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第15話 お姫様ってのは、大変ですね

読んでくれてありがとう!

「第二試合──開始!」


審判の宣言が響いた瞬間、ワンは大きく足を踏み込み、背負っていた異様に巨大な剣をずるずると引きずるように構えた

その刃は、彼女の身長の倍はある。持ち上げるだけで尋常ならざる筋力が必要な代物だ


「おい……あの子供、あんなもん持てるのかよ……?」

「いや、そもそも振れるわけがないだろ!」


観客席のさざめきが止まらない

剣を握り直したワンは、笑顔のまま地面を蹴った


「よいしょーっ!」


小さな体が、まるで雷のごとく地を駆けた。

振るわれた大剣の一撃その質量と速度は、対峙するサルドンの戦士魂すら凍らせるほどの破壊力だった


ガアァンッ!!


激しい金属音

サルドンは両腕でメイスを構え、全力で受け止めた


「ヌォッ!?」


腕がしなる膝が沈む

巨体を支える足元に、蜘蛛の巣状のひびが走った


「こ、この力……っ!」


その瞬間、サルドンの脳裏に浮かんだのは、かつて一度だけ見た、“ある人物”だった


「まさか……そんな……貴方は!」


ワンはさらに跳躍し、剣を旋回させる


「《竜巻》だよーっ!!」


風圧と共に繰り出された回転斬撃

避ければ負け、受ければ砕ける

サルドンはとっさに決断する


ズガァン!!


