第9話 2人目だ
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ガルマスを倒してから数時間後、私たちは村を出る準備を整えていた
「それでは、クロウ殿、エクシズ殿……本当にありがとうございました、アーサーも元気でな」
村人たちは涙ぐみながら、私たち三人を見送ってくれるさっきまで暗雲が垂れ込めていた空は、今はどこまでも澄み渡っていた
アーサーが元気に手を振り、エクシズは名残惜しそうに村の門を振り返る
「クロウ様……先ほども言いましたが、倒した相手はただの魔物ではありません、あれは」
エクシズの表情が少しだけ引き締まる
「魔王軍幹部、世界に四人しかいない、魔王直属の配下の一人です」
「そう、ですか……」
「ということは……残り、あと三人ですか」
「はい、現時点で確認されているのは四名です、ですがクロウ様がガルマスを倒したので三人です!」
私は少し天を仰いだ……
もう三人しかいないのか……
「……ふむ、もう少し、いてもいいんですがね」
「えへへっ、クロウさん頼もしいですねっ!」
アーサーが笑いながら横に並ぶ
そんな彼が、ふと立ち止まって言った
「ねぇクロウさん、エクシズ姉ちゃん!オレ、行きたいとこあるんだ!」
「行きたいところ?」
「うんっ剣の街、グラシス! かっこいい剣士や凄い剣があるって聞いたんだ! きっと面白いよ!」
「剣の街……なるほど、それは確かに興味深いですね」
私は右手を掲げ、小さく息を吸い、そして詠唱した
「巡りし地脈よ 我が知へと変じ 目に映せ 世界展開術」
空間に魔法陣が浮かび、地形と距離が視覚化されていく
目的地グラシスまでの道のりはかなり、遠かった
徒歩ではかなり時間がかかりますね 私は飛べますが、二人をどうするか…
私達はしばし思案する
空を飛ぶ魔法は便利だが、持続力がないので長時間は飛べない、2人を連れて飛ぶとなればスピードも出せない……そうだ!
「……決めました、馬車を買いましょう」
「ば、馬車っ! かっこいい~!」
「馬車で旅……憧れてましたぁ!」
アーサーとエクシズが目を輝かせる
異世界の旅と言えば馬車ですもんね
牧場に到着した私たちは、手頃な馬車と丈夫そうな馬を物色していた
だが、牧場主の顔はどこか暗く、ため息ばかりが漏れていた
「なんだか困ってるみたいだね」
アーサーが首を傾げながら牧場主に声をかけた。
「……ああ最近、夜になるとうちの貴重な肉や、売り物肉を盗む奴がいる、姿は見えねぇし、足跡も残らねぇまるで幽霊でも相手にしてるようでな」
エクシズが眉をひそめた
「透明化スキルを持っているか、あるいは……気配を遮断する特殊個体の魔物かもしれませんね」
「助けましょう、クロウさん!」
アーサーが拳を握る
彼の目はまっすぐで、迷いがない
「……ええ、困っている人を助けるのは当然のことです放ってはおけませんね」
私がそう返すと、牧場主の目が見開かれた
「お前さん達、助けてくれるのか……? よし!馬車と馬を報酬として譲ろう、ただし、犯人を確実に仕留めてくれよ……!」
「任せてください!」
アーサーは笑顔で親指を立てる
こうして、私たちは牧場の一角に身を潜め、夜を待つことになった。焚き火の明かりが小さく揺れ、夜風が草をざわつかせる
「クロウ様、夜間戦闘の準備はどうされますか?」
エクシズが静かに尋ねてきた
「感知系の詠唱魔法を展開しておきます。気配の遮断はされても、魔力の揺らぎまでは消せないはずです」
私は小声で詠唱を始めた
「澄明なる虚空よ、万象の呼気を見定めよ、魔視領域」
淡く青い光が空間に広がる。これで、範囲内の魔力反応は完全に補足できる。私たちは静かにその時を待った
