第31話 包帯だらけって大変ですね
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雲の上を歩くという、常識では考えられない行為に、最初こそ緊張していたが
ザテンのあまりにも自然な振る舞いに、次第に私も肩の力が抜けてきていた。
「好きな食べ物? うーん……なんて名前だったか忘れたけど……確か、みそじる?」
「……みそ、じる?」
その響きに、私は思わず心の中でつぶやいた。
味噌汁? いや、まさか。ここは異世界だ。きっと似たような名前のまったく別物だろう。
ザテンは楽しげに話を続けながら、白い雲の中を軽やかに歩く。
見た目こそ整っているが、中身は予測不能だ。
一体何者なのか……まだ掴みきれない。
「でねでね、あたしの仲間ってばさー、全然話聞いてくれないのよ。あたしが可愛すぎるから嫉妬してんのかしら?」
「……そうですか」
聞いていて疲れるが、不思議と悪い気はしなかった。
そのときだった。目の前の雲が切れ、開けた場所が現れる。
まるで天空の楽園のような光景
「……湖?」
「わぁーお! すごい綺麗なところね!」
ザテンが目を輝かせて駆け寄る。
私も足を速め、湖のほとりに立った。水は驚くほど澄みきっており、空と雲をそのまま映している。
この世界にこんな場所があるのか……と目を奪われていた、その時。
「……あれは?」
湖の反対側。白い椅子の上に、誰かが寝そべっていた。
まるで日光浴でもしているかのように、優雅な姿勢で。
男か女かもわからない。だが、明らかに普通の人間ではない存在感があった。
「行ってみましょ」と言うザテンに頷き、
私たちは、その人物へと静かに歩み寄っていく
遠目にはただの人影にしか見えなかったが、
近づいてようやく、その人物の異様な姿がはっきりと見えてきた。
包帯でぐるぐる巻きにされた体。
ボロボロのズボンに、片目を隠す眼帯。
どこか無造作で、何かを隠すような……それでいて、どこか達観した雰囲気を纏っていた。
私は隣のザテンに小声で尋ねる。
「……あなたの友達ですか?」
するとザテンは、信じられないほどの速さで首を横に振った。
「ちがうちがう! 知らない人よ!あたしのタイプでもないわ!」
……前半はともかく、後半は今は聞いてない。
その時、包帯男がゆっくりと起き上がる。
目元から覗く瞳が、どこか眠たげだ。
「あぁ……? なんでここに人がいるんだ……?」
「それを言いたいのは、私ですよ」思わず心の中でつぶやいた。
ザテンが恐縮したように手を合わせて言う。
「あら〜、起こしちゃったかしら? めんご! めんご!」
包帯男は眠気を残しながら、私の話を聞き、状況を把握した様子で小さく頷く。
「へぇ……地上から? わざわざ来たのか。……ご苦労さんだったな」
飄々とした口調だが、どこか他人事ではない響きがあった。
私は、率直に尋ねた。
「それで、貴方は一体……?」
包帯男はゆっくりと立ち上がり、片手で頭をかきながら言った
「俺はザッシュ。事情があって、ここで暮らしてるだけさ」
太陽が傾き、空がゆっくりと朱に染まりはじめる。
雲の上にいることを忘れてしまいそうなほど穏やかな光景だった。
「……今日はここで一休みしましょう」
私がそう言うと、ザテンも「賛成〜」と両手を上げて座り込む。
アーサーたちの捜索は明日に回すことにした。
今はまず、休息と栄養を取るべきだ。
「……とはいえ、調理器具はエクシズが持ってるんだったな」
「んー、料理って鍋とかフライパンがないとキツくない?」とザテンが呟く。
だが、思わぬ救世主がいた。
「食材くらいなら俺がもってる、使ってくれ」
ザッシュが包帯越しの手で、魚や野菜を差し出す。
「この辺の空気と雲の水で育つ変わった作物だけどな。まぁ腹はふくれるぞ」
「助かります。では、簡単なもので……」
私は持ち合わせの器具と、魔法を駆使して即席の簡易調理環境を整えた。
そして、あたたかい味噌汁と、魚の塩焼きを仕上げる。
湯気の立ち上る味噌汁からは、どこか懐かしい香りがした。
「さ、どうぞ」
ザテンが一口すすると、目を見開いた。
「あらっ!? これ……これ、あたしの好物の……なんだっけ?」
「味噌汁ですよ」と私が答えると、
「そうそうそれそれ! やっぱりあたし、これ好き〜!」
無邪気に喜ぶ彼を見て、思わず笑ってしまった。
だが、同時に心のどこかで不思議な感覚が広がる。
…味噌汁は、確かに“現実”の食べ物。異世界にあるはずがない。
それなのに、ザテンは“好物”だと言った。なぜ?
