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イケおじ転生 ~かつての黒歴史で旅をする~  作者: かりかり
異世界は素晴らしい!
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第2話 王国に行きましょう

読んでくれてありがとう!

「ふむ……どちらへ向かえば、街に辿り着けるのでしょうかね」

風に揺れる草原の丘の上で、私は独り、空を見上げる


静まり返る風景には、人の気配など微塵もないだが、この世界のどこかに街や国があるはずだ

そこには人がいて、文化があり、魔法の体系がある異世界を旅する者として、まず向かうべき場所に違いない


「こういう時のために過去の私は用意しておいたのですね」


私は右手を掲げ、小さく息を吸う。そして詠唱した


「巡りし地脈よ 我が知へと変じ 目に映せ……

 世界展開術マップ・インサイト


足元に魔法陣が走り、青白い立体地図が浮かび上がる。少し先――およそ五キロほどの距離に、石造りの建物が密集しているエリアを発見した国に間違いない


「ありましたか……いやはや、こうも都合よく地図を出せるとはやはり、“中学時代の妄想”も、捨てたものではありませんね」


口元に笑みが浮かぶ。だがそれは、皮肉ではない。私は本当に心の底から、嬉しかった。自分が考えた魔法が現実になる。この快感は、異世界に転生した者にしか味わえないだろう


「……よしせっかくなら空から向かいましょう」


徒歩では時間がかかる。せっかくなら、もっと華麗に、もっと“らしく”行きましょう私はコートの裾を翻し、空を仰いだ


「古の空に謳われし、風の律動よ鎖を解き放て、重力という宿命より我を解き放て我が身は風、我が意は空へと昇る黒き鴉舞い上がれ、遥かな蒼穹の彼方へ…飛行先方アエリアル・レイヴ!」


