第23話 舞踏会ってすごいですね
読んでくれてありがとう!
朝の光が帝都エレクトラの石畳を金色に染めていた。
窓を開ければ、早くも街は活気に満ち、行商人たちの声や、祭りのような音楽が響き渡っていた。
「ふふ、舞踏会があると聞いて、街の人たちも浮き足立ってるみたいですね」
エクシズが窓から身を乗り出して言う。彼女の髪は昨日選んだままの編み込みがそのままで、まだ少し眠たげだ。
「せっかくなので、少し街を歩いてみませんか?」
私の提案に、アーサーが跳ね起きたように頷いた。
「よっしゃ!じゃあ、昼まで自由行動ってことで!」
「……観光ですか、悪くないな」
ヘルガもすぐに同意する
こうして私たちは、舞踏会の準備の合間帝都の探索に繰り出した
⸻
街はまるで、祝祭そのものだった
路地には絹のリボンが飾られ、色とりどりの風船が子どもたちの手で揺れている
広場では舞踏会を模した仮装ダンスが催され、仮面を被った若者たちが笑いながら踊っていた
「わっ、見てくださいクロウ様、あのチョコレート、お花の形になってますよ!」
エクシズが屋台を指差す。確かに、飴細工のように緻密に再現されていて見事だった
私はひとつ買って彼女に渡した
「これはフラニーノというらしいですよ、帝都名物だそうです」
「わぁ……ありがとうございますっ!もったいなくて食べられないかも」
一方でアーサーとヘルガは、露店で売られていた奇妙なスパイス料理に挑戦していた。
香辛料で目を真っ赤にしながら「クッッッソ辛い!!!でも美味い!!!!!」と叫ぶアーサーに、
ヘルガは「辛味の配分が絶妙だ」と淡々とコメントしていた。
私はと言えば
市場の端に立つ小さな楽器店に足を止めた
店先には、異国の竪琴や鈴、指でつま弾く不思議な金属の楽器が並んでいる
「少し触ってみても?」
店主が頷き、私は少しだけ音を鳴らしてみる。
高く澄んだその響きは、まるで星々が降る夜の音色だった
太陽が少しずつ傾き、黄金色に染まる帝都の空
いよいよ舞踏会の時間が近づいてきた
私たちは宿へ戻り、それぞれが最終の準備に取り掛かった。
鏡の前で髪を整え、選び抜いた衣装に袖を通す
エクシズは艶やかなドレスに身を包み、普段の冒険装備とは打って変わった姿になっていた
「……どうですか、クロウ様!似合ってますか?」
「……えぇとても綺麗です」
「そ、それ以上言われると、照れちゃいますっ……!」
彼女は少しだけ顔を赤らめながら、くるりと一回転して見せた
一方、アーサーとヘルガも身支度を終えて現れた。
「……みんな、似合ってますね」
私は思わず呟いた
「クロウ様も、ばっちり決まってますよ」
エクシズの言葉に私は少しだけ微笑み、最後に鏡を見た。
黒と蒼を基調とした、マント付きの礼服
異世界の素材で仕立てられた、柔らかな布が肩から流れる
どこか現実感がないまま、私たちは迎えの馬車に乗り、煌めく帝都の大通りを進んだ
馬車の窓から見える帝城は、星の光を散りばめたかのように輝いていた。
まるで夢の世界への入り口のようだった
舞踏会の会場──帝国城の正門前に到着した私たちは、煌びやかな光に包まれた宮廷の広場に足を踏み入れた。
石畳の道には花が敷き詰められ、シャンデリアのような魔導灯が頭上を彩っている。
場違いなほどに豪奢な空間。私も少しだけ背筋を正す。
「ようこそ! クロウ様、そして皆さん!」
高らかに声を響かせて飛び出してきたのは、真紅のドレスを纏った少女ワンだった
彼女の笑顔は太陽のように明るく、その隣には、深い蒼のドレスに身を包んだゼロが静かに立っていた
「帝都エレクトラへ、ようこそお越しくださいました。ご招待を受けてくださって、嬉しく思います」
ゼロは落ち着いた調子でそう言うと、私に深くお辞儀をする。
ワンはもう少し近づいてきて、まっすぐアーサーの方を見た。
「今日は、絶対に踊ってもらうからね! 楽しみにしてたんだから!」
