第7話 楽しい楽しい遠足当日!
「全身にリア充線を浴びてしまって拙者跡形もなく消滅しそう」
「ただのチェーンのカフェで!?」
「こういうキラキラドリンクを飲むと非リアの魂が焼け爛れるでござる!」
「でも美味しいよ?」
「あ、ほんとだ。普通に美味しい。割高だけど」
遠足当日。私と黒崎ちゃんは遠足をズル休みして遊びに出かけていた。平日の昼間から制服でぶらついてると補導されそうなので私服だ。そもそも今時学生を補導するような警察官はそんなにいないと思う。
今はプライベートが尊重される時代だからね。
「ドリンク1杯900円とか正気の沙汰ではないのでは?」
「こういうのは季節の風物詩なんだよ。江戸っ子の初ガツオと一緒」
「なるほど心意気で飲むものだと」
黒崎ちゃんはすっごく美人なので、周囲の人目を引く。だが口を開けばみんな痛々しいものを見てしまった、と言わんばかりにすいと目を逸らす。こんなに美人なのになんでぼっちの根暗オタクを自称しているのかよくわかんない。
そもそもキャラ作りにしても何故その喋り方をチョイスしたのか本当に謎だ。彼女のライブ配信のアーカイブを観たけれど、Vtuberをやってる時は普通に可愛い女の子喋りができるのに。
「友達と学校サボってキラキラカフェに行くだなんて、拙者まるでリア充みたい! オタクにあるまじき醜態に拙者のキモオタ魂が絞られた雑巾みたいな悲鳴を上げてるでござる!」
「真凛みたいにコラボカフェとか行かないの?」
「マジ!? 真凛氏コラボカフェとか行くの!?」
「奢るからランダム特典目当てについてきて! って頼まれて、何度か一緒に行ったことあるよ。大体いつも大食い大会みたいになる」
「そんな手が!」
遠足をズル休みした理由は黒崎ちゃんと一緒だ。行きたくねー! って思ったから、『ね、こんな退屈な遠足、ふたりで抜け出しちゃわない?』と真凛に言われた通りに声をかけた結果、彼女は盛大に噴き出してしばらくツボっていた。
その結果こうして友情を深められたと思えば逆によかったかも。
「それにしてもまさか、ふゆきち氏までズル休みするとは思わなかったでござる」
「あの班の面子と山登りするのはちょっとね。それなら黒崎ちゃんと一緒にサボった方がマシ」
親睦を深めるための遠足と言われても、深めたい相手かどうかを選ぶ権利はこちらにもある。どうせ来年になればクラス替えだってするのだ。所詮は1年間の付き合い。
「拙者と一緒にいてもつまらぬよ? 最初は無理して喋ろうと頑張るけど結局気まずくなって、無言で互いにスマホポチポチし始めるのがオチっていうか」
「そんなことないよ。黒崎ちゃんは私の悪口言わないし、私の嫌がることもしないし」
「それは人として当然なのでは?」
「当然のことができない奴も世の中には大勢いるからね」
「素直になれないツンデレ幼馴染みを持つと大変すなあ」
茶化すように言うが、彼女が本心からそう言ってるわけではないことは私にもわかった。それだけで本当にありがたいし、嬉しい。うちの母みたいに、本気でそう言ってくる輩には何を言っても無駄だからともう諦めたけど、だからって嫌なことを言われ続けて傷付かないわけじゃない。
「そういうのじゃないってばもう! みんな恋愛ドラマの見過ぎ!」
「拙者ドラマはほとんど観ないでござる! 実写化! う! 頭が!」
「何度訂正してもみんな聞く耳持たないけど、私紅さんのこと普通に好きじゃないんだよね。しょうもない意地悪したり何度もそういうのやめてって言ってるのにやめてくれなかったり。昔っからわりと嫌いだから。それなのにどうしてみんなわかってくれないんだろう?」
「可哀想なマジレスキタコレ。素直になれない好意がここまで空回りするとは憐れな紅氏」
「紅さんに私への好意なんてないと思うよ。じゃなきゃ私に嫌われるようなことばっかりしないでしょ普通。ご近所さんだから親の手前我慢してあげてるけど」
「あー、これは好感度修復は物理的に不可能な奴っすわ。好感度ゲージがマイナスどころかブレイクしてるもん」
「紅さんの話はもういいよ。それよりこの後どうする? 折角ショッピングモールまで来たわけだし、適当にぶらつく? それともなんか映画でも観る?」
「そ、それなら拙者イチオシのインド映画がですね!」
「インド映画かあ。いいね、観よ観よ」
「まさかの好感触!? いいの!? インド映画だよ!?」
「アクションがあり得ないぐらい派手で面白いよねインド映画」
その後黒崎ちゃんとインド映画を観て帰りにフードコートでうどん屋さんのカレーを食べた。本当はビリヤニが食べたかったのだけれど置いてなかった。残念。
「こ、今度一緒に拙者オススメのインド料理店に行くでござる!」
「いいね! 真凛と浦部くんも誘って4人でビリヤニ食べに行こ!」
紅さん、わざとみんなとはぐれてふたりきりで遭難する作戦失敗。




