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イケおじ転生 ~かつての黒歴史で旅をする~  作者: かりかり
異世界は素晴らしい!
6/32

第5話 冒険者は憧れです

読んでくれてありがとう!

「この道……もう半日ほど誰ともすれ違っていませんね」


私は、緩やかな丘を越える一本道を歩いていた

隣を歩くのは、見習い魔道士エクシズ

陽光に照らされた緑の髪が、風に揺れるたびきらめいて見える


彼女との旅は、思ったよりも心地よい

もちろん、私の中で高鳴っている感情は別だ

何せ、今私は異世界を旅しているのだから


「ふふ、楽しそうですね、クロウ様」


エクシズが微笑む

それもそのはずだ

私は今、ずっと夢見ていた“異世界”に立って冒険している

空には二つの太陽が浮かび、風が運ぶ花の匂いもどこか幻想的で現代日本では味わえない感覚だ


「はい……正直に言うと、楽しくて仕方ありません」


私はそう素直に答える

もともと異世界の景色にも文化にも強く惹かれていた

だからこそ、旅を選んだ

知りたいのだ

この世界にあるすべてを、自分の足で、自分の目で


「じゃあ、クロウ様って冒険が趣味だったり?」


「否定はしません」


苦笑しながら答えると、エクシズはくすっと笑った


「でも、クロウ様はやっぱりどこか変わってますよね、魔法の詠唱とか今時使う人いないし……普通はやらないですよ、あんなの」


「ふふ……それは、私の特別なスタイルですから」


詠唱魔法

この世界ではすでに使われなくなった古式の魔術形式らしい

今の主流は『パージ』と呼ばれる一声による即時発動型

だが、私はこの“黒歴史”とも言える詠唱形式にこだわっている、いやこれしか使えない

それが、私自身の力の根源だからだ


「私、あの詠唱……なんか、聞いてるだけでゾクッとします、心に刺さるっていうか……なんかこう……魂に響くんですよね」


エクシズの言葉に、一瞬だけ心が揺れる

そういうふうに受け止めてくれる人が、ひとりでもいるのなら

私の“黒歴史”も、無駄じゃなかったのかもしれない


「ありがとうございます エクシズ」


歩きながら、ふと見上げた空には大きな雲がひとつ

影を作り、涼しさを運んでくれる


「そういえば、次の街って……どっちなんでしょう?」


エクシズが言う

そういえば地図を見ていなかった

私は立ち止まり、手を前に掲げて詠唱する


世界展開術マップインサイト……風よ、光よ、我が足の行く先を照らせ」


光の魔法陣が空中に現れ、立体的な地図が描き出された

私たちの位置から、北東に小さな村のマークが見える


「よし……次はあの街を目指しましょう」


「はいっ、クロウ様!」


緩やかに続く丘の先

この旅路の果てに、また新たな出会いがあるのだろう

異世界の風は、今日も私の背中を押してくれている


私とエクシズは、しばらく歩いた後、小高い丘を越えた先に広がる街を見つけた

遠目にも賑やかで、商人の馬車や冒険者風の人々が門を出入りしているのが見える

どうやら、無事に街へとたどり着けたようだった。


「ここは……そうだ!ミルガルの街ですベルット王国領の中でも、冒険者の拠点として有名な場所ですよ」

エクシズがそう言って胸を張った。少し誇らしげな顔が可笑しくて、私はふっと笑ってしまった


「そうですか……ここなら、いろいろ情報が集まりそうですね」


街に足を踏み入れると、通りには多種多様な人種の者たちが行き交い、道端には露店が並び、活気にあふれていた。耳にする会話、漂う香辛料の匂い、全てが私の“憧れていた異世界”そのものだ。胸の奥がじわりと熱くなる。こんな場所に、本当に自分が立っているなんて。


エクシズに案内され、まず向かったのは冒険者ギルドだった


「こちらが冒険者ギルドです」


エクシズに案内され、私は街の中心部にある大きな建物の前へと足を止めた

石造りの重厚な門構えに、剣と杖の紋章が掲げられている

中へ入れば活気と喧騒に満ちた空間が広がり、戦士、魔法使い、盗賊風の者まで、様々な冒険者たちが出入りしていた


異世界って感じがしますね

自然と頬が緩む

冒険者、まさに子供の頃から憧れていた存在

今、私はそれになろうとしている


「冒険者になりたいのか?」

カウンターに立っていた屈強な男が、こちらに気づいて声をかけてきた


「はい 登録をお願いしたいのですが」

「おぉ、お前さんが……なるほどな、受付嬢が妙にそわそわしてた理由がわかった」


どうやら私の黒いロングコート姿が、少し目立っていたらしい

視線もちらほら感じていたが、やはり変な格好なのか


「それじゃあ登録に必要なものを見せてもらおうか身分証がなけりゃ、スキル確認と魔力測定だな」


私は頷き、ギルドが指定する測定魔法陣の上に立った

すると周囲に淡い光が広がり、天井に設置された結晶が私の情報を読み取っていく


ピピッ!


