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イケおじ転生 ~かつての黒歴史で旅をする~  作者: かりかり
異世界は素晴らしい!
8/32

第7話 クラーケンって美味いですね

読んでくれてありがとう!

「腹減ったーっ!」


クラーケンを倒した直後、少年アーサーが勢いよく叫んだ、全身びしょ濡れのまま砂浜に座り込んだ彼は、空腹を全力で訴えるようにお腹をさすっている


「さっきまでの元気はいったいどこへ…まぁ確かにお腹が空きましたね」


私は思わず苦笑するだが、それは私も同じだった

体力を使い、海風を浴びた身体が、どこか一息つける時間を求めていた


「クロウ様、もしかして……」


隣で立っていたエクシズが、こちらを見て目を細める


「ええ一旦食事にしましょう、ちょうどいい食材もありますしね」


私はそう言って、携帯用の調理道具と、道具屋で手に入れた調味料を取り出した


「やったぁ!……クロウ様の料理、楽しみです!」


エクシズはぱっと笑顔になる

その様子に、私は少しだけ心を緩ませた

異世界に来て、こうして誰かに何かを喜ばれる時間それがどれほど貴重で、ありがたいものかを今、改めて実感する


「え?あんたって料理できんの?」


アーサーが不思議そうに私を見上げてくる。


「えぇよく色々な人に振る舞ったものです」


私は、クラーケンの足を捌き、香草と塩で下味をつける

海水から少量の塩を煮出し、鉄板の上でジューッと焼き始めると、あたりに濃厚で香ばしい匂いが広がった


「……うまそう……!」


「この匂い、間違いなくクロウ様の料理です……!」


「はい、できました、熱いので気をつけてくださいね」


一口食べた瞬間、アーサーとエクシズは目を見開いて口から言葉を溢れさせる


「うっまっっっ!!!」


「柔らかくて……しっかり旨味が詰まってます!」


「うん、これこれ!……やっぱりクロウ様の料理は格別です……!」


満腹になった頃、アーサーは唐突にこちらを向いて、元気いっぱいに言った。


「なあクロウ…さんでいいのかな、よかったらさ俺の村、来ないか?」


「村、ですか?」


「うん!この味、村の人にも食わせてやりたいし……あんたの話もみんなに聞かせてやりたい!きっと面白いぜ!」


エクシズと目を合わせると、彼女は小さく頷いてくれた


「ええ、わかりました、案内をお願いします」


「おっしゃ!任せとけって!」


笑顔で先を走っていくアーサーの背中を追う

小道の両側には、野の花がゆらゆらと風に揺れていた

私とエクシズは彼に連れられ、アーサーの村へと向かっていた


遠くにはさっきまでいた海がきらめき、空はどこまでも澄み渡っている


「なあクロウさん、あの時の魔法……本当にすげー迫力だったな」

アーサーが少し照れくさそうに笑って言った

元気だが、どこか年齢以上の落ち着きを持つ少年だった


「ありがとうございます、アーサー」

私は軽く返す

だが心の中では少し嬉しかった

誰かに自分の魔法を認めてもらうのは、やはり特別だ


「あぁ、めちゃくちゃかっこよかった!オレも魔法じゃないけど……」

そう言って、彼は腰の釣竿を見せてくる


「そういえば、あの時の剣はどこへ?」


「オレのスキル、剣聖ソードマスターは、手に持ってるものを剣にできるんだ、さっきの釣竿もこうやって剣にしたんだ」 


その瞬間、釣竿が淡い光に包まれ、形を変えていく

先端は鋭く、柄はしっかりとした金属製に変化し数秒後、そこには美しい銀の片手剣が握られていた


「おお…すごいですね…!」

私は思わず感嘆の声を漏らす 


そう語る彼の顔は、どこか誇らしげだった

まだあどけなさも残るが、その目はまっすぐだった


「……なるほど、だから、あのタイミングであの一撃を…」


ふと、隣を歩くエクシズに目をやる

彼女は静かに景色を見つめていたが、その表情にほんの少し影が差していた


「エクシズ?」

私が声をかけると、彼女は小さく笑った


「……スキルの話題になると、少しだけ……置いていかれるような気がするんです」

その言葉に、私は胸の奥が少しだけ痛んだ


もしかしてエクシズにはスキルがないのか……


「スキルがなくても、エクシズの強さは誰よりも信頼できます、私は、あなたがいてくれるだけで心強いのですよ」

私ははっきりと伝えた

この旅で、彼女はとても頼りになっている


「……はい、ありがとうございます、クロウ様!」

今度の笑顔は、さっきよりも温かかった


「って、うお!?ちょっと待ってよ!先行きすぎ!」

アーサーが少し慌てて追いついてくる


振り返ると、少し泥のついた靴を気にしながら笑っている

ああ、やっぱり年相応の少年だなと、私は少しだけ肩の力を抜いた



「よし!ついたぞ!ここが俺の村だ」


元気に駆け出すアーサーの背を追いながら、私はどこか懐かしさを覚えていた

澄んだ空の下、緑に囲まれた小さな村がその姿を現す

藁葺き屋根の家々、畑で働く人々の笑顔、子どもたちの笑い声

子供時代に住んでいた田舎を思い出します


「わぁ……なんか、いいところですね……」


「でしょでしょっ!オレの自慢の村なんだ!」


エクシズが微笑み、私も自然と顔がほころぶ

こんな世界に来て、こんな穏やかな場所に出会えるなんて


私はやっぱり、異世界というものが好きなのだと改めて思う


「アーサー、その人たちは?」


村の奥から年配の男性が歩み寄ってきた

立派な白ひげと穏やかな目元

どうやらこの村の村長らしい


「この人はクロウさん! あと、エクシズ姉ちゃん! オレ、海でこの二人に会ってね、めちゃくちゃ強いんだよ!」


「はは、そうかそうか……クロウ殿、エクシズ殿ようこそ我が村へ」


「こちらこそ、お招きありがとうございます」


私は軽く頭を下げる

エクシズも控えめに会釈した


少しの間、村を案内されながら時を過ごしたあと、日が暮れ始めた頃に村長の家に招かれる


「クロウ殿、少し話があるのですがよろしいかな?」


静かな囲炉裏の部屋で、村長は重い口を開いた


「……アーサーのことなのですが、あの子は村の宝です、しかし、それだけではいけないと思っているのです」


「と言いますと……?」


「閉ざされたこの村だけでは、あの子の可能性は狭まるばかり、あの子には世界を見て、自分の目で広さを知ってほしいつまり、旅に出てほしいのです」


静かに語るその言葉は、どこか父のような温かさと寂しさを含んでいた


私はしばらく黙った

アーサーの明るさ、剣聖という力、そしてあの素直な笑顔

確かにこの村だけで終わらせるには、あまりに惜しい


「……わかりました私でよければ、お供させていただきます」


「本当ですか!ありがとうございます!ありがとうございます……」


村長の目に、光るものが浮かんでいた

その姿を見て、胸が熱くなるのを感じた


私も、誰かにこんなふうに背中を託されるような人間になれていたのだろうか

部下たちの顔が、ふと脳裏に浮かぶ

この世界でも、私は誰かの支えになれていけるのだろうか……



焚き火の煙が、夜の空へゆっくりと昇っていく

私は鍋の中を木杓子でかき混ぜながら、じっくり煮込んだ香りを確かめる


「……うん、ちょうどいい辛さですね」


スパイスは、道具屋で手に入れた特製の調味料を調合した

メインの具材は、あのクラーケンの脚肉だ

臭みを消すために、丁寧に下処理してから角切りにして炒めたあと、玉ねぎと一緒に煮込み、特製カレーで仕上げた


「村の皆さん、できましたよ熱いうちにどうぞ」


「おおっ、いい匂いだな……!」

「なんだこの香ばしさ……!」


村の広場に集まった人々が、湯気の立つ大鍋を囲む

私は、手際よくカレーをよそい、木皿に盛って渡していく


アーサーが一口食べて、目を見開いた


「なにこれっ! うっま!! なにがどうなったらこんな味になるの!? これ、ほんとにあの時食べたクラーケン!?」


「ええ、驚くかもしれませんが、ちゃんと料理すれば同じ食材でも大きく味を変えるのですよ」


隣でエクシズも、口にした瞬間、ふっと目を細めて笑った


「やっぱり、クロウ様の料理はすごいです……これは、もう芸術です……」


「そんなに褒められると、また作りたくなってしまいますね」


「えっ!? じゃあまた作ってください!!」


アーサーが即答し、村の子どもたちもそれに便乗するように笑い声を上げた

村の人々の表情が、どんどんほころんでいく

こうして誰かの空腹を満たし、笑顔を引き出すのは、本当に嬉しいことだと心から思った


食後、村人たちは私たちに感謝を述べながら家へ戻っていき、広場にはまた静けさが戻る

私とエクシズ、アーサーの三人は焚き火のそばで、のんびりと過ごした


「クロウさん、ほんとすごいな……旅の間、ずっと一緒にいてくれたらいいのに」


「アーサー、明日からは私たちと一緒に旅をするのですよ」


「まじ!?そっか……へへっ! なら安心だ!」


満面の笑みを浮かべて笑うアーサーに、私も自然と微笑んだ

穏やかで、どこまでも平和な夜だが


次の朝、空は一変していた

重く垂れ込めた雲が、空を覆い尽くしていた

また読んでね!

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