「え、えぇ……その、頑張ります……!」
アーサーはどこか逃げ腰だったが、
ワンは目を輝かせていた。
私も小さく笑ってしまう。
こうして賑やかに迎え入れられた舞踏会の始まりは、なんだか華やかで、少しだけ眩しい気がした。
ゼロは静かにこちらに微笑みながら言った。
「さあ、中へどうぞ。すでに準備は整っております。どうか、今夜は皆様にとって特別な夜となりますように」
私は頷き、軽く礼を返した
ゼロに案内されて、大理石の階段をのぼり、私たちは舞踏会の会場、帝国城の大広間へと足を踏み入れた。
その瞬間、私は思わず息をのんだ。
「……これは……」
大広間は、まるで星空そのものだった。
天井には透明な魔導ガラスが張られ、夜空に浮かぶ星々がそのまま反射している。
天上から吊るされた光球が、淡い虹色の輝きを放ち、広間全体を幻想的に照らしていた。
床は磨き抜かれた白銀の石。歩くたびに光が揺れて、まるで鏡の上を歩いているかのようだ。
会場の中央には巨大な噴水の様な物があり、その内部には光の妖精たちが舞っているのだろうか、まばゆく光が揺れ動いている。
壁面には金と蒼の刺繍が施された緞帳。帝国の紋章が浮かび上がり、荘厳さと気品が共存していた。
エクシズが隣でぽつりと呟く
「……まるで、夢の中にいるみたいですね」
「えぇ……本当に……」
私は、異世界に転生してから数々の美しいものを見てきたが
それでも、今この瞬間の光景は、胸に焼きつくほどに美しかった
アーサーとヘルガも思わず立ち止まり、会場を見上げている。
ワンとゼロはそんな私たちの反応に、満足そうに微笑んでいた
「どうか、心ゆくまで楽しんでください」
そして、舞踏会の幕が、ゆっくりと上がっていく
楽団の奏でる優雅な旋律が一度、静かに幕を引いた
会場のざわめきもまた、音に導かれるように静まり返る
その瞬間、正面の壇上に立つ司会者が、ゆっくりと口を開いた
「皆様、本日はようこそお越しくださいました。これより、10年に一度の舞踏会《星灯の祝宴》を、盛大に執り行わせていただきます」
その声は魔法で増幅され、会場の隅々まで届く。
私は小さく息を吐いた。どうやら、この舞踏会は、ただの社交イベントではなさそうだ。
「そして本舞踏会の主催者である、エレクトラ帝国が誇るふたりの姫君」
スポットライトのような魔光が、会場の入口から登壇するふたりに注がれる。
「ゼロ第一王女様、そしてワン第二王女様でございます!」
場内に拍手が広がる。
ゼロは落ち着いた微笑みを浮かべ、静かに一礼。
ワンは明るく手を振りながら、少しだけ照れくさそうに笑っていた。
その姿を見て、アーサーがぼそっと呟く。
「なんか、ほんとに別世界の人って感じっすね……」
私は頷いた。確かに、彼らはこの帝国の象徴のような存在なのだろう。
司会者は続ける。
「この舞踏会は、帝国と各地との友好を深める祝宴。そして、未来を照らす《希望の光》を讃える場でもございます。皆様、どうかこのひとときを、心ゆくまでお楽しみください」
その言葉と同時に、楽団がふたたび音を奏で始める。
舞踏会の、正式な開幕だ
私はそっと息を吐き、隣のエクシズに微笑みかけた
「さて……楽しむとしましょうか」
楽団の演奏が、少しずつ軽やかなリズムへと移っていく
フロアの中央が自然と空き、華やかなドレスや礼装を身に纏った人々がゆっくりと集まってきた
そして司会者の声が、再び響いた。
「それでは舞踏会を開始いたします。最初の一歩は、希望と調和の象徴となるおふたりから……」
私は視線を向ける。ゼロとワンが、堂々とした足取りで中央に進み出る。
一礼
そして、音楽に合わせて、ふたりが優雅に踊り出した
とても優雅だ
まるで舞うような身のこなし
特にゼロの動きは一切の無駄がなく、まるで一つの芸術のようだった。
ワンも楽しそうに、それに応じて軽やかにステップを踏む
煌めく夜が、静かに動き出す
また読んでね!