「……お、おい……」


受付嬢が困惑した声を上げ、横にいたギルドの職員が慌てて走り寄る

「スキルが……どっちも、EXですって!? こんなの……記録にあるか?」

「いや、初めて見る……二つだぞ、二つともEX……!」


ざわつきが周囲に広がった

冒険者たちも何事かと視線を向けてくる

私は落ち着いていたつもりだが、心の奥底ではやはり動揺があった

やっぱり珍しいのか……まあ、転生特典の力ですが


「お、お前さん、本当に新人か……? ちょっと、こっち来てもらっていいか?」

そう言われ、私は奥の部屋へと通された


そこに待っていたのは、ギルドマスターを名乗る初老の男性だった

眼光鋭くも、どこか威厳のある男だ


「君……クロウだったな スキル名を教えてもらえるか?」

「はい 一つ目は『思念具現化イマジネーション・リアライズ』 もう一つは『魔奏顕律マギア・オーケストリオン』です」

「……うむ実に面白い、私の知る限り、スキルが二つともEXの者など、ギルド全体でも前例がない」


ギルドマスターは静かに立ち上がり、棚から一冊の古びた書物を取り出した

「この記録によれば、そういう者に与えられる特別な称号がある “神域級冒険者”……その中でも、“カムイ”と呼ばれる者はごくわずかだ」


「カムイ……ですか」


その言葉の響きが胸に残った

どこか遠い記憶、中学時代、黒歴史の中で私が憧れていた“最強”の称号

今、それが現実に与えられようとしている


「異論がなければ、君には“カムイ”の称号を授けよう ただし、それは責任も伴う名だ、己の力に飲まれるなよ」


「……はい お受けします」


私は深く頭を下げた

エクシズは……目をぱちくりと何度か瞬きし、ぽかんと口を開けていた


「えっ……え、え、えぇ!? えっ!? カムイって、あの、伝説の……!?」


バタバタと慌てて肩を揺らすエクシズに、私は苦笑するしかなかった

「驚きすぎです……ですが、そこまで大げさなものでは」


「いや、大げさなんです! だって、ギルド長があんな目で見てましたよ!? うぅぅ、すごいのは嬉しいけど……私、旅の邪魔にならないかな……」


「エクシズには、あなたにしかできない強みがあります それに、旅は強さの競争ではありません」


そう穏やかに言葉を返すと、エクシズは一瞬だけ目を見開き、すぐに照れたように頬を赤らめた


「……は、はい……! じゃあ、私ももっとがんばりますからっ!」


その言葉に、私は自然と微笑んだ


ギルドでの登録を終えた私は、エクシズと連れ立って街の通りを歩いていた

石造りの建物が立ち並び、露店からは香ばしい焼き菓子の香りが漂ってくる

見知らぬ言葉が飛び交い、異世界の空気に満ちたこの場所は、どこまでも私の心を躍らせた


「まずは道具を整えておいた方がいいと思いますよ、クロウ様」

そう言ったエクシズが案内してくれたのは、路地を曲がった先にある、少し古びた外観の道具屋だった


中に入ると、所狭しと武具や薬草、魔道具が棚に並び、香辛料のような香りが漂っている

店主と思しき白髭の老人が、こちらに軽く会釈を向けた


「いらっしゃい、旅支度かね?」


「はい、そうです まだ何が必要かは分かりませんが、ひと通り見せていただけますか」


私はそう丁寧に答え、店内を見渡した

革の防具、冒険者用のマント、携帯食糧や、火打石……

どれも異世界らしさに満ちていて、私の胸をじんわりと熱くする


「クロウさん、この魔道具バッグはどうですか? 中に入れた物の重さが軽くなるんです」

エクシズが指差す先には、小型のレザー製ポーチが並んでいた


「便利そうですね……では、それと回復薬と料理器具、保存食も少し」


私は必要と思われる物をいくつか選び、代金を支払った

王からの報酬で受け取った金貨が、思ったよりも価値のあるもので助かった

また読んでね!

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