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白狐恋歌  作者: 八倉武祁
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序幕

 全ての生命はいずれ必ず死を迎える。

 そしてその時が何時かは誰にも分からない。


 病気になるか、事故に遭うか、事件に巻き込まれるか、戦争が起こるか。

 いつ、どう死ぬのか、我々は知る由もない。


 では、生命が終わりを迎えると、その魂はどうなるか。死後の世界はあるのか。

 それも誰にも分からない。だからこそ、歴史上多くの解釈がなされてきた。


 ユダヤ・キリスト・イスラムの3宗教は神によって天国行きか地獄行きかを決められる「最後の審判」を説いた。


 キリスト教の宗教改革期に活躍したカルヴァンは「予定説」を唱え、神によって救済される者はすでに決まっていると主張した。


 仏教は何度も生まれ変わる「輪廻転生」を説いた。


 ニーチェは全てのものが全く同じように永遠に繰り返されるという「永劫回帰」を提唱した。


 ならば一体、日本人はどう考えてきたのだろうか……。





 「……おーい、なつ君!」


 青年が、読んでいた高校倫理の授業ノートから視線を上げると、巫女装束に身を包んだ、かわいらしい少女の姿が視界に飛び込んできた。


 「……やっとこっち見てくれた。ずっと呼んでたのに全然反応してくれないんだもん。いつもだけど、集中力すごいね。」


 少女は、少し不満げにしながらも、どこか面白そうにそう言った。

 それを示すかのように、彼女の「白髪」頭から生えた「白い獣の耳」はぴこぴこと動き、「白い尻尾」はふわふわと揺れている。




 ……今、青年の前にいる少女は()()()()()()()()


 1か月ほど前、クリスマスイブの晩に初めて出会った時、彼女は自分のことを「稲荷神に仕える白狐」だと言った。

 何かの悪い冗談か、ドッキリかと思ったが、どうやらコスプレではなかったし、常人では理解できない能力を使うのも見せられて、受け入れざるを得なかった。


 「なつ君、ずっと難しい顔で勉強してるけど、根を詰めすぎちゃだめだよ? たまには息抜きも必要だからね。だから……じゃじゃーん!」


 そう言って、彼女はお盆に乗せた羊羹を見せた。


 「甘いものが欲しいかなって思って作ってみたの。これ食べて、ゆっくりしようよ。」


 ふわりと笑う彼女の顔を見て、「なつ君」と呼ばれた青年は、勉強を中断して食べる以外に選択肢が取れそうにないと判断し、鼻から一つ息を抜いてノートをぱたりと閉じた。


 青年は、彼女と出会ってからずっと無愛想な態度であった。

 それは、彼自身の幼少期の「トラウマ」が原因であるとはいえ、その態度に良い気分をするものはほとんどいない。実際、彼は高校のクラスでも孤立していた。


 それでも、彼女は嫌な顔一つすることなく、出会ってからずっと彼を構い倒している。それも無理して優しくしているのではない。彼女の態度を見れば、その好感度の高さが彼女の本心から来ているものなのは明らかだった。

 しかも、どうやら彼女は青年のことをずっと昔から知っているかのような素振りを見せることがある。肝心の彼自身に、彼女と以前会った記憶はないのだが。


 なぜ、青年はこんな不思議で酔狂な少女と関係を持つようになったのか。

 なぜ、少女はこんな彼と一緒に居たがるのか。




 これは、幼少期のトラウマに苦しむ孤独な青年と、ある秘密を持った不思議な狐の少女の、静かな恋の物語である。

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