思考は続いたが、それを打ち消すようにザッシュが味噌汁を啜る
「……こりゃ、うまいな!ここに来てから初めて人間らしい食事をした気がするぜ」
「本当に! あたし、これ毎日でもいいわ〜!」とザテンが口に頬張りなが言う
焚き火の温もりと、食事の香り。
空島の夕暮れの中で、私たちは束の間の安らぎを手に入れた。
見知らぬ二人と囲む食卓
それは少し変わっていて、それでいて、悪くなかった。
食後、私たちは焚き火のそばで一息ついていた。
雲の上は昼夜の境がはっきりしており、宵の空は不思議と静かだった。
ふと、私は以前から気になっていたことを尋ねる。
「……ザッシュさん。何故、そんなに包帯を巻いているんですか?」
ザッシュは火の揺らぎを見つめながら、少し黙ったあとで苦笑した。
「あぁ? これか……まぁ、俺のスキルを封印するために巻いてるんさ」
その言葉に、ザテンが興味津々で前のめりになる。
「え〜! じゃあザッシュちゃんのスキルって、そんなに危険なの?」
ザッシュは「見せたら驚くなよ」と言って、左腕の包帯をほんの少しだけ剥がす。
その瞬間、紫色の炎がぶわっと溢れ出した。
炎は空気を震わせるように揺らめき、重く、禍々しい。
「これが俺のEXスキル、《炎化》ルシフェルだ」
私もザテンも、その焔に息を呑んだ。
「……このスキルのせいで、いろいろあってな。
……息子とも、離れちまったよ」
ぽつりとこぼされたその言葉に、ザテンはしんとした表情で言った。
「……可哀想な話ね。……でも、ザッシュちゃんのその包帯、どうして燃えないの?」
ザッシュはまた苦笑した。今度は少しだけ、優しさのにじんだ表情だった。
「これはな……俺の嫁さんが作ってくれたんだよ。
特殊な素材でできてて、どんな炎にも負けないらしい」
包帯の端を軽く握るその指先が、どこか切なげに見えた。
私は焚き火の中の木を静かにつつきながら、仲間達の事を思った
この空の上でも、誰かを想う気持ちは変わらないのだと、改めて思う
時を同じくして。
それぞれに散り散りとなった仲間たちも、どこかで同じ空を見上げていた
アーサーは岩場に背を預けながら、夜空をじっと見つめていた。
星々がまるで地上よりも近くに感じられ、彼の瞳に淡く映っていた。
「……皆、無事かな」
左手にはアリオトの指輪が光を灯している。
それはまるで、伝説の装備が近くにいることを示すかのように
「いや、あいつらなら大丈夫だろうな!」
そう呟いて、アーサーは少し笑った
力強く、信じるように
エクシズは木の上に腰かけ、足をぶらぶらと揺らしていた。
小さなランタンを膝に置きながら、星空を見ている
「皆もきっと平気ですよね……」
夜風が彼女の緑の髪を揺らす。
その表情には心配と、でもそれ以上の“信頼”があった。
「私も、がんばらなきゃ……!」
そう呟くと、彼女は軽く拳を握りしめた
ヘルガは静かな断崖の上にいた。
夜風に吹かれながらも、その顔は変わらず無表情だが、どこか少しだけ眉が下がっている。
「……バカが。空飛ぶ乗り物なんて、もっとちゃんと作るべきだった」
そう言いながら、横になった
「……あいつらも、無事だといいが」
その声は誰に向けたものでもなく、夜の風に消えていった
また読んでね!
テスト期間になったので少し投稿が遅れます
あと過去の話を改稿していこうと思います