……そして、夜が深まり、月が高く昇った頃だった
「……来ました」
私の魔視領域に、不自然な魔力の塊が浮かび上がった
まるで獣のようにうごめくそれは、柵の隙間から牧場に出てきた
「アーサー、エクシズ戦闘準備を」
「了解です!」
「任せてください!」
魔視領域に捉えられた存在は、倉庫に忍び寄るように進んでいた。だが、私の放った探知魔法の光が、その姿を一瞬だけ捉える
「……これは」
影のように揺れるその存在が、こちらの視線に気づいたかのように跳ねるように動いた
そして、一瞬でその姿を完全に掻き消した
「消えた……!? どこに?」
アーサーが声を上げる
「気配ごと遮断されていますね、でも……私の魔法の網には引っかかっています」
私は、即座に詠唱に入った
「顕現せよ、不可視の理の向こう側視る者無くとも見通すは我なり 透視魔眼」
魔力の網に引っかかった“それ”の姿が、淡く紫の輪郭として浮かび上がる
「私が先に追います」
「了解です!」
エクシズとアーサーが私の後を追う
私も姿を隠したまま森へと踏み込んだ
そして木々の合間に、確かにそれは立っていた
姿を現した“それ”は、想像を遥かに超える風貌をしていた
「あれは、スーツ……!」
私は驚いた異世界にあるはずのない物があるからだ
夜明け前の月光に照らされたその男は、20代半ばほどに見える
よれたスーツにコート、無造作に伸びた黒髪、痩せこけた顔
顔にはクマが浮かび、焦点の合わない目が私をじっと見ていた
ゆっくりと口を開いた
「…俺は…黒目だ」
その名乗りに、私は胸の内で確信する
やはりこの男も、日本人か
「なぁあんたも……日本人だよな?」
黒目は無表情のまま、ゆっくりと私に近づいてくる。
「ここって……どこなんだ?」
「ここは“異世界”だ、私たちは転生してきた……“死んで”、な」
黒目は少しだけ眉を動かしたが、それ以上の感情は見せない。ただ、納得したように頷いた。
「……やっぱり、そうかなんか、おかしいとは思ってたんだよな」
その瞬間
「こいつが肉を盗んだ犯人か! クロウさん、離れて!」
アーサーが警戒心むき出しで剣を抜き、跳びかかった
「待ちなさい!アーサーッ!」
だが、アーサーは止まらない
黒目は即座に右手を軽く上げ、意識を集中させる
──バシュッ!
光が集まり、彼の腕に“盾”が現れた
それは魔法でも、魔具でもなく……まるで“具現化された兵器”だった
「っ、なんだコレ……!?」
アーサーの剣を受け止めると同時に、左手に“拳銃”が召喚される
バンッ!
乾いた銃声が夜に響き、アーサーの足元の地面が爆ぜた
「……銃!? この世界に、そんなものが……!」
私は驚愕しながら、すぐさま詠唱に入る
「防壁展開・結界装!」
透明な魔力の壁が少しの間アーサーの前に立ちはだかり、次の弾を受け止める
「落ち着いてください!私たちは敵じゃ…」
「……そうやって近づいてきた奴に何度も裏切られた」
黒目が低い声で呟く
「“話せば分かる”なんて、もう信じてない」
──その目には確かに、人間らしい怒りも、悲しみも、どこにもなかった
ただ乾ききった、無表情の静けさがあった。
「俺は……死にたくないそれだけだ」
次の瞬間、黒目の武器が変わる
あれは、アサルトライフル…!
「くっ……!」
「クロウ様、離れてください!」
エクシズが叫び、パージ魔法を展開
瞬間、防御壁が私とアーサーの前に現れた
──ダダダダダダッ!!
連続する銃声
だが、魔力の防壁がそれらを弾き、土煙が夜風に舞う。
「まさか……これが、黒目さんのスキル……」
「悪いが死んでくれ俺の為だ」
黒目は再び銃を構える
また読んでね