「ずっと遠くから見てるしか許されないのが!」

「戦って、倒れて、弄ばれて……」

「そしてその魚は結局、権力と金と欲望しか求めてない女だった!」

「その苦しみの先に……あなたに何が残るの……」

しくしく…こくっ…

龍の目から涙がこぼれる。巨体が暴れるのを止める

「ねえ愛しい人……もう悲しまなくていい……」女が近づき、龍の頬に触れる

「あなたはもっとふさわしいものを……」

「もう終わった……これからは私が全部守る……」

「誰もあなたを傷つけられないように……」

「誰も……二度と……」

「あなたは永遠に私のもの……」女が龍の顔に唇を寄せる

「違う……俺は……」龍が爪を動かそうとする

「……私のもの……今のあなたも、未来のあなたも、そして……」女の目がこちらを向く、耳まで裂けた笑み

…………

ドカッ! ズズッ… グイッ…

巨大な岩がバチバチと右翼に直撃、触手が揺れる

龍が落下

グルル…プンプン…ガルル…

「誰だ……誰だアアア!!」女が頭を抱える

八本の触手が狂ったように振り回される

「俺たちの愛を邪魔するヤツは誰だアアア!!」

「俺だ……覚えてるか……このクソ女……」角の生えた巨体が現れる

「お前……お前……でもどうして……」

「俺はお前が殺したはずだ……この目で……この手で……」女が硬直

ドンッ…ズシッ…トンッ…ドスッ…

「お前、俺たちを舐めすぎだろ?」角の男が龍に近づく

「大丈夫か相棒? ひどい目に遭ってたな……」角の下に笑み

「お前……でもどうして……俺は見たのに……」

「まあ後でいい。今は安全な場所へ」男が龍を背負う

「お前は何をする気だ……俺たちの間に割り込む気か?」女が体をくねらせる

「陸の獣が……舐めた口を……」

「一度殺した。また殺してやる!」

「確かに一度は負けた……だが二度目も負けるとは限らない」男の背後で無数の赤い目が光る

……………………………………………………………………

ドパーン!

「さて……もう分かったか……?」男が水を全部こぼす

「分かるわけないだろ! 何が分かるって言うんだ!」俺は腕を振り、そいつの背中から目を離せない

「まだ早いのかもしれない……だが……」青い瞳の男が俺をまっすぐ見る

「あいつ……あいつの血筋が……近づいている……」

「今度は……どんな手を使っても……君を……俺たちを……手に入れる気だ……」男の姿が霧に溶ける

「あいつって誰だ! 何が目的なんだよ!」俺は追いかける

「待て! 待てって!」

「曖昧なこと言うな! 誰が分かるかよ!」周囲がどんどん明るくなる

………

「覚えておけ……これが最後のチャンスだ……」

「俺たちが果たせなかったことを……完遂しろ……」

「そして気をつけろ……奴らは全部知っている……」

マントがはためき、顔に傷、青い鱗、白い牙が一瞬見えた

………………………………………………………………………………………………………………

ゴロッ…ザッ…ギュッ…コロコロ…

朝陽が窓の隙間から差し込み、疲れた車輪の音

ふあ…ん…のび…ごろ…

体が石のように重く、動けない

目が細め、視界がぼやける

手を伸ばすと、何かにぶつかる

ぐー…すー…

温かくて柔らかい……マシュマロみたい……でもちょっと違う

もう少し上に手を伸ばすと、硬くてサラサラしたものがたくさん

「篠……見……?」

篠見が俺にぴったりくっついて、腕を枕にして、笑顔で寝てる

「やっぱり……夢か……また夢だ……さっきと同じ……」俺は頭を後ろに倒す

「こんなこと……するわけないよな……」片手で目を覆う

「所詮……幼なじみ……それだけだもんな……」

「でも……もし夢なら……」残った腕でぎゅっと抱きしめる

「……好きだって言うし、プロポーズもするし……」小さな声が聞こえる

「それから二人で式を挙げて、家を買って、飾って……」

「夜はもう誰も邪魔しないから……」

きゃはっ!

「この声……」俺は顔を上げる

目の前で女の人が真顔で立ってて、二人が口を押さえてヒソヒソ

「春、続き続き!」蓮が手を下ろしてニヤニヤ

「そうよ十神さん! 次はどうするの?」石若さんもニヤニヤ

「抱きしめる? キス? それとも……?」二人同時に

きゃはっ!!!!

「春ってやっぱりエッチな頭してるよね〜」蓮がニヤリ

「十神さん、それはダメですよ? でも責任取るなら別ですけど……」石若さんがチラ見

「二人とも……やめろって!!」俺は慌てて篠見を下ろし、顔が真っ赤

「俺たち……そういうんじゃないから……」

「何言ってるの〜もうバレバレだよ春〜」蓮が肘でつつく

「言っただろ違うって……」

「いいじゃない十神さん、みんな知ってるわよ。星間さんだって」

「石若さんまで……」

コホンッ!