詠唱が終わると同時に、風が全身を包み込む。足元に魔法陣が輝き、身体がふわりと宙へ浮かび上がった


「っ、これは……っ!」

自然に漏れた声は、まるで子供のような興奮を帯びていた


雲を見下ろす高さまで上昇すると、遠くに街が見えてくる屋根の赤、城壁の灰、旗の青そのひとつひとつが、心を震わせる


「本当に……私は、魔法で空を飛んでいる……!」


視界に広がる異世界の空は、どこまでも青く、美しかった

風の冷たさすら、心地よく感じる私は今、夢を生きている

嬉しさのあまりあっという間に国に着いてしまった


だが、その幸福はすぐに破られた


「敵襲! 上空から魔導士が接近!」

「魔王軍か!? いや、あの服……ダークナイツの可能性もあるぞ!」


城壁の塔に設置された魔力探知陣つまりセンサートラップが反応したのでしょう


警鐘と共に、無数の魔法陣が空に描かれ、色とりどりの攻撃魔法が放たれてくる


「な……なんと……!」


私は思わず目を見張った驚きと、わずかな動揺だがそれ以上に、冷静な判断が頭を支配する


「やれやれ、どうやら黒い服にロングコート、空から接近という条件は、この世界では悪役のテンプレートのようですね……」


すぐに詠唱に入る


「拒絶せし障壁よ 我を守護せよ…魔障展開シールド・セレスティア!」


蒼い半球状の魔法障壁が展開され、飛来する火炎や雷撃を無効化していく轟音と閃光の中で、私は静かにその中心に立ち続ける


「……私は敵ではありませんよ、誤解です、話を……!」


地上へと声をかけるが、聞き入れられる気配はない攻撃はむしろ増えている焦りはないが、このままでは「誤解」は深まるばかりだ


「……はぁ、まだこの世界の“常識”が分からないのはつらいですね…」


ここで力を振るえば、本当に“魔王の手先”とされてしまう

まずは冷静に、交渉の糸口を見つけましょう誰も傷つけぬようにする、それが、私の異世界での流儀です


そして私は、防御魔法を展開したまま、ゆっくりと地上へ降下を始めた


空から降り立った私は、誤解を解こうと名乗りを上げた、だが街の者たちは、私の声に耳を貸さなかった


次々と放たれる火球、氷槍、風刃、魔法の嵐がこちらに殺到する


「悪く思わないでくださいね……!」


私は右手を振り上げ、小さな声で詠唱を口にした


「響け、 静謐なる沈黙の鈴 強制気絶サイレント・シンフォニア


淡い銀色の魔法陣が展開し、私を取り囲んでいた数人の兵士たちが、その場に倒れ込む、もちろん死んではいません

軽い意識混濁と筋肉の脱力を引き起こす、非殺傷の沈静化魔法ですから


「さて……話を、聞いてくれませんか?」


私は一歩踏み出し、両手を見せて敵意のないことを示すけれど、残る兵たちは剣を構え、周囲の魔導士は魔法陣を維持したまま睨みつけていた


その時、鋭い馬の嘶きと共に、白銀の甲冑をまとった騎士が現れた威風堂々とした立ち姿、深紅のマントが風に揺れている彼の背には王国の紋章を刻んだ旗印があった


「止まれ」


低く、しかし通る声が場を鎮めた、兵士たちは一斉に敬礼する


「王国騎士団長、ハイゼル殿!」


その名を聞いた私は、視線を向ける


ハイゼルと名乗った男は馬を降り、私に歩み寄る

目は鋭く、感情を読ませないまるで会社の取引のようですね


「名を名乗れ、貴様、魔王軍の尖兵か? それとも……ダークナイツの一員か?」


「私はどちらでもありません。私の名はクロウ、ただの、旅人です」


「旅人が空を割り、闇の衣をまとい、沈黙の魔法で兵を鎮めると?」


「……言い訳はしません、ですが、敵意がないのは事実です」


ハイゼルは腕を組み、私をじっと見つめていた


「すまないが、今は信用できんその身なり、その魔法、怪しい点が多すぎる」


たしかに私の今の格好は、あまりにも異質だ

漆黒のロングコートに身を包み、深紅の前髪が風に揺れる

街の誰もが見たことのない異邦の魔法を使う私を、そう簡単に信じるわけがない


言葉を探していると、別の兵士が慌ただしく駆けてきた。


「団長、報告です! 西の大草原より、魔王軍の大規模な侵攻が確認されました!」


「数は?」


「……およそ五千。ゴブリン、スライム、スケルトンなど、雑兵中心ですが、進行速度は速く、この街へ直進しています!」


一瞬、空気が凍りついた。兵たちがざわめき、魔導士たちの顔色が変わる。


「……来たか、奴らが」


ハイゼルは呟き、視線を再び私に向けた


「奇妙な男よ貴殿が敵なら、今ここで街に攻め込む好機だったはずだが、そうはしなかったな」


私は黙ってうなずく


「この状況だ戦力は一人でも多い方がいいだが、貴殿が敵では無い証拠も無い、ならば証を示せお前が本当に我々の敵でないことをな」


その言葉に、私は静かに答える。


「ならば……この身に宿る“力”を、見せましょう」


手袋に包まれた手を広げ、黒衣の裾が風に舞う。私の“妄想”が、この異世界でどこまで通じるか今こそ、その力を証明する時だ


私は静かに手を掲げ、空へと詠唱を放った


「風より軽やかに、影より速やかに、我が背に翼を、そして我に全ての空を支配させよ虚翔式・空葬律ゼロ・フライト


風が渦巻き、足元に魔法陣が展開される

次の瞬間、重力が解き放たれ、私は空へと舞い上がった

さっきの飛行先方アエリアル・レイヴとは比べ物にならないぐらい速い速度で上昇する


遥か下方、魔王軍の大軍勢が迫る

地を揺らし、叫びを上げながら行進するその姿は確かに“脅威”だったが…


「所詮は、数に頼るだけの雑魚兵士たちですね」


私は空中に静かに手をかざす


「さあ、幕を開けましょう、私の“最強”をとくとご覧あれ」


詠唱を始めた長く、重厚な言葉を積み重ねていく

胸の奥に眠っていた中学時代の黒歴史それを、今こそ現実に顕現させる


「我が右腕に集いし闇よ、万象を裂け、無にして刃の雨を降らせよ、漆黒の裁き夜に堕ちる星々よ、今ここに降臨せよ夜剣葬・無限葬列ナイトブリンガー・ファントム


空に魔法陣が七重に重なった

そこから解き放たれるは、無数の闇の剣


それは流星群の如き圧力で、地上の魔物たちを貫いた

スケルトンが音もなく砕け、スライムが蒸発し、ゴブリンが逃げ惑う


しかし、それで終わりではなかった

私は続けて左手を掲げ、もう一つの詠唱を始める


「深淵より顕現せし黒き炎よ、世界の理を食い破り、命を、時間を、存在を焼き殺せ、そして我の理に従う下僕となれ」


地面を覆う巨大な魔法陣その中央から、黒炎が噴き上がる

その炎はただ熱いだけではない。まるで意志を持っているかのように、魔物たちの進行を正確に阻むように立ちはだかる


「深黒葬・終焉業火アポカリプス・インフェルノ


十字の炎が戦場を奔り、敵陣を焼き尽くす

悲鳴はない、魔物たちは、音もなく消えていった

私は、ただ空中からそれを見下ろす

たった一人で、たった十分足らずで魔王軍を殲滅したのだ


やがて、城門のほうから飛翔魔法で駆けつけたハイゼルが、呆然とその光景を見た

荒野には魔物の残骸一つ残されず、ただ黒い焼け跡と沈黙だけが支配していた


やがて、王国騎士団長・ハイゼルと兵士達が、馬に乗りやってきた


「……五千の魔物が、一瞬にして全滅……」


騎士たちは言葉を失い、ただ立ち尽くしていた

その中心で私は、無数の黒い剣の余韻が消えていくのを見届けていた


「たった十分足らずで……信じられん……」


静寂を破ったのは、ハイゼルの低い声だった彼は私の前に歩み寄り、静かに問いかける


「ただの旅人が、五千の軍勢を一人で薙ぎ払うなど、前代未聞だ……そして…」


彼の目が鋭くなる


「貴殿のその力どこで得た?」


「これは私が転生して得た力のひとつです」


「……転生?」


私は目を逸らさずに答える

ハイゼルはしばし沈黙し眉が僅かに動いた昔の上司の姿が浮かびますね


「ふむ……詮索は無粋か…まあいい、結果が全てというのなら、貴殿はこの国を救った英雄だ」


背後では騎士たちが唖然としたまま、私を見つめていた


私はゆっくりと背を向ける。そして、焦げた空気を振り払うように、黒のコートをはためかせた


「これぞ、異世界って感じですね」


思わず笑みがこぼれる

私の異世界ライフは、ようやく始まったばかりだ

また読んでね!

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