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イケおじ転生 ~かつての黒歴史で旅をする~  作者: かりかり
異世界は素晴らしい!
11/32

第10話 俺は、生きていくよ

読んでくれてありがとう


……死に場所を探していたわけじゃない

ただ、生きてる理由が見当たらなかった


会社に行って、仕事して、帰って、寝て、起きて、また会社に行って。

何年も繰り返して、いつの間にか「人生」じゃなくて、「作業」になってた


気づけば、休日に何をしていいのかも思い出せなくなってた。

趣味? 夢?

そんなもん、就活で死んだよ

履歴書の行に埋めてから、二度と書くことはなかった


……それでも、別に泣いたことはない

今更感情なんて、邪魔なだけだった


だけど

あの朝、駅のホームでふと考えた


「このまま電車が来なければいいのに」


願った数秒後に、背中を押された

振り返る暇もなく、線路に落ちて、世界がブラックアウトした



目が覚めたら、そこは森の中だった

スーツのまま、靴もビジネスシューズのままだ

意味がわからなかった


俺の頭の中に一瞬だが情報が入ってきた



貴方のスキル


EXスキル 具現武装アームズ・リアライゼーション

“前の世界に存在した武器なら、何でも創り出せる”


EXスキル 戦技自動解析マスター・プロトコル

“創った武器は、即座に最適な使い方が頭に流れ込んでくるまた、戦闘スタイルもその武器にあった適切な物にしてくれる”


よくわからないが昔やってたゲームみたいな感じか


笑う気にもならなかったけど、スーツの袖を捲って、最初に創ったのはナイフだった

まさか本当にでるとは、

俺は次に、拳銃その次に、手榴弾も作った


そのあとも色々つくったな


魔物が襲ってきたとき、それで吹き飛ばした

血と肉が飛び散ったのを見ても、何も思わなかった

昔から、いや、社会人になってから何かを“感じる”ってことが苦手だった

上司の説教も、同僚の陰口も、笑い話も、全部ノイズみたいに遠かった




この世界は、静かだった

銃の音が響くたび、心が落ち着いた

生きている感じがした


だから俺は、この力を磨いて生きていく

魔物を殺し、武器を研ぎ澄まし、誰にも見つからず、森に隠れていた


ずっと、一人だった

けどそれでよかったのかもしれない


……でも


今日、出会った

同じ“日本”から来たやつに……



———


「お前も皆んなと同じだな」


黒目はそう言うと片手を掲げた

空間が歪み、その手の中に現れたのは……


「……次はマシンガンですか」


その場にいた誰よりも、私が一番驚いた

まさか、この世界で現代兵器を見せられるとは


ですが


「ならば、こちらも見せましょう、異世界の“魔法”の力を!」


私は右手を掲げ、風を巻き起こす


「呼応せよ、蒼氷の法則……」


私の足元に魔法陣が刻まれ、空気が冷たく染まっていく


氷結槍アイス・ジャベリン!」


放たれた氷の槍は、空中で三つに分裂し、黒目を狙う

だが彼は、盾を即座に召喚し、受け止めた


「なるほど、対魔法にも即応できるのですね……では、これならどうでしょうか」


私は続けて手を地に突き立て、詠唱を続ける


「燃え上がれ、紅蓮の檻……炎獄牢フレイム・ケージ!」


轟音とともに、彼の周囲を取り囲むように燃え上がり火柱が立ち昇る

これで閉じ込めておければ……


「マグナム……ライフル弾装填完了」


バンッ!

バンッ!!


黒目が放った銃弾が火炎の壁を突き破り、煙を切り裂いてこちらに向かってくる

その動きに、私は小さく目を細めた


「殺す気ですね……貴方には一旦落ち着いてもらいますよ」


私は左手を掲げ、詠唱に入る


「風よ、我が意志に従い刃となり敵を穿て」


風刃乱舞ストーム・ダンサー


無数の風の刃が彼の周囲を切り刻むように展開

彼は銃を投げ捨て、新たにスナイパーライフルを創り出し、すぐさま反撃の構えを見せる


この反応速度……なるほど、即座に“作れる”だけではなく、即座に“使える”のか

武器を創った瞬間、全てを理解するスキル……と解釈していいでしょう


私は舌を巻きつつも、冷静に構えを取り直します


「ならば、こちらも全力でいかせてもらいましょう」


私が詠唱を始めようとした瞬間……!