「若者たち、ここまで。まだ療養中の者がいる」黒鉄さんが歩み寄る

「それに着いてからいくらでも話せる」

「はーい!」蓮と石若さんが揃って

「でも春くん……」黒鉄さんが肩に手を置いてニッコリ

「男ならハッキリしないと、取られちゃうよ?」

「黒鉄さんまで……」俺は遠ざかる背中を見送る

……

「十神様」

「煌花、どうした?」

「次の場所で……これからの選択を……よく考えてください……」

「どういう意味だ……煌花?」俺は目を離さない

「おい春!」蓮が横に座って肩に腕

「いつの間にそんな仲に?」蓮が指で頬をつつく

「それは……」俺は手をバタバタ

「初対面なのに名前呼び!」

「しかも様付けで呼ばれてる!」

「言えよこの女たらく!」

「お前何したんだよ!」蓮が顔を近づける

「俺たち本当に何も……ただ知り合いなだけだ」俺は蓮の顔を押しのける

「な、煌花……さん?」

煌花が顔を覆って耳まで赤くなる

「そんな……ひどいですよ……十神様……」

「素敵な時間を過ごしたのに……」

「今さら……全部責任を取らないなんて……」煌花がお腹に手を当て

「それに……冷たい呼び方……」

「体が触れ合った時……名前で呼ぶって約束したのに……!」煌花がプイッと横を向く

ギュッ!

「へぇ〜そうなんだ〜春〜やったな〜」蓮が肩を締める

「違うって! 蓮、本当に……」俺は手をバタバタ

ギュッ!

「どういうことですか十神さん? 篠見ちゃんを裏切って他の女と……?」石若さんも反対の肩を掴む

「違うって! 誤解だ……」俺は首を振る

「な、煌花さん?」三人で煌花を見る

……もう…どうしていいか…わかんないよ……ひっ……

煌花がハンカチで目を拭く

「酷いです十神様……まさか薄情な男だったなんて……」

ガシッ!ギュッ…ギリッ…

「ここまで来たらどうする? ねね」

「決まってるでしょ蓮」

「二人とも……落ち着け……」

「言い訳無用! クソ野郎!」二人同時に

「ここまで来たら教育し直しだ!」

「勘弁してくれ……本当に誤解だって……」

………………………………………………………………………………………………………………

すぐ横で騒ぐ三人の横で、もう一人の少女が真っ赤な顔を隠していた

三人が離れると

「知ってましたよ。ずっと起きてたこと。田中さん」煌花が肩に触れる

「星間さん……いつから……」篠見が顔を上げ、耳まで赤い

「最初から……十神様に触らせようとジッとしてた時から」

「じゃあ……全部……」

「ええ、全部……お写真もありますよ? 欲しい?」

ぎゃっ!

篠見が両手で頬を叩く

「田中さん、一つだけ聞きたいんですけど」

「はい……」篠見が指を絡める

「十神様のこと、どう思ってるんですか?」

「わ、私……十神くんはすごくいい人で……」

「それだけ?」

「私……」

「だったら私がもらっても文句ないですよね?」

「ダメです!」

「ダメ……春くんは……私の……」

「分かりました!」煌花が立ち上がる

「安心してください。私たちにそういう関係はありませんから」

篠見が顔を上げる

「約束の写真です。記念にどうぞ」煌花がカメラを渡して去る

篠見は固まり、顔がさらに赤くなり、指が連打

「これ……これ……これ……」

……………………..

「これが今の世代の決断か……」煌花が振り返る

「中途半端な覚悟じゃ、いずれ先祖と同じ末路よ……」

「やっぱり十神様は……あの子とその血筋の側にいてはいけない」

………………………………………………………………………………………………………………

騒ぐ二人と恥ずかしがる二人の呟きの間で

「もういい加減にしろ! 静かにしろ!」玲奈が前の席から叫ぶ

「先生……なんでここに?」俺が前を見る

「私も同じこと聞きたいわ春。誰も教えてくれないし、ねねも」蓮が石若さんを見る

「私……何も知らないから……聞かないで……」石若さんが目を逸らす

「今はそれどころじゃないわ、十神さん」

「本当に大事なのは……前にある……」玲奈がハンドルを握り締める

「街だ!!!」

「やった! やっと脱出だ!」みんなが笑顔に

「やっとまともな飯が食える! ラーメンこぼれそう!」蓮がヨダレ

「蓮は食い物しか頭にないの? 化粧品とか薬とかSNSとか……」

「久しぶりにネット見たい!」

「それ言う? ねねも同じじゃん」

「女の子の話だから! ね、篠見ちゃん?」

「うん……ちょっと長いこと……」篠見が髪に触る

……

一瞬だけ俺は周りを見回した

みんな笑顔なのに

軍服の人たちは全員俯いて、誰も口を開かず、手を握り締めている


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