地面に大剣が突き立ち、土煙が上がる。

だがサルドンの姿は、その場から数歩後退した位置にあった


「……やめだ俺は、降参する」


会場が一瞬、静まり返った。


「さ、サルドン選手…?」

「何で……?」


サルドンは、重々しく言った


「その大剣…その構え……そして、その髪の色……

間違いない……あなた様は……帝国の第二王女、エレクトラ・ワン姫だ……!」


どよめきが広がる。


そのとき──


「ワンのバカ」


リング外から呟いたのは、ゼロだった

姿勢よく立ち、冷静な表情を崩さずに


「だから言ったのに……あの大剣は使ったらバレるって……!」


「えへへ〜、つい勝ちたくなっちゃって〜!」


ワンは剣を肩に乗せ、ペロリと舌を出す。


サルドンは膝をつき、拳を胸に当てる。


「姫様と知らず、無礼を働いたこと、どうかお許しを……!」


「え? あ、うん、いいよ〜でもこれからも試合は本気でお願いねっ!」


明るく手を振るワンに、観客席のざわつきはさらに広がる


「勝者、ワン!」


その瞬間、観客席からざわめきが起こった


「おい……今の大剣、見たか?」


「ああ、あれって……帝国に伝わる、王家専用の──」


「まさか……あの子、ワン姫様じゃねぇのか!?」


誰かが言った

その一言が火種となり、観客席全体に瞬く間に広がる


「うわ、マジで!?」「え、本物の姫様!?」「え、じゃあ隣にいる子も……!」


視線がワンの隣、控え席に静かに座っていた少女へと向けられる

ゼロ・エレクトラ、ワンの姉であり、帝国の第一王女


ゼロは眉をピクリと動かしたが、すぐに目を閉じて小さく息を吐いた


「ワン……」


「あ……えっと……ゼロ、その……」


「……だから言ったの、大剣を使えばバレるって、あれほど言ったのに」


「ご、ごめんてへへ……! でもでも! あれ使わないと勝てなかったかもだし!」


「あなたはそれでいいかもしれないけど、私まで巻き込まれるのは迷惑なの」


ゼロの声は淡々としていたが、その瞳には怒りの光が宿っていた


そして第三試合、ゼロの出番……のはずだったが


対するは、グラスタン

だが試合開始の合図が鳴ってすぐ、グロスタンはゼロの剣筋に気圧され、手を止めた


「……や、やはり……! あなた様も、帝国の姫君……!」

「私は…降参します!」


その言葉に、ゼロの眉がほんの少しだけ吊り上がる。


「……やっぱり」


リングを降りたゼロは、控えの通路でワンを見つけるなり、ズカズカと歩み寄った。


「普通に試合したかったのに……」


「うぅ……ごめんなさぁい……ゼロぉー」


「剣を交えるのが目的だったのに、“姫様”だからって逃げられるなんて……!」


ワンがぺこぺこと頭を下げるが、ゼロの怒りは簡単には収まらなかった


「……王女じゃなくて、ただの剣士として戦いたかったそれだけなのに……ワンのバカ、アホ」


静かに、けれど確かに声を震わせるゼロ


その横顔には、戦う者としての悔しさと、姉としての怒りが滲んでいた


「続いて第四試合! ジスト選手 vs ルネリア選手!」


場内に響く実況の声

観客席では、既に強烈な印象を残した“ジスト”の登場に、さらにどよめきが広がっていた


「次はあの仮面の男だ……!」


「さっきのバトルロワイヤルの動き、尋常じゃなかったぞ……!」


対するは、ルネリア

軽やかなステップでリングに立ち、薄紫色の長髪を揺らしながら杖を構える


「あなたの力、試させてもらうわ」


その声と同時に、空中に幾重もの魔法陣が展開される


「パージ!煌粒奔流ルミナス・レイン


無数の光弾が、空からジストに向かって降り注ぐ!

まるで弾幕のような魔法攻撃に、観客からも歓声が上がる


「すごい! 一気に押し切る気だ!」


だが──


「そんなものか!」


仮面の男、ジストは剣を構えると

次の瞬間、地を蹴った


「はや…っ!?」


風を切る音とともに、ジストの剣が横一線に振るわれる

その一撃だけで、光弾を纏めて薙ぎ払ったかと思うと、

まるで爆風を巻き起こしたようにルネリアの体が宙を舞う


ドゴォン!


ルネリアの体は場外の壁に激突し、そのまま地面に落下した


「……試合終了ーっ!!」


審判の声が響く


「し、信じられない……! たった一撃……!?」


「どうなってるんだ!今年の大会は!」


観客は騒然となり、目の前で起きた“暴風のような一撃”に言葉を失う

リング中央では、剣を静かに納めたジストが一礼するだけだった

その姿に、ただならぬ何かを感じた観客たちは

ますますこの謎めいた仮面の剣士に目を奪われていくのだった


そして


剣王大会もいよいよ終盤

観客の熱気は最高潮に達していた


「準決勝、第一試合ワン姫様 vs アーサー!」


名が告げられると、ワンは弾けるように立ち上がった


「やった! アーサー君と戦えるんだね!」


「……本気でやっていいのか?」


アーサーが真剣な眼差しで問いかけると、ワンはにっこり笑って


「うん、全力できてね!」


その言葉に、アーサーも口角を上げて頷いた


「……なら、お前も全力でこいよ!ワン!」


両者、リング中央で対峙する


ワンの手には、再び巨大な大剣が

アーサーは、姫君であることなど忘れ、ただ一人の戦士として彼女を見つめていた


その頃控室にいる私に、ゼロが静かに歩み寄ってきた


「ジストさん」


「あ、あぁなんだゼロ様か」


「お願いがあります私は、普通に戦いたいんです、勝っても、負けてもだから、どうか手加減なしで、お願いします」


その瞳は真剣そのもので、王女という立場を抜きにした、ただの一人の剣士の覚悟が宿っていた


「了解した、ゼロ」


「期待しています」


そう言って、ゼロは静かに礼をして控室を後にした


「……ふう」


試合はまだ先だ

魔法を封じた代償として、現在の私は魔力を完全に0に抑えた状態

周囲の魔力の流れすら、ほとんど感知できない、さっきゼロが入ってきた時も気づかなかった

これ結構不便ですね


……ん?


耳の奥に、微かな“声”が響いた

これは、あらかじめ魔力を残しておいた分身体からの魔力通信だ


『……クロウ様、聞こえますか……警戒を、強大な魔力を持った何者かが、試合会場の周囲に近づいています』


分身クロウの声が、低く緊張していた

彼はあくまで自動的な存在であるが、視覚・魔力感知の能力を一定範囲持っている


「……なるほど。今の私は魔力がないから気づけなかったが……残しておいて正解だったな」


通信は一瞬で切れる


まだ“敵”と断定はできないが……万が一の時は備えておくべきか


私は剣の鞘に手をかけながら、視線を控室の外へ向けた

また読んでね!

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