突如、背後から冷気のような殺気が走った

反射的に後ろを振り返ると――月明かりの影の中から、巨大な魔物の気配が現れる


「気をつけろッ!」


黒目が叫んだ

次の瞬間魔物の姿が消えた


「透明化……!」


魔物の気配が一瞬で消え、次に現れたのはアーサーの真横だった


「アーサー、危ない!」


「ヴァッだ!」


アーサーが紙一重で回避したその瞬間、地面が裂けた

巨大な爪が通った痕跡が、まるで刀で切られたかのように抉れている


「素早いですね」


その姿は、一瞬見えた白銀の毛並みに、真紅の目を持つ巨大な狼

そして再び霧のように姿をかき消す


「我に見えざる世界を見せろ 識界透視〈ヴェイル・シーカー》」


私は詠唱を短く済ませ、少しの間、空間の歪みを可視化する魔法を発動した

すると、そこに人の目では見えない透明な輪郭が映る。


「よし、そこですね」


その位置に向かって黒目も動いていた

暗視グローブのような物をつけて素早く魔物に近づく


「今日で仕留めてやる」


黒目は冷徹にそう言いながら、右手を構えた

刹那、肩からロケットランチャーのような形状の武器が展開され、無数の爆弾が発射される


大地が揺れ、魔物の姿が暴かれる 

負傷したその狼は、悲鳴のような咆哮を上げて私たちの間に跳び込んできた


「敵を凍てつかせろ! 氷結地雷アイスメラク!」


地面に置かれた冷気の罠が、獣の脚を凍らせる


「アーサー!とどめを!」


「はいッ! 《パルススラッシュ》!」


アーサーの剣が閃き、狼の額に突き刺さる

その魔物は低く呻き、やがて崩れ落ちた


森に静寂が戻った


「……これで、肉の盗難犯も判明しましたね」


私はゆっくりと息をつきながら、黒目のほうを見た

しかし彼の眼は、まだこちらを鋭く見据えていた


「それであんたは、俺を殺すのか?」


黒目が再び銃を手に取る

あれは、グロックか

無感情な口調で、こちらに向けている


「だから私達は敵じゃない……!」


引き金が引かれる


「まずい!私を守れ 神壁障界ディヴァイン・シールド!」


私が展開した光の盾が、鋼鉄の弾丸を防ぐが

このままではやられる 


黒目は再度銃を構える


「貴方には……一度、冷静になってもらいます」


私は、両手を広げ魔法陣を描き、詠唱に入る


「影に響く理なき狂騒、魂に刻まれし静謐の契約虚構を覆い、現実を塗り潰す 精神幻縛ソウル・ブレイズ意識を、我に委ねよ」


淡く輝く魔法陣が無数に展開され、黒目の瞳が一瞬揺れる

彼の動きが、止まった


私は、そっと近づく

敵意を一時的に封じたこの魔法が、彼の心に届くことを願いながら


「……落ち着いてください。あなたを害するつもりはない」


魔法の光がゆっくりと消えていく

黒目は動かないまま、静かに、目を閉じていた


「……ん……」


彼が目を覚ましたのは、夜が明ける直前の薄暗い時間帯だった。

焚き火の柔らかな光が、静かにその顔を照らしている。


「……起きたか」


私の声に、黒目がゆっくりと身体を起こす

まだぼんやりとした目で辺りを見回し、それから私の顔をじっと見つめた。


「……貴方……は……」


「私の名前は佐々木勇気、こっちの世界じゃ、クロウ・ナイトレイヴンって名乗ってる」


私は穏やかに言った。アーサーとエクシズは、あえて離れてもらっている

彼と、ふたりだけで話したかったから


「……佐々木さん……」


黒目は、何かを思い出したように、俯いた


「……ごめんなさい……俺……」


「……無理もないですよ、敵か味方かわからない相手に囲まれて、不安になるのは当然だ」


彼の肩が、小さく震えた


「……また、誰かに騙されて、見下されて、最後には……殺されるんじゃないかって……怖かったんだよ……この世界でも……また、同じことになるんじゃないかって……」


ぽつりぽつりと語られる言葉に、私は彼の過去の重みを感じた。

誰にも信じられず、守られず、踏みつけられるだけの人生


「でも……俺が悪いんだ……信じることから逃げてたごめんなさい…本当に」


涙が一筋、頬を伝う


「……ごめんなさい、佐々木さん……」


「……いいのですよ」


私は微笑み、静かに彼の肩に手を置いた


「……君を責めるつもりなんて、これっぽっちもないよ。むしろ……よく、あの世界で生きてきたな」


「っ……!」


黒目の肩が震え、堰を切ったように涙がこぼれる


「俺、ずっと……誰かにこう言ってもらいたかったのかもしれない……!」


泣きじゃくる彼を、私はただ黙って見守った


「なぁ一緒に、来ないか? この世界を旅しに、自分の居場所を、探しに」


黒目は、涙を拭きながら、小さく頷いた


「……いいのか……? 俺みたいなやつでも……」


「君は“俺みたいなやつ”なんかじゃない、これから、変わっていけばいい、それで十分だよ」


「……ありがとうございます」


しばらくして、私は言った


「黒目って名前もこの世界に来たなら、せっかくなら新しい名前にしないか?」


私は、しばらく黙って考えた末に、こう言った


「君は……ヘルガ・パフって名前はどうかな?」


「……えぇ、喜んで…!これから、よろしくおねがいします……佐々木さんいや、クロウ様」

また読んでね!

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