表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

狩人の名簿

朝霧の村を出ると、平原の向こうに灰色の城塞が見えた。

 街のギルド支部。厚い石壁に巨大なドラゴンの骸骨が飾られ、扉の上には燦然と《レンジャーズ・ギルド》の紋章が輝いている。


 リオは緊張しながら、その重い扉を押し開けた。


 ――冷たい空気が肌を刺し、鉄と血の匂いが漂う。

 内部は広く、高い天井に魔石のランプが灯り、壁には無数の狩猟槍・大弓・大剣が飾られていた。

 耳に入るのは、硬質な鎧が擦れ合う音、魔法陣の微かな脈動、そして低く笑う男たちの声。


 「……いらっしゃいませ」


 カウンターの奥、受付に座る女性が微笑む。

 透き通るような水色のローブ、魔法紋が浮かぶタブレットのような書類、耳元には魔石のピアスが煌めいていた。

 ――村の簡素な暮らしとは、あまりにもかけ離れた場所。


 「登録、ですね? 討伐証を拝見します」

 リオは討伐証を差し出す。彼女は目を通し、表情を少しだけ柔らかくした。


 「獣咬獅を単独で討伐……お見事です。登録はこれで完了です。あなたの名が、レンジャーの名簿に刻まれました。」


 カウンターの向こうから、ひときわ大きな影が近寄ってきた。

 魔獣の骨を肩鎧にした筋骨隆々の男が、リオを上から見下ろす。

 背には棘だらけの大剣、腰には魔法の鱗を編み込んだ鞘。

 「……見習いのガキかと思ったら、ちゃんと獣咬獅を狩ったってな。見どころはあるな。頑張れよ!」

 大剣の男は短く笑い、背を向けた。


 その奥では、別のレンジャーたちも武具を磨いていた。

 風の魔晶を仕込んだ長槍、血晶を散りばめた弓、背中まで伸びる黒いマントに銀の紋章を刻んだ剣士――。

 彼らはそれぞれに異なる空気を放ちながらも、確かに一つの使命で繋がれていた。


 リオはしばらく、その光景に目を奪われる。

 自分も、いつか彼らのように。


 受付嬢が書類を手渡す。そこには、自分の名前と、討伐した魔獣の名が刻まれていた。


 「おめでとうございます。リオ様、これからあなたは正式にレンジャーとして、魔獣討伐や護衛、探索など、あらゆる任務を請け負うことができます」


 リオは書類を胸に抱え、深く息をついた。

 (……これが、俺の、始まりだ)


 ホールの奥の掲示板には、既に次の任務がいくつも張り出されていた。

 《古代城跡地での魔獣討伐》《深紅の峡谷での鉱石護送》《炎帝の影の目撃情報》――

 その中でひときわ目を引いたのは、黒い紙に赤い文字で書かれた一枚。


 《黒い竜の調査依頼》


 リオは無意識にその紙を見つめ、拳を握りしめた。

 あの日、村を焼き払った黒い影。あの咆哮と、赤い眼。


 受付嬢の声が耳に届く。


 「リオ様……ご無理はなさらずに。でも、もしあなたが望むなら、きっと、道はいつか必ず開けます!

そのために今は階樹をあげましょう!!」


 リオはゆっくりと背を伸ばし、赤い紙から視線を外した。


 「あぁ……まだ、俺には早い。けど、必ずいつか」


 受付嬢は柔らかく頷き、魔晶のペンをカツリと置いた。


 ギルドの扉を出ると、街の石畳の上に陽光が差していた。

 リオは新しい登録証を握りしめ、長く深呼吸する。


 ――黒き竜よ。

 待っていろ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