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イケおじ転生 ~かつての黒歴史で旅をする~  作者: かりかり
異世界は素晴らしい!
7/32

第6話 この名前よくありますね

読んでくれてありがとう!

「海に行きましょう!」

唐突にそう言ったのはエクシズだった 

澄んだ瞳を輝かせ、胸の前で手を組むようにして提案してくる


「海……ですか」

私はその言葉に少し驚きながらも、すぐに頷いていた。

異世界の海それは私がこの世界に来てから、ずっとどこかで気になっていた場所だった、果たして、地球と同じようなものなのかそれとも、もっと幻想的な光景なのか


「気になりますね。異世界の海が、どんな姿をしているのか」

「ふふっ、じゃあ決まりです♪」


そして、私たちは街を出て、南に向かって歩き出した。途中、小高い丘を越え、草原を抜けるたびに潮の香りがほんのりと鼻をくすぐる

やがて視界の先に、広がる青と光の世界が現れた


そこは、ただ「綺麗」では片付けられないほどに美しい海だった

透明な水面は陽の光を受けて煌めき、白い砂浜には誰の足跡もない。波音は心を撫でるように優しく、風さえもどこか柔らかかった


「すごい……」

思わず私は呟いていた。

現代日本のどんなリゾート地よりも、ここは異世界らしい神秘に包まれていた。


「ねぇクロウ様!水遊びしましょうよ!」

「えっ、水遊び……ですか?」


私が戸惑っている間に、エクシズはすでに靴を脱ぎ、海辺に駆け出していた。緑の髪が風に揺れ、笑顔が眩しいどこか子供のような無邪気さがある


私は苦笑しながらも、彼女の後を追って海へ入った


その瞬間


「せーのっ!」


ズドン、と水面が跳ね上がり、巨大な水の塊が一直線に私へと飛んできた。


「ぐっ……!!?」


気づけば私は宙に浮かび、そのまま砂浜へ一直線に吹っ飛ばされていた。地面がぐらぐら揺れて、目の前がチカチカする。全身びしょ濡れで、服の中まで海水が入り込んでいた


「クロウ様!?だ、大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫……です……」


ぼやけた視界の中、心配そうに駆け寄ってくるエクシズを見ながら、私はひとつ思い出していた


そういえば、私のステータス、攻撃力も体力も全部EとかFでしたね

自分が肉体的にはまったく強くないことを、すっかり忘れていた

普段は魔法で補っていたせいで、すっかり油断していました


「わ、私、つい調子に乗って……!」

「いえ、むしろ……さすがです、エクシズ、威力が桁違いですね……」


私は笑って立ち上がった。砂だらけの髪を払いながら、それでもこの状況が楽しくて仕方がなかった


「では、私も……少しだけ!」


私は海に向かって右手を掲げた


「万象に息づく蒼き精霊よその身を変じて舞い上がれ我が意に従い、今こそ姿を成せ水竜顕現氷瀑竜アクアドラゴン!」


砂浜に魔法陣が浮かび上がり

透明な水が空へとせり上がりながら、竜の形を成す

波飛沫が虹のように光を弾き、竜が天へと駆けたのち海に舞い戻る


「……わぁっ……!」


エクシズが歓声を上げる

無邪気な声に、私は肩の力が抜けるようだった


「クロウ様……すごく素敵でした!詠唱魔法って、やっぱりかっこいいですね……!」


「ありがとうございますエクシズ」


私はそう返しながら、胸の奥がくすぐったいように温かかった

この世界に来てから、こんなふうに真っすぐな目で褒めらるのはやはりくすぶったいですね


そう思っていると、ザッザッと砂を踏む足音が近づいてくる


「うわっ、すっげぇ! いまの水の竜、マジかっけぇな!」


振り返ると、海から少し離れた小道の方から、少年が走ってきていた

年齢は中学生くらいだろうか

ラフなシャツに半ズボン、肩に釣り道具を担ぎ、目を輝かせていた


「なぁ! あれ魔法? めっちゃスゲーじゃん! オレも混ぜてくれよ!」


彼は勢いのまま靴を脱ぎ捨て、水に飛び込んだ

「ふぉおおお! 冷たっ……けど気持ちいいー!」と叫んで、腕をばしゃばしゃと動かす


私は呆れつつも、つい笑ってしまった

この無邪気さはどこか懐かしい

現世での休日、部下たちとレクリエーションで過ごした夏の海を思い出す


「あなたも海に遊びに?」


「うん!  釣りに来たら、いきなりドラゴンとか出てきてビビったけど、めっちゃテンション上がったぜ!」


彼は笑いながら、水を跳ね上げる

その様子にエクシズも笑い、海に入っていく


「ふふ、では今度は私が見せましょう……パージ、泡弾バブルショット!」


エクシズの手のひらから、シャボン玉のような魔法弾が飛び出す

少年の近くで破裂し、音もなく水しぶきを弾いた


「な、なんだ今の!? お姉さんも魔法使い!?」


「見習いですがね」


笑いながらやり取りする二人を見て、私はふと、心が軽くなるのを感じた

こうして誰かと笑い合える時間が、こんなにも愛おしいなんて…


「ふふっ、水しぶきがきらきらしてて……まるで宝石みたいですね」


エクシズが嬉しそうに笑う

私はその表情を見て、自然と微笑みを返していた

ああ、やっぱり来てよかったそう思った、その瞬間だった


ゴゴゴゴゴ……


海の底から響くような、地鳴りのような音が耳を突いた

私は反射的に振り返る


「な……っ……!」


巨大な影が、海の深くからゆっくりと浮上してくる

やがて、複数の太い触腕が海面を突き破るように姿を現した


「魔物……いや、あれは!」

海魔獣クラーケンっ……!」


エクシズが緊張の声を上げる

その巨大なイカのような魔物は、十数メートルはあろうかという体躯で、怒りに満ちた唸りを上げながらこちらに向かってくる


「クロウ様、迎撃を!」


「ええ……!」


私は構えを取った

手を掲げ、詠唱に入る――その時だった


「待って! 俺が行く!」


あの少年が、恐れることなくクラーケンに向かって走り出した


「なっ、危ないですよ!」


止めようと声を上げる間もなく、彼の手に、突如として剣が現れた

青白く光を放つその刃どこから取り出したのかすら分からないそして、彼は叫ぶように技の名を告げた


「パルススパイクッ!!」


シュンッ


空気を裂く音がしたかと思うと、クラーケンの太い触手が一瞬にして斬り落とされ、海面へと沈んだ


「……なんと、あの少年……!」


私は驚きながらも、その一瞬の隙を見逃さなかった


「水精よ その澄みし流れを渦と成せ、命を呑み 災厄を穿て 渦潮魔陣深海渦アビサル・ヴォルテクス!」


魔法陣が海上に展開し、青白い光が海面を照らす

その中心から、轟音と共に巨大な渦が生まれ、クラーケンを一気に飲み込んでいく


クラーケンの絶叫がこだまし、やがて泡と共にその姿は海中へと消えた


波は静まり、空気が戻る

私はひとつ息を吐いて、隣に立っていた少年に声をかけた


「貴方の 名前を教えてもらえますか?」


少年は肩で息をしながら、少し照れたように笑った


「俺の名前はアーサー……ただの、村の少年さ!」


その言葉に、私は眉を寄せた

“ただの”には到底見えなかった

だが、追及するにはまだ早い、とにかく今はお礼をしよう


「助けてくれて、ありがとうございました、アーサーさん」


「へへっ、こっちこそ! すげぇ魔法だったな、あれ!」


私は微笑を返した

この出会いが、また新たな物語の始まりになる予感がした

また読んでね